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電車唱歌
(いしはらばんがく 作歌、 田村虎藏 作曲) 明治38年10月発行
1・玉の宮居は丸の内 近き日比谷に集まれる
電車の道は十文字 まづ上野へと遊ばんか
2・左に宮城 をがみつつ 東京府廳を右に見て
馬場先門や和田倉門 大手町には内務省
3・渡るも早し神田橋 錦町より小川町
乗りかへしげき須田町や 昌平橋をわたりゆく
4・神田神社の廣前を すぎて本郷大通り
右にまがりて切通し 仰ぐ湯島の天満宮
5・いつしか上野広小路 さて公園に見るものは
西郷翁の銅像よ 東照宮のみたまやよ
6・博物館に動物園 パノラマ美術展覧會
忍ばず池畔の弁財天 四季の眺望(ながめ)もあかぬかな
7・浅草行に乗り行かば 左に上野ステーション
走るもはやし車坂 清島町をうちすぎて
8・はや目の前に12階 雷門より下りたてば
ここ浅草の観世音 詣(まう)づる人は肩を摩(す)る
9・五重の塔よ仁王門 水族館よ花やしき
をどり玉のり珍世界 奥山あたりのにぎやかさ
10・さて浅草より上野へと 還(かへ)る電車の道すがら
甍(いらか)の空に聳(そび)ゆるは 名だかき東本願寺
11・電車は三橋のたもとより 行くては昔の御成門
萬世橋(よろずばし)をうちわたり 内神田へと入りぬれば
12・須田町鍛冶町うち通り 今川橋よ本石町
室町すぎて日本橋 さしも都の大通り
13・商家は櫛の歯をならべ ガス燈電燈夜をてらし
通り3丁、4丁目や つづく中橋広小路
14・京橋すぐれば更に又 光まばゆき銀座街
路には煉瓦をしきならべ なみ木の柳風すずし
15・銀行、会社、商館の ならべる大厦(たいか)高楼は
いずれも石造、煉瓦造 目を驚かすばかりなり
16・新橋わたりて左には 同じ名のあるステーション
線路はおなじ大通り 芝の町々走り行く
17・大門町の左には 電車鉄道会社あり
ほどなく高輪泉岳寺 47士のあともとへ
18・さて品川につきぬれば 横浜、川崎、羽根田へと
通ふ電車も開けたり げにも便利のよき事や
19・なほ電鐵には日本橋 本銀町(しろがねちょう)を右に折れ
浅草橋をうち渡り 蔵前すぎて雷門
20・もとの線路を引きかへし浅草橋より道かへて
横山町をとほりすぎ 本町さして還るあり
21・街鐵線は三田よりぞ 芝園橋をうちわたり
左に見て行く公園は 徳川氏の廟所にて
22・松風すずしく園きよく 東宮殿下御慶事の
記念燈あり丸山に 伊能忠敬の碑も建てり
23・愛宕の塔を見あげつつ 幸橋をわたるまに
いつしか日比谷につきにけり いで公園を見てゆかん
24・さても日比谷の公園 池あり丘あり廣場あり
四季の草木を植ゑこみて 市民上下の遊歩場
25・新宿行に乗るやすぐ 櫻田門より下りたたば
二重橋より宮城を ほのかに拝みまつるべし
26・櫻田門をすぐる頃 左に見ゆる建物は
大審院よ司法省 なほもつづける海軍省
27・はやも参謀本部前 たてる馬上の銅像は
ながれも清き有栖川 熾仁(たるひと)殿下の俤(おもかげ)ぞ
28・電車はいつか三宅坂 陸運省のそば近く
右の御濠に宮城の みどりの松の影深し
29・青山行は乗りかへて 赤坂見附、一木を
すぎて東宮御所の前 電車はゆくなり4丁目へ
30・青山墓地へは3丁目 渋谷、氷川の病院を
訪(と)はんとならば4丁目に おりてゆくべし左へと
31・新宿行は更になほ 衛戍(えいじゅ)病院前をすぎ
半蔵門の前よりぞ 左に折れて麹町
32・十町すぎて四つ谷門 見附を出でて大横町
傳馬町より鹽(しお)町よ 新宿さしていそぎゆく
33・新宿驛より甲武線 四ツ谷、市ヶ谷、牛込や
飯田町をばうち過ぎて その名も清きお茶の水
34・その道すがら右左 目にいるものは青山の
練兵場や學習院 士官學校八幡宮
35・外濠線は四ツ谷より 市ヶ谷見附、神楽坂
砲兵工廠前をすぎ お茶の水橋、駿河臺
36・小川町より錦町 鎌倉河岸より常盤橋
左に高き建物は 日本、三井の両銀行
37・呉服橋より鍜治橋と すぐ行く道は八重洲河岸
帝国ホテルを對岸に 見つつ土橋の停留所
38・右に曲がりて程もなく 内幸町とほりつつ
なほゆく先は虎の門 議事堂近く建てるなり
39・赤坂區へと入りぬれば 溜池、田町、たちまちに
弁慶橋もうちすぎて 四ツ谷見附に至るなり
40・また日比谷より街鐵は 数寄屋橋より尾張町
三原橋をば渡りすぎ 木挽町には歌舞伎座よ
41・新富町には新富座 芝居見物するもよし
ここは築地よ名に高き 西本願寺のあるところ
42・北島町や坂本町 茅場町より乗りかへて
深川行は霊岸町 すぐればやがて永代よ
43・橋を渡りて深川區 亀住町にいたるなり
ここに名高き富が岡 八幡宮を拝みべし
44・茅場町より蠣殻町 水天宮の前をすぎ
人形町よ住吉町 濱町河岸の景色よさ
45・はや兩國の停留所 橋をわたれば本所區
左に折れて総武線 高架鐵道十文字
46・又も左に折れ曲り 厩橋をばわたりすぎ
黒船町よ小島町 行くや上野の広小路
47・兩國より更になほ 柳原河岸とほりすぎ
また須田町に来て見れば 實(げ)にや八達四通の地
48・小川町より九段ゆき 靖國神社に詣でんと
東明館の前を過ぎ 俎板(まないた)橋にいたるなり
49・坂をのぼれば左には 西南役の記念碑や
右陸軍の偕行社 見わたし廣し景色よし
50・靖國神社の廣前に 大村、川上兩雄の
いさをも高き銅像は 千代も朽ちせぬ世の鑑
51・遊就館に入り見れば 古今の武器や戰利品
國に尽ししますらをの 肖像たかく掲げられ
52・靖國神社に詣づれば 大君のため國のため
身をつくしたる武夫(もののふ)の 御霊ぞ代々(よよ)を護るなる
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