これが中村精密の蒸機!
*昔々その昔・・・
1980年中村精密がNゲージミリオンシリーズとして、全金属製蒸気機関車C51の製品化を宣伝しました。
当時Nの世界で蒸気機関車は関水金属の独壇場。
TOMIXのC57・エンドウの9600が製品化された前だったか後だったかは忘れてしまいましたが、
・・・とにかく発表当時の宣伝ポスターの、C51公式サイドのイラストは衝撃的でした。
(発売直前のチラシを過去にG-PIT@の表紙に載せた事があります。)
発売を目の前にした頃、中村精密はこの製品が「キット中心である」事を謳い(記憶なので実際は?ですが)、
「誰でも作れる金属製品」と製品車体の写真が公表されました。
自分はこの写真をロストワックス製と勘違いして見てしまった事もあり、
増してや第2弾のC53があることも記載され、シリーズとしての期待と共に大変な興味を持ってしまったのです。
しかし実際にはロストではなく・・・はんだでは溶解の恐れもあるホワイトメタル、
ボイラー周りの梯子まで一体成型、お世辞にも精密とはかけ離れた車体、
エッチングによるディテールが今ひとつのキャブ、
テンダーのキャブ側妻面の表現の乏しさと、その広い間隔に見える金属ドローバーの安っぽさ・・・などなど、
完成品も有ったけれど、誰でも作れると謳ったキットはプラ製ほど安価でなく、
はんだ付けも出来ないホワイトメタルならば、プラ製で作った方が良かったのでは?と問うてしまうものでした。
金属製のくせにこの表現は無いだろ!若い頃はそう思いました・・・写真はC51
時が経ち・・・このシリーズは、現在モデモが完成品として発売する精巧な客車キットと共に、
C54やD51のスーパーナメクジ、コアレスモーターを使用したエッチング車体のC12やC56まで発展し、
終焉してしまったのでした。
*当時C53のキットを手にして・・・
自分がC53のキットを手にしたのは、このコアレスモータ仕様発売の頃だったでしょうか?
その頃にはラインナップの数ではKATO製蒸気を抜き、中村精密の特異な世界が確立されていました。
大きな縮尺でまとめられたその世界は、ただ単に機種を増やしている訳でなく、
材質上荒っぽいディテールと細すぎる端梁に目をつぶれば、各機種とも大変良く特徴をとらえていました。
どこから見てもその型式である事がわかる。
H0並に先輪まできっちり抜けた金属製のスポーク車輪、ボックス車輪・・・衝撃的でした。
1/150に捕われない蒸気の世界に於いては、全く恥ずかしくない模型だったと思います。
ただ・・・簡単には買えなかったのも事実。
当時の製品としては、キットでも高い。
中村精密の蒸気機関車の製品が終焉を迎えつつあった198?年頃、
兼ねてから欲しかったC53キットの売れ残りを、あるHOメーカーの店で見つけ、衝動買いしました。
自分の知っている世界とは違う世界の車輌が組める!という、大変な興味と期待があったのでした。
動力はテンダーモータ/テンダードライブ。
難しい機関車側のロッド周りはメーカー組み立て調整済みとあって、
確かに・・・誰でも簡単に組み立てられる事は、瞬時に分かりました。
しかしながら開封と同時に、その期待は一気に引き潮となってしまったのです。
生産末期の頃の製品で、金型も痛んでいたのでしょうか?
私の購入したC53キットは、ボイラーの表面が細かな穴だらけで、
一体成型の手摺類は曲がり、手摺とボイラーの付け根には、ダイカストの屑が付着していました。
粗悪な表面のボイラーは、それだけで興ざめ。。。
増して、ランボードよりもボイラーそのものが反り返り、密着させる事が難しい。
材質がホワイトメタルと言う事で、形態を修整するにはかなりの勇気が要りました。
購入時には、「中村精密の世界」と割り切って購入した事も忘れ、HO同等の精密な物を望んでいた当時には、
高価なキットは、一瞬にして愚劣物になってしまったのです。。。
ヤケになった私は、C53の長過ぎるエンドビームをぶった切り、ボイラーのパイピング類を全て削り取り・・・
キャブとシリンダーにKATOのC50現行品の部品を調達し、細密化加工を計画したのですが、途中で中断。。。
その後、このキットは実家のどこかに部品が散乱し、20数年間の眠りに付いているのです。
*完成品との再会
すっかり前置きが長くなりましたが・・・
2006年秋、都内のある模型店に、新製品を購入しに行ったときのこと。
購入後その店を出ようとすると、委託販売品として中村精密製C51と53の両雄が、
肩を並べて置いてあるではないですか。
それを見た当初は、ただ「懐かしい!」と思うだけで、帰宅の途に着きましたが・・・、
店を出てからず〜っと・・・・・・たった今見た両雄の事が、頭から外れてくれません。
「もう一度戻ろう!」
約30分後、模型店に戻ってみると、まだあるでは有りませんか!
自分の常識では、このような製品があの価格で店頭に出て、10分も放っておかれるなどというのは奇跡です!
