このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

ジャージー・ボーイズ(2014・アメリカ)

 Youtubeで動画を見るとき、再生前に広告が入ることがある。たいていは広告を飛ばせるようになるまで、5秒間じりじりと待つのだが(金貸しの広告など最悪である)、この映画の予告の時は飛ばさずに逆に見入ってしまった。

 ニュージャージー州の貧しい地区で生まれ育った4人の若者、フランキー・ヴァリ、ボブ・ゴーディオ、ニック・マッシ、トミー・デヴィートはそれぞれ理容師の見習いやギャングの下働きをしながらも、グループを組み、地元の酒場で歌いながら、チャンスをつかんで町を出ることを夢見ていた…。

 開幕早々、登場人物の1人が観客に向かって語り掛けてくる。なるほど、ミュージカルなのだなと思わせる場面である。このとき映る60年初のニュージャージーの町並みは、セットを頑張って作って当時の車を並べました!という雰囲気が強く、硫黄島や星条旗での気合いの入った再現と比べると物足りない。しかしこの作品は当時をいかに再現するか、ではなく貧しい4人の若者が世界的なグループになって苦労する過程を描くものであるし、元はミュージカルなのだから、むしろこれくらいのセット臭さがあった方がいいのだろう。もちろん不自然という感じは全くない。ラジオ局がヒットの趨勢を握っていて、テレビといえばモノクロ、という60年代初めのアメリカエンタメ業界をきっちり再現し、物語に取り入れている。黒電話をスタジオとつないで録音する、という場面も登場する。なお登場人物達はこの後も、節目節目で入れ替わりながら、我々観客に語り掛けてくるのだが、それはうるさくなく、物語をきれいに動かす潤滑油のような役目を果たしている。このテンポの良さとふんだんに盛り込まれたフォー・シーズンズの曲のおかげで、2時間15分という少し長めの上映時間も全く気にならない。

 肝心の歌はどうか。これは文句なく素晴らしい。特にヴァリのファルセットの再現は大変だったと思うが、ヴァリ役のジョン・ロイド・ヤングはこれを上手くこなしていた。ヴァリ本人の曲とはまた違った、張りのある若々しい感じで(ちょっとした生意気さも混じる)、サントラを購入して原曲と聞き比べるのもまた楽しいかもしれない。このヴァリのソロで、もっとも有名な曲が「君の瞳に恋してる(Can’t take my eyes of you)」だが、この映画ではこの曲が盛り上がりの最高潮に配置されている。私なんかは、映画館が空いていたこともあって思わず足で音を出さずにリズムをとっていたが、この映画を見てこの曲に乗れずに終わる人はいないのではなかろうか。この曲の登場する経緯は現実とは異なり、「ジャージー・ボーイズ」の創作だそうだが、その試みが成功していることは明白だろう。

 いよいよ季節が秋になる中で日本に上陸したこの作品、観るだけで耳が幸せになること請け合いな、芸術の秋にふさわしい一本である。イーストウッド監督の作品にまた新たな1本が加わった。

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