このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

スリー・ビルボード(2017:アメリカ)

監督・脚本

マーティン・マクドナー

出演

フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルほか

〈あらすじ〉
 
アメリカはミズーリ州の田舎町エビング。さびれた道路に立ち並ぶ、忘れ去られた3枚の広告看板に、ある日突然メッセージが現れる。──それは、7カ月前に娘を殺されたミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)が、一向に進展しない捜査に腹を立て、エビング広告社のレッド・ウェルビー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と1年間の契約を交わして出した広告だった。
 自宅で妻と二人の幼い娘と、夕食を囲んでいたウィロビー(ウディ・ハレルソン)は、看板を見つけたディクソン巡査(サム・ロックウェル)から報せを受ける。
 
一方、ミルドレッドは追い打ちをかけるように、TVのニュース番組の取材に犯罪を放置している責任は署長にあると答える。努力はしていると自負するウィロビーは一人でミルドレッドを訪ね、捜査状況を丁寧に説明するが、ミルドレッドはにべもなくはねつける。
町の人々の多くは、人情味あふれるウィロビーを敬愛していた。広告に憤慨した彼らはミルドレッドを翻意させようとするが、かえって彼女から手ひどい逆襲を受けるのだった。
 
今や町中がミルドレッドを敵視するなか、彼女は一人息子のロビー(ルーカス・ヘッジズ)からも激しい反発を受ける。一瞬でも姉の死を忘れたいのに、学校からの帰り道に並ぶ看板で、毎日その事実を突き付けられるのだ。さらに、離婚した元夫のチャーリー(ジョン・ホークス)も、「連中は捜査よりお前をつぶそうと必死だ」と忠告にやって来る。争いの果てに別れたチャーリーから、事件の1週間前に娘が父親と暮らしたいと泣きついて来たと聞いて動揺するミルドレッド。彼女は反抗期真っ盛りの娘に、最後にぶつけた言葉を深く後悔していた。
 
警察を追い詰めて捜査を進展させるはずが、孤立無援となっていくミルドレッド。ところが、ミルドレッドはもちろん、この広告騒ぎに関わったすべての人々の人生さえも変えてしまう衝撃の事件が起きてしまう──。

〈感想〉
 新年2本目の映画として、日経映画評で興味を惹かれたので鑑賞。
 アメリカ・ミズーリ州の片田舎にある架空の街を舞台に、娘を殺された母親の復讐劇かと思いきや、彼女の行動が周囲に広げる波紋を描いた良質な人間ドラマだった。
 GTA5並に暴力とフォーレターワードが散りばめられており、骨のある作品である。

 冒頭、ミルドレットが広告社に入っていくシーンでは、その後彼女が対峙していく警察署が肩越しにピンボケで映されており、カメラワークが凝っていると唸らされる。

 登場人物に無駄がなく、ある場面で語られた内容が別のシーンに生きたり(署長からミルドレットへの手紙の内容と、酒場での会話を耳にするシーン)、モブ役だと思っていた黒人が重要な役目を果たしたり(ポスター張替えお兄さん)、気が抜けない絵作りとなっている。

 銃が簡単に手に入るミズーリでミルドレットが手にした武器が火炎瓶なのは、娘が焼き殺されたことに呼応しているようだった。
 田舎ゆえか、携帯電話がほとんど登場しないのも最近の映画では新鮮だ。

 狭い田舎でいろいろな人が交錯する物語なので、舞台劇のようでもあった。
娘の死が底流としてあるため、作品のトーンは重い。しかしブラックユーモアにもあふれ、思わず笑ってしまうシーンもある。よく出来ていると思う。
 現代アメリカの諸問題に結び付けた感想も多く、実際意識はしていると思うが、この作品の肝は、どんな時代にも通じる、「更生」と「赦し」なのではないかと考えた。

 警察を辞めることになったディクソンとミルドレットが、オハイオアイダホへある種破滅的な旅に出ることでロードムービー的な展開を期待させつつ物語は幕を閉じるが、何者にも罰せられない(と彼らが思う)人間に直接手を下しに行く、というのはなんという南部流だろうか。(アイダホ州だったのをオハイオ州と勘違いしていた。ミズーリ→アイダホとかクソ田舎発クソ田舎行きだな。両ダコタ州を行き来するみてぇだ。)

 ちなみにアメリカ警察オタク視点から見ると、ティーンエージャーのレイプ殺人なんて片田舎の警察任せではなく、最低でも郡保安官が出てくるか、州の犯罪捜査部(CID)が介入する事案なのではないかと思った。
 署長の交代要員として赴任した黒人警察官が郡保安官っぽいバッジをつけてはいたが。
目の前で広告屋がボコられていたのに逮捕もしなかったので、なかなか凄まじい。。

 これを書くためにちょっと調べたらミズーリ州は高速道路警邏隊(ハイウェイパトロール)を有していて、その中に犯罪捜査部門(刑事捜査局:Criminal Investigation Bureau)があるようだった。州公共安全局高速道路警邏隊刑事捜査局とでも訳すのか、なげぇ。ハイウェイパトロールの刑事部門、と書くと高速道路内での犯罪に限られてしまうように思えてしまうから州警察刑事局とかでいいな。ミズーリが舞台の警察小説は今のところ読んだことはないが。(CIDはワイオミングが舞台のジョー・ピケットシリーズからの受け売り)

おわり

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