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北海道自転車ツーリング 1999年夏
すずらん街道 滝川〜北竜町〜恵比島駅(明日萌駅)〜留萌〜小平町
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空知川沿いの滝川公園キャンプ場で一夜を過ごし、4時半に目が覚めた。テント越しに感じる外の光はまだオレンジ色を帯びている。今日も天気は良さそうだが、夜露でテントがびしょ濡れだ。
富良野へ向かうM君と別れ、6時半に出発。僕はここから日本海へ抜けて、ひたすら稚内をめざして北上する予定。今週中に最北端に立てればと思っている。
石狩川
空知川を渡って滝川市内に入り、3キロ走ったところが滝川駅前。函館本線と根室本線が分岐する大きな駅である。早朝なので、まだ閑散としている。
ここで国道12号線と別れて西へ折れると石狩川。大雪山系に源を発し、札幌市の北方で石狩湾にそそぐ北海道随一の大河である。空知川もそうだったが、こちらもココア色の泥水が川幅いっぱいに流れている。この川の様子を見れば、先日までの降雨量の多さも推察できる。
長い鉄橋を渡ると新十津川町で、ここから石狩川の土手を右に見ながら国道275号線を北上する。あたりには緑の田園が広がっている。
道の駅「田園の里うりゅう」
暑寒別岳に発する尾白利加(オシラリカ)川を渡ると雨竜町。ここではツクツクボウシが鳴いていた。昨年までは道東地方ばかりを走っていたので、エゾゼミの声しか聞かなかったが、道央では本州と同じ種類のセミが分布しているようだ。この後、ニイニイゼミの声も聞いた。
7時半に雨竜町の道の駅「田園の里うりゅう」に着く。まだ営業時間前だが、しばらく休憩。
知らないうちにこの「道の駅」とやらが各地に続々と誕生していて、北海道だけでも、この夏に登録される新駅も含めて62ヶ所になるという(現在はもっと増えています)。自治体ごとに駅を設置して観光客の誘致と物産販売に結びつける狙いがあるのだろう。
旅行者を道の駅に立ち寄らせる動機づけにスタンプラリーも実施中で、所定の数の駅のスタンプを集めると抽選で各自治体の特産品など様々な賞品が当たる趣向である。この駅にもスタンプ帳が置いてあったので、僕も1冊頂戴してスタンプを捺す。賞品を当てようと期待するわけではないが、子どもの頃の収集癖が呼び覚まされるようで、どうもこういうのに弱い。いい齢をして、とは思うが。
ひまわりの里
雨竜町を北へ抜けて、小さな丘陵を越えると北竜町で、ここには「ひまわりの里」というのがある。よく知らないが、地図にそう書いてある。日本一のヒマワリ畑だそうだ。ヒマワリなら今がちょうど見頃に違いない。
すぐに町役場のある中心集落にさしかかると「ひまわりの里」の案内板が目に留まり、左に入ると黄色の丘が見えてきた。
駐車場が整備され、倉庫みたいな物産販売センターや展望台もある。日本一のヒマワリ畑といっても、ここだけ見れば、観光客誘致のための作為的な風景に見えるが、もちろんヒマワリはただの見せ物ではない。れっきとした農産物なのだ。
うっすらと白い下弦の月が浮かぶ青空の下、大地に咲いた太陽の花の群れ。まさに夏の光景である。その分、非常に暑いわけだが…。ちなみに時刻はまだ8時を過ぎたばかり。
北竜町は作付面積日本一のヒマワリだけでなく、スイカやメロンの栽培も盛んらしく、直売店のおばちゃんに畑で穫れたばかりのスイカを試食させてもらい、8時45分頃、「ひまわりの里」を出発。
道の駅「サンフラワー北竜」
さらに国道275号線を北上すると、今度は北竜町の道の駅「サンフラワー北竜」があった。
畑の中に突然、ヨーロッパの街並みが出現したかのような、笑ってしまうほど立派な施設である。この駅にはホテルや温泉浴場もあって、そのすべてがヨーロッパの都市を模した建築になっているのだ。
そんな外観はともかく、昨夜は風呂ナシだったので、温泉には心惹かれる。しかし、入浴時間は9時半からで、まだ30分以上待たねばならないし、どうせすぐにまた汗まみれになるので、温泉は断念し、しばらく休憩後、9時10分にスタート。ちゃんとスタンプを捺したのは言うまでもない。
ドラマ「すずらん」の舞台へ
まもなく碧水という土地で、深川と留萌を結ぶ国道233号線と交差。留萌へ行くなら左折すべきだが、ここはあえて直進。この先にJR留萌本線の恵比島という駅があり、そこが現在放映中のNHK連続テレビ小説『すずらん』の舞台になっているのだ(1,2回しか見ていないが)。ドラマの中では明日萌(あしもい)という架空の地名が使われているが、撮影のために恵比島駅前に古い町並みを再現したり、留萌線にわざわざ蒸気機関車を復活させたりして、話題を呼んでいる。
実際、観光客向けに「明日萌駅」への道筋を示す案内標識が道路沿いに目立つようになってきた。一体、どんなことになっているのか、寄ってみよう。ここで予想をひとつ。明日萌駅前では「すずらん饅頭」を売っている!
