このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

シン・ゴジラ(日本:2016)

総監督、脚本、編集:庵野秀明

(あらすじ)
 東京湾のトンネルが突如崩壊する。官房副長官の矢口(長谷川博己)はすぐに動き、閣僚が集められる。しかし巨大生物の出現という未曽有の事態に官僚機構は即応できず、有効な対策が打てない。その間に巨大生物は市街地に上陸。首相は自衛隊に攻撃を命じる。
 首相補佐官・赤坂(竹野内豊)の計らいで、矢口の元に各省庁の異端児を集め、対策チームが作られる。事態を重く見た米国は大統領特使カヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)を送り込み、日米共同作戦を準備する。一方、再上陸した巨大生物「ゴジラ」は自衛隊のミサイル攻撃をものともせず、都心へ向かう。
日本経済新聞2016年7月29日夕刊文化面 より)


↑日本に1か所しかないIMAXシアターで観ました。素晴らしい音響と迫力のスクリーン!

(感想)
 日本映画やドラマは、時として分かりやすさを追求するあまり、説明がくどかったり専門用語があまり使われないこともある。
 しかし、この作品はそんな配慮を一切せず、まるで現実にゴジラ(巨大不明生物)が出現した時の政府の対応を映したドキュメンタリーを見ているかのようである。
 多くの官僚・政治家が出てきて、専門用語や役所用語が容赦なく飛び交う。ゆえにテンポが非常によく、見ていてとても気持ちがいい。法的にクリアしなければならない課題を一つ一つ議論している官僚の姿は大変リアルである。子供向けではなくなってしまったが…。
 肝心の対ゴジラ決戦も見ごたえ十分。自衛隊が機銃から機関砲、誘導弾、ミサイルと火力を上げて慎重に許可を得ながら攻撃していくのは大変リアルだし、戦車や自走砲の一斉射撃も見ていて快感である。三沢のF2が飛来する、富士の裾野からMLRSを撃ち込むのもスケールが大きくて面白い。なお一緒に見に行った高校の先輩に「三沢でなく百里の方が近いのでは?」と聞くと、F2は三沢にしかいないからねぇという返事を得た。やはり詳しい人と見に行くと楽しい。
 しかし自衛隊の通常兵器が効かず、とうとう安保条約に基づき米軍が出動。米軍機B2の放つバンカーバスターが命中、やはり米軍だと歓喜する閣僚の姿には、米軍抜きでは国防はままならないのかと少し寂しさも感じた。もっともこの米軍機は要請前から赤坂(米大使館)防護のためグアムを出撃しているので、あの国は同盟国すら信用しないのだなぁ。
 話はそれるが、米国が尖閣諸島を安保法の対象であると明言すると、我が意を得たりと日本が中国に対し必要以上に強気に出ることを米国は懸念しているという。ゆえに尖閣諸島については、日本の「施政下にある」という留保をつけて同条約の適用を明言しているという話もある。日本は占領され、基地を置かれ、アメリカの傘からは逃れられないゆえに、アメリカの理解を取り付けることにとても必死になるのだろうか。
 今回の映画では、核攻撃を辞さないアメリカを、フランスに「文字通り」頭を下げてけん制してもらう描写が出てくるが、現実でもこれくらいの駆け引きはやっていることを願う。なお安保理五大国であるはずのイギリスは話にすら出てこない。国民投票でそれどころではないからね、仕方ないね。

 ゴジラが残した放射性物質への対応や、住民避難の様子など、3・11の災害の経験が多く反映されている。枝野元官房長官が協力しているのもうなずける。一般市民(脱原発派?)が線量を測ってネットに各自アップする描写には引き攣った笑いがもたらされる。官邸前「ゴジラを殺すな」デモの騒音描写もある。つくづく現代を切り取っている。
 協力先には防衛省・自衛隊をはじめ内閣府や国交省、海保、消防庁といった災害対策の関係機関が名を連ねる。庵野監督の細部へのこだわりもあり、節電して薄暗い部分の再現を除けば完璧に近い役所内の映像には、行政ヲタクの私も大満足である。
 在日米軍の動きや国際社会からの圧力も盛り込まれ、これはもはやゴジラを主題にしたポリティカルサスペンスである。
 最近元気がないように見える邦画界から、こんな素晴らしい快作が飛び出してきてくれたことに単純な嬉しさを覚えた。撮れるじゃないか、我が国にだって!

追伸:監督が監督なので「もはや実写版エヴァなのでは」というシーンもBGMも多々ある。ヤシオリ作戦ってなんだよ…!と思ったら「ヤシオリの酒」という故事があり、ヤマタノオロチに呑ませた酒のことだという。ヤシマ作戦のもじりかと軽くバカにしてすみませんでした…

追伸その2:ゴジラが最初に陸上に上がった時の形態、最高にキモかったです。喉に謎の袋を引っ提げた黄土色のトカゲ様の生き物が眼をぎらぎらさせて道路を疾走してくる姿、恐怖しかない…

追伸その3:東京湾アクアラインが襲われた最初のシーン、気の抜けたような一般市民カップルの声やニコニコ動画調の実況映像が出てげんなりしたけど、そういう興ざめする画はほんとに最初ちょこっと出ただけだったのでよかった。あれ無くてもいいような気がする。

おわり

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