C53は、実家に作りかけ(部品残っているかな〜)のキットがあるので・・・「C51の購入だ!」
沸き上がった興奮はすぐに店員を呼び、ショーウィンドからC51を取り出してもらい・・・
そしてその最中に、
「こっちも!」とC53も合わせて指差していたのです。
C51。ナンバープレートは銀河モデルが発売しているマイクロ用を付ける予定です。
C51はナンバープレートが無く、ロコ側とテンダーを結ぶドローバーは、なぜかロコ側の方が溶解し、
・・・綺麗によじってある集電コードがドローバーの役目を果たしています。
ブレーキシューが2箇所のみ装着で残りは紛失していました。
C53はナンバーもしっかりと付き、変則的なブレーキシューも完璧に付いて、下回りがしまっています。
両機とも元箱はありませんが、しかしそんな事はかまわないのです。
すぐさまレジに並び、この両雄を購入すると、
帰宅するまで心の中で「ようこそ我が鉄道に!」の大セレモニーが駆け巡っていました。
*25年振りに手にし思う事。。。
家に持ち帰るや否や、時間が経つのを忘れるほど眺めてしまいました。
完成品としては初めて手にしたこの2輌は、初回製品なのでしょうか、
C53のキットで減滅を感じた素材表面の粗さも無く、実に綺麗です。
私が手にしたキットは無塗装でしたが、今回は完成品、
綺麗に艶の無い黒い塗装に纏われて目の中に飛び込んでくるせいなのか、
当時この製品群に感じた素材に対する不満も、エッチング製のキャブに対する不満も、全く感じません。
2006年現在、製品化される金属製蒸気機関車が1/150に徹していても、縮尺に対する不満は皆無です。
それどころか、蒸気を知らない世代?には受け入れられる、
ボイラーが太く、腰高になってしまった特定ナンバー機の他社製品が、
再生産の予測すら出来ない販売方式の為か、高額で中古取引される現在、
この製品は(当時から形態的に成功しているKATO製品を研究したのかどうかは不明ですが)、
C51はC51、C53はC53、とどう見てもすぐわかるほど、非常に形態が良いのです。
C53。過去に購入したキットは材質に嫌気がさしたが、思いもよらず完成した姿で飛び込んできた1輌。
そして・・・テンダー動力とスポークの見事に抜けた金属製車輪。
本来エンジンのくせに、この製品ではテンダーに押される動輪を、手で回してみてください。
決して軽くないその感触は、果たしてテンダーに押されてロッド類が追従するのか?と不安になります。
・・・ところが線路上に置き、発進させると、低速でも非常に良く追従する。
エンジン側にも十分な重量があるためなのだろうか・・・と、ちょっとした感動を覚えます。
左:鍛造製か?この質感・抜けたスポーク!(C53)
右:当時新鮮のはずだったバックプレートの表現も
キットの質の悪さに表現が甘い!と激怒した事が懐かしい・・(この写真はC51)
走行音は非常に中村精密製的に静かです。
この静かさは、同じドライブ方式のエンドウ製9600に似通っており、
メタルの塊だからか・・・「これが機関車の走りだ!」と線路をゴリゴリと駆け抜けているかのようです。
(勿論、削っているわけでなく実際は滑るように走ります。)
まるで自分が高い山の上から実機を眺めつつ、
近くに走って来ると、勝手に頭の中でドラフト音を想像してしうのです。
たまに走行中、何か引っかかったのか・・・動輪・ロッドが一瞬停止し、
滑って走るお茶目なところも見せてくれますが。。。
おお〜っとここで発見!
最初に発売されたC51は、テンダー台車の車輪にも、スポーク表現があったんですね〜
左:C51テンダー。車輪の抜けたスポークは
以前に買ったC53のキットにも今回購入した完成したC53にも付いていなかった。
右:C51(上)とC53の裏側。テンダーは後部の梯子以外同じと思っていたが、裏から見るとかなり異なる。
製品化ごとに改善されていったのか、ただ単に製品を出し続けたわけでない事が分かる。
その昔C53のキットを買い、完成もさせずに減滅してから数十(?)年、
最近の良く出来た高価な金属製品ですら、このような重量感はありません。
現在のNの世界の製品はどんどん精巧になり、芸術品のような製品ばかりです。
それは・・・メーカーの企画・設計開発の若い力を感じます。
1980年代当時に思った、中村精密の独自の世界、今それが何だったのかと再考すると、
こちらは昔ながらの鉄道模型を熟知したHOメーカーらしい、機関車には重量感を!とでもいうのか・・・
まだN製品の少なかった頃、HOメーカーが考えたNの世界の走りを楽しむ、
そんなモデルだったのでしょうか。
中村精密の当時の開発者の方は、今の自分と同世代位の方だったのでは?と想像させられてしまいます。
自分としては、この年になって初めて、受け入れることができる感覚なのです。
懐かしいと言う感覚でなく、ある意味非常に新鮮な感覚なのです。
その後再生産があったのかどうかも知りませんが、一世を風靡した中村精密のロコの世界は、
現在の金属製精密製品と比較すると、手ごろな価格でメタルの模型をNの線路に走らせてくれたという、
感謝の思いすら湧き出てくるのです。。。
販売方式は別にして・・・現在のNのメーカーが向かおうとする方向には、自分も賛同します。
しかしその対極にでも位置する中村精密のロコは、同じNの仲間なのに、本当に不思議な世界なのです。。。
2輌並べて・・・C53のランボードの曲がりなど、今見ると全く気にならない。
このロコのは一体何?・・・という蒸機製品がある中で、C51・C53とはっきりわかる形態だからかな?
週末になったら、実家に置いてある、モデモの旧型客車を取りに行かなくっちゃ!
それとも20数年眠っている、中村精密の客車キットを組み立てようかな?
でも、前は重い機関車を押し、後ろに転がりの悪い台車を履いた客車を従えるテンダー動力は、
果たして何輌の客車を牽引できるのかな・・・