このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~(2017・日本)

監督:小川太一

脚本:花田十輝

<あらすじ>

吹奏楽コンクール全国大会出場を控えた、
私たち北宇治高校吹奏楽部。
うだるような夏の暑さが去り、秋の涼しげな気配が近づいたころ。
先輩が退部するかもしれない……。
私たちを襲った衝撃は大きく、不安をそう簡単に拭うことができなかった。
美人でカリスマ性があって、ユーフォが上手くて、みんなから頼りにされている「特別」な先輩。
でも、ふとした瞬間に見せる氷のように冷たい表情、他人を突き放すような瞳、誰にも本当の自分を見せない先輩。
「全国に出たい」
誰よりもそう思っているのに、ただの高校生のくせに無理に大人ぶろうとする先輩。
そんな先輩が私は苦手で……、
もしかしたら嫌いだったかもしれない。
だけど私は——。

(公式サイトより)

<感想>

京都アニメーションが製作したテレビアニメ「響け!ユーフォニアム」の2期を下敷きに、主人公黄前久美子と副部長田中あすかの関係性を中心に据えて作られた劇場版。

単なるテレビシリーズの纏めにはとどまらず、テレビシリーズで示唆された2人の関係が掘り下げて描かれている。

ゆえに、2期の前半部分が消失し、のぞみとみぞれ(通称のぞみぞれ)のエピソードがごそっと存在しない。この2人については来年公開の「リズと青い鳥」が作られるそうなので、今回は思い切って端折られた模様である。前回劇場版でも消えるエジョフならぬ消える葵が生じていただけあって、京アニのこうした思い切りの良さには毎度感心させられる。

関西大会直前、あすかが部員を鼓舞するシーンから始まる。後の展開から、ここであすかが全国への執着を見せることが重要な伏線となるのだが、それを冒頭に持ってくることで、「今回の実質的な中心人物は田中あすか先輩であるぞ」と宣言するかの如くである。

そして関西大会の演奏に合わせてオープニング。映画だからこそ表現できる音響の良さを序盤から存分に浴びせてくる。素晴らしい。

その後は文化祭のシーンに飛び、ここでも大瀧詠一の名曲「学園天国」の演奏が楽しめる。ここで、あすかは久美子に「(自分の楽器である)ユーフォニアムのことが好きか?」と問いかけ、タイトル「響け!ユーフォニアム」の意味が今後重みを増す、通奏低音が敷かれるのだった。

そしてテレビシリーズとは時間軸が狂い、文化祭の後に「残暑厳しい中」合宿が行われる運びとなる。

おそらくあすか先輩の演奏を久美子に聞かせるシーンを持ってくるための苦肉の策だが、これだと合宿に希美が参加することになり、画面には一切写らないのだが面白い。文化祭も秋ではなく夏休み明けすぐ、という感じになったのだろうか。文化祭の各クラス出し物パートは尺の都合か残念ながらカットされていて、魔女っ子あすか先輩が見られないのは至極残念である。

その後はテレビシリーズをなぞる展開。しかし新規カットが増え、部員達があすか先輩をどれほど頼りにしているかということがより伝わるようになり、それがかえってあすか先輩の心理的負荷を感じさせるようにもなっている。外では「辞めないですよね?」というプレッシャーがかかり、内では「はよ辞めろや」というプレッシャー(物理)がかかる、この板挟みに耐えるあすか先輩凄すぎる。往年の海部総理のような立場か←

