このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


ひ と り ご と


   南アルプス両股小屋は深い森の中


 南アルプスは北岳、この日本第二の高嶺への登山道は何本か整備されている。広河原からバットレスを眺めながら登るルートが表参道なら、野呂川左股をつめて登る道は地味な裏参道だろう。そのベースキャンプにあたるところに両股小屋がある。この小屋に泊まって北岳に登ることは昔からの夢だった。

 広河原から北沢峠に登山者を運ぶ市営バスは、乗客のほとんどが終点の北沢峠から仙丈岳か甲斐駒ケ岳を目指すヒトタチだ。途中の野呂川出合で降りる登山者は大抵ごく僅か。今回は我々がそのごく僅かの一部となった。

 ここから 野呂川の左岸に建設された林道 を上流へ向けて辿る。台風が日本を狙っていたが天気は上々だった。はるか谷底には『岩魚の宝庫野呂川』の清流が音を立てている。見上げれば仙丈岳から派生するたおやかな稜線が、早くも僅かに秋の色に染まり始めているようだった。この風景を眺めながら歩けば疲れも気がつかないほどだ。ただ、林道を横切る何本もの沢の橋が悉く飛ばされていて、その都度渡渉を余儀なくされた。

 ようよう林道から沢に降りる地点にさしかかった。ここから少々沢沿いに歩けば目指す両股小屋は近い。土砂崩れの堆積をいくつも乗り越えて行くとやがて林の中にたたずむ小屋に到着した。バス停からゆっくり歩いて3時間弱、途中数人の釣師に行き逢った。釣果は上々のようだった。

 星さんという管理人のおばさんと 五匹の猫 が迎え入れてくれる。谷あいに位置するので雄大な山々の眺望は望むべくもない。しかし、昔ながらの山小屋の雰囲気と豊かな深い森、それに管理人の細やかで温かい心遣い、それだけで十分贅沢というものだ。朝は鹿の鳴き声で眼が覚めた。当初の期待は想像以上に満足させられた。是非また訪れたい山小屋だ。

 

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