このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

たまこラブストーリー(2014・日本)



京都アニメーションが製作し2013年にテレビ放映したアニメの映画化作品。監督は「けいおん!」の山田尚子。

テレビ放映時は、いわゆる日常系アニメと呼ばれるジャンルに分類され、主人公が住む商店街の日常と主人公の通う学校での生活が描かれていた。
しかし内容はテレビとは大きく趣を変え、主人公とその幼馴染の恋愛を丁寧に描き出している。


【あらすじ】
主人公の北白川たまこ(声:洲崎綾)はうさぎ山商店街にある餅屋「たまや」の娘。幼いころに母親・ひなこ(声:日笠陽子)を亡くし、祖父である福(声:西村知道)と父・豆大(声:藤原啓治)の経営する家業の餅屋を、妹・あんこ(声:日高里菜)とともに手伝いながら日々過ごしていた。

そんな「たまや」の向かいには、同じ餅屋である「RICECAKE Oh!ZEE」が店を構えていて、その店の一人息子・大路もち蔵(声:田丸篤志)とたまこは幼馴染だった。

たまこともち蔵が高校3年生の春。幼いころからたまこに好意を寄せていたもち蔵は、大学進学で故郷を離れ上京することをきっかけに、たまこにその想いを伝えることを決意する。

しかし決意はしたもののなかなかタイミングを
つかめない。同級生でたまこと共通の知人である常盤みどり(声:金子有希)の後押しで、ようやく告白するが…

【感想】
実を言うと、そこまでの期待をせずに観に行った映画であった。
しかし実際は、予想を上回る出来の、丁寧に作られたラブストーリーが観られた。

いわゆる幼馴染は、現実では上手くいくことの方が少ないだろうし、はっきりしないままずるずると男女関係に至るなんてこともあるかもしれない。

しかしフィクションでは、幼馴染が恋愛に発展する過程と言うのは、ひとつのジャンルを形成するほど描きがいのある物だ。

とくに本作では、たまこはもち蔵のことを異性としては見ていなかった。しかし告白によって、目の前に彼が男として顕在化するのである。その時のたまこの狼狽ぶりと言ったら…。この作品はそれをコミカルに、上手く表現していたと思う。

それからの彼女がどのように答えを出すか、それが彼女の「成長」として描かれている。
接し方が分からない、どう受け止めればよいかわからない、自分の気持ちはもう固まっているはずなのに、上手く表現できない…
ラブストーリーではやや定番とも思える過程だが、これを変にねじらずに、ストレートに表現しつつも、アニメという表現自由度の高さ(現実ではおよそあり得ないが、アニメでは許されるオーバーな表現)を生かした作りは称賛に値する。

また、たまこの脇を固める友人や妹も、たまこの恋を直接的にも間接的にも支えていく。女の子同士のこうした心地よい連帯感の強さは観ていて頼もしい。個人的にはかんな(声:長妻樹里)が頼もしく、また一番面白かった。
そして、たまこの成長の後ろで描かれる友人たちの成長も見逃せない。高3という、人生が最も変化するであろう時期は表現が難しく、ともすれば既視感のある作品になってしまいがちだが、この映画は「高校三年生の時期」をその空気まで受け手に伝わるように上手く描いていて好感が持てた。パンフレットによれば「映画」の質感を目指す絵作りをしたそうだが、その丁寧な描き方がそれに一役買っているのではなかろうか。

そして一番心動かされたシーンは、自身の父が母に告白するために作った歌をたまこが聴いていると、母の歌に対する答えが流れてくる、というところである。
なかなか返事を返せないたまこの、一番背中を押すきっかけになるのが、この今は亡き母の声というのが、この作品の白眉ではないかと感じた。
母親の不在で、女性としてのロールモデルがいないことが、たまこに影響していたのでは、と推測できる。だからこそ、ここで「母も同じ経験をして、そして答えを出していたんだ」と知ることが、たまこにとってどれほどの力になったのかは、本作のその後を見れば一目瞭然である。

なお、鉄道ヲタク的には、ラストの大事なシーンでVVVF音が流れてくるのがツボであった。
あれはリアルだが賛否両論出そうだな…と感じた。


おわり

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