このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


ひ と り ご と


   栄光の1レ 寝台特急富士号

【寝台車の車窓から  向こうは終電か】 
 広島に行く用事ができたので、残り少ない夜行寝台を利用することにした。今では唯一の 東京発九州夜行『富士・はやぶさ』 通称フジブサ。熱海は19時35分に発つ。ホームの先端に行くと交代機関士が列車の到着を待っていた。ご挨拶して写真に収まっていただく。実に良い風貌をしていなさった。

 定時に列車が轟音をたてて進入して来て、定位置に厳かに停車、機関士交代を見届ける。(←大きなお世話か) ボクの車両は9号車なのでずーっと後ろの方だ。車内を観察しながら移動して9号車の10番にたどり着いた。B寝台個室『ソロ』は初めての経験だ。10号室は上の階なのでドアを開けるとすぐに数段の階段になっている。利用したことはないがカプセルホテルの部屋くらいか。

 わずかな荷物を解いて、酒とつまみと駅弁のささやかな晩餐を準備する。ベッドに腰掛け独りくつろぐには適度な広さ(狭さ?)だ。ひと段落すると、列車はすでに丹奈トンネルを抜け、夜の帳の下りた平野をひた走っていた。ゆっくりと時間をかけて夜汽車の酒を楽しむ。車窓の外には人家の小さな灯りや看板が後ろに流れていた。沼津から先はあまりネオンサインもない。

 沼津、富士、静岡、浜松と主要駅に停車し、客車列車は新幹線のスピードを知った身には心地よい遅さで線路上を走る。はるか前方から時おり聞こえる汽笛がうれしい。夜中のホームの妙に明るい、それでいて深閑とした雰囲気も味がある。恋人同士らしい女性の片割れが、ホームで手を振っていた。ドラマだなあ〜!

 真夜中の大阪を発車すると広島まで停車駅はない。いつの間にか眠っていたが、岡山を過ぎたあたりで目が醒めた。ブラインドを開けても外は真っ暗だった。西条の先、八本松から瀬野の間は有名な下り勾配で、以前ここを『あさかぜ』で通ったときは、ひとりロビーカーの後部座席に座り左右の景色をトロッコ列車に乗った気分で楽しんだものだ。今回の『富士』にはロビーカーもないし、だいいちまだ真っ暗闇で楽しむ景色も見えない。

 列車は定刻どおり暁闇の広島駅に到着した。ギギーッ、グワッシャン、という客車列車特有の停車。降り立った乗客はまばらだった。なるほど寝台車がどんどん削減されるわけだ。ゆっくり旅するには一番なんだけどね。用事までまだまだ時間がある。さあ、どうしようか。

   

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