このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

パリのトラム


ここ数年、パリに隣接する近郊市街に新しいトラム(路面電車)が開通しています。
トラムと言うと過去の乗り物、衰退するものという印象がありますが、もともと鉄道馬車などが発展して出来た市内交通であり、パリのようなメトロの発展、バスや自家用車との競合などにより、資金難や交通渋滞を招いて結局廃止になるケースが多いのです。
とはいえヨーロッパの主な街ではいまだにトラムは現役で動いています。旧型はもちろん新型の車両も市民の足として動いていますが、現在の考えでは経済的な理由もさることながら、むしろ環境的な理由、つまり騒音が小さい・排気ガスがないことから、バスに変わる交通手段として再びトラムが見直されているようです。
パリ郊外の新設トラム、そして2つの延伸計画 〜 近郊を取り囲むグランドトラム計画およびPCを復活させるパリ外周トラム計画 〜 は、それらの理由として新たに生まれ・また生まれつつある新しい公共交通の姿です。
ここでは現在ある2つのトラムその他の様子、及び延伸計画を紹介します。


トラム1番線

Bobigny-Pablo Piccaso (メトロ5番線終点ボビニー市)から Gare de Saint-Denis (RER−D線および郊外線のSaint-Denis駅、サンドニ市)を結ぶパリ近郊北部の下町を走る路線。
個性的な近代建築のビルが並ぶボビニー市を過ぎ、車道と並行してトラムは走ります。
途中の沿線には近郊の公園クルヌーヴの森と、歴代王家の墓で知られるサンドニの大聖堂(バジリク)があります。

クルヌーヴのレンガ造りの常設市場と教会。

沿線随一の名所、サンドニの大聖堂。
大聖堂および街の名は3世紀の聖ドニ神父の名を冠したもので、モンマルトルの丘で斬首刑になった後、その切られた首を持って北へと進み、この地まで歩いた末に倒れたという伝説に基づいています。
フランスゴシック建築の初期の聖堂で、素晴らしいステンドグラスが見られます。
そして聖堂の奥には歴代フランス王家の墓があり、王たちの棺が安置されています。


トラム2番線

この路線はトラムと銘打ってはいるものの、路面電車ではなく全て専用軌道を走る完全な郊外電車の形です。
昔の近郊線が一度休止線になった後、近年トラムとして復活しました。

セヴル付近の昔の様子。古い絵葉書より。

PC同様今では使われていないかつての旧駅舎をそのままトラムのホームにリニューアルした駅が数多く、将来PC上にトラムが走る際の姿を想像する上で大いに参考になります。
写真左はSuresnes Longchamp駅、右はLes Coteaux駅。
駅舎自体は使われておらず、ホームのみで成り立っている構造。バス同様切符は中で切るのがトラムの特徴。

ラ・デファンスのグランド・アルシュをはじめ、車窓から眺めるエッフェル塔とパリの夜景は格別。
旅行計画ならヴェルサイユからの帰りにこの路線と併走するSNCFの郊外列車はぜひお勧め。
サン・クロード公園や国立陶芸美術館など、郊外電車ならではの途中下車小旅行の楽しみもあります。

パリ新都心ラ・デファンスのグランド・アルシュ(新凱旋門)。トラム2番線はここが起点。

同名のMusée_des_Sèvres駅(旧駅舎に書かれている旧駅名はPont des Sèvreつまりセヴル橋。)を降りてすぐ見える、国立陶芸美術館。
おそらく昔の城を美術館にしたもので、中はとても美しい陶器がずらりと並びます。
美術館としての鑑賞はもちろん、中には売り物のお皿の展示室もあり。(でもびっくりするほど高い!)

余談ですが、このセヴルはフランスで最初の磁器工場が生まれた町で、今でもセヴル焼きとして有名です。
その昔、磁器は中国のみが生産でき、西洋ではシルクロードを通って伝わったものが非常に重宝されました。イタリアのマジョルカ焼やオランダのデルフト焼など、白地に青の彩色をした陶器は作られましたが、磁器には到底かなうものではありませんでした。
そのうち18世紀になってザクセン(現在のドイツ東部)でヨーロッパ初の磁器の製造が成功し、ドレスデンに近いマイセンに工場が作られました。
その後産業スパイなどによりフランスにも技術が伝わり、ルイ15世の愛妾として一世を風靡したポンパドゥール夫人の手厚い保護により、ここパリ郊外のセヴル村に磁器工場が作られました。
セヴルの技術はやがてリモージュに伝わり、有名なリモージュ焼として大量生産されてフランス全土に磁器が普及しました。
セヴル焼の特色はその彩色の豊かさにあります。(ゆえに高い!)この国立陶芸美術館のセヴル焼に描かれた美しい絵の数々を見ていると、その高い彩色技術に感嘆します。

工場への引込線の跡。レンガ造りの橋が美しい。

何と言ってもこの路線の魅力はセーヌ川に沿って走ること。
ブーローニュの森を挟んでパリに隣接する高級住宅街ムドン市のあたりを走る部分は特に落ち着いた雰囲気で、パリ市の喧騒の中とは全く違う姿のセーヌの魅力を見せてくれます。


TVM (Tramway Val de Marne)

メトロの構内に貼ってあるイル・ド・フランス県の近郊路線図に、「いかにもトラムらしい」TVMなるものを見つけ、気になってはいましたが・・・実際行ったら、バスでした。残念。
つまりかつてのパリ近郊マルヌ川に沿って走るトラムの軌道跡に作られた専用道路を持つバス。まあトラムと言うものは、こういう運命はよくあるものです。
が、この路線は2015年のグランドトラム計画に含まれており、近い将来本当のトラムとして再び復活する可能性は多いにありそうです。


Orly Val

オルリー空港とRER−B線Antony駅を結ぶモノレール。


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