北宇治高校教頭・顧問の児童虐待防止法違反シーンはそのままであった。あすか母、プロダクションIGに出てきそうな顔をしていることに気付いた。

あすか家に行く久美子に栗まんじゅうを持たせる夏紀先輩のシーン、作品全体が真面目なトーンなのでテレビシリーズにあったコミカルさが少し抜けているような気がした。

駅ビルコンサートもきちんと入り、吹奏楽では名作中の名作「宝島」フル演奏はたいへんよろしい。晴香部長がソロをふく宣言、前振りがなく唐突になっているのが少し残念だった。しかしあすかと演奏中に意思疎通を図るシーンが入り、良かった。晴香部長はこのソロを演奏する決意と、あすか不在の間党をもとい部を支えよう演説によって一回り成長し、あすかに頼る感じが減っていく(このあたり香織先輩と違う)のだが、部長が出るシーンがそもそも減っているのであまり部長の成長が実感できず残念だった。

黒沢ともよ渾身の演技が光る、久美子とあすかの対峙シーン(あすか家と学校)はおそらく再録が入っているのだろう、映画館映えする演技で聞く者の背筋をシャキッとさせる。財務省の主査ヒアを彷彿とさせるあすか主査もとい副部長の激詰めに、内閣府or経産官僚らしい若さ(身の程知らずさ)を感じさせる久美子の本心をぶつける展開は大変アツい。

久美子の説得に心動かされたあすかは、タイミングよくもたらされた全国模試30位以内というニュースを武器にあすか副部長は大臣もとい母を説得し、吹部事業継続と相成るのだが、あすかが母と対峙するシーンは原作にすらなく、あすか先輩メインの話を作るのであればぜひ描いてほしかった。。

ここで全国模試30位以内というのは、1位とかいう非現実的な数字でないだけあって、却って大変リアルである。原作者の高校に実際に30位以内がいて、その者が神扱いされながら京大法進学をしたことを下敷きにしたのではないかと推察する。

アニメ初(おそらく)の東名阪亀山ジャンクション描写の後、全国大会では圧巻の演奏シーンが待つ。5分以上は続くのではないかと思われるそのシーン、BDが楽しみである。

そうした渾身の演奏が果たして劇場版ではどのような評価につながるのか、ここは見てのお楽しみとしておこう。

その後は卒部会の様子が流れ、最後の久美子の告白に至る。久美子のあすか先輩への愛を聞き、ああこの物語はやはり上質な百合だったのだなぁという再確認と穏やかな気持ちで、劇場を後にしたのだった。

↑上映前のフォトセッションより。こういう取り組みは素晴らしい。                        ↑声優のサイン入りポスター。

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響け!ユーフォニアム、筆者がここまでのめり込んだアニメは初めてである。

あすか先輩が大変に好みのキャラであった、この1点に尽きるのだが、ユーフォは今後も続いていくようである。あすか先輩が卒業してしまった北宇治は、私にとって正直魅力が薄れてしまうのだが、それでも気になる存在ではあるので、今後も継続して観察を続けようと思う。

途中から危なっかしい政治ネタ霞が関ネタを入れてしまったが、あすか家が「晴子情歌」「新リア王」を彷彿とさせる旧家だったので政治に走ってしまった…

というわけで最後、ネタで締めます。

高村薫版「響け!ユーフォニアム」

『あすか情歌』

北宇治吹部に取り組む夏紀のもとに、京大のあすかから届き始めた大量の手紙。あすかの半生を告白するその手紙の中には、彼女の見知らぬあすかの姿があり、近代日本が忘れ去ろうとしている履歴がつづられていた。しかしあすかはいったい何を後輩に告げようとしているのか。あすかとは一体、何者なのか。

『新ユーフォ王』

先輩と後輩。その間に立ちはだかる壁はかくも高く険しいものなのか——。近代日本の「終わりの始まり」が露見した北宇治と、周回遅れで吹奏楽がらみの地域振興に手を出した京都府。吹部一家・瀧王国の内部で起こった造反劇は、怒号降りしきる構内最果ての熊野寮で、先輩から後輩へと静かに、しかし決然と語り出される。『あすか情歌』に続く大作長編小説。

高村薫ほどアニメが似合わない作家はいない気がしますが、個人的には「リヴィエラを撃て」がノイタミナ・プロダクションIG製作でアニメ化されてほしい。

おわり

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