萌の丘
沼田町に入って、相変わらずのどかな田園風景の中を坦々と走っていると、左手に緑の丘が見えてきた。ちょっと登ってみたくなるような、絵になる風景である。
そう思っていると、小さな十字路の角に不動産物件の現地案内みたいな看板が立っていて、そこに「萌の丘」と書いてあり、矢印があの丘を指している。
それが何を意味するかはすぐに分かった。「萌」というのは『すずらん』の主人公の名前である。たぶんドラマの撮影に使われた場所に違いない。そう確信して、矢印に従い十字路を左折。
白い花が満開のソバ畑の中を行くと、丘の登り口に着いた。そこからは曲がりくねった砂利道が明るい草原の丘へと這い上がっていく。
空は真っ青で、そこに白い雲がふわりと浮かび、なだらかな丘にはいい按配に牧草ロールが配置してある。まるで絵葉書みたいによくできた風景である。
ゴツゴツの砂利道なので、パンクしそうな気がして、自転車を押して、カンカン照りの陽射しに汗まみれになりながら、息を切らして上る。観光客のクルマも次々とやってくる。そのたびに道端に立ち止まってやり過ごし、ようやく頂上に着くと、そこに駐車場があり、その先にはさらに丘が連なっていた。
自転車を残して、細い道を歩いていくと、ようやく「萌の丘」にたどり着いた。説明板によれば、主人公の萌にとっての心の安らぎの場所というような設定であったらしい。
こんもりと茂った木の下に丸太が横倒しになっていて、そこに腰掛けると、なるほどいい眺めである。丘の麓には輝くような緑の絨毯が広がり、赤や青の屋根の民家や濃緑の森が点在している。景色はいいが、とにかく暑い。
(萌の丘にて)
明日萌駅
萌の丘から恵比島駅まではすぐで、11時過ぎに着いた。そして、そこは予想以上の事態になっていた。
「歓迎・NHK『すずらん』ロケ地・明日萌駅へようこそ」
まず目に飛び込んできたのが、沼田町の観光協会が掲げたこんな横断幕。そして、観光客の群れ。もちろん、土産物の売店もある。すごい騒ぎである。
一連の騒動が始まる前の恵比島駅は合理化によって駅舎も取り壊され、代わりに貨車を廃物利用した待合室があるだけの静かな無人駅で、駅前にも人家はまばらであったようだ。
ところが、ドラマのロケ地に選定されるや、昔風の駅舎が再建されただけでなく、駅長の住宅や駅前旅館までが建てられ、駅前にちょっとした町が出現してしまったのだった。どれもセットとはいえ、冬の厳しい風雪にも耐えられる本格的な建築である。在来の貨車の待合室も化粧板を張って、違和感なく風景に馴染んでいる。そして、撮影終了後もセットはそのまま保存され、今日もこれだけの観光客が押し寄せているわけだ。
JR北海道でも道東・標茶町の公園に保存されていたC11−171蒸気機関車をわざわざ整備して現役に復帰させ、深川〜留萌間にSLすずらん号を運行するほどの力の入れようで、地域全体が沸き返っている状態である。もともと観光的には地味な土地だから、その経済効果は計り知れない。それで先刻の予想であるが、やっぱり「すずらん饅頭」は売っていた(こんな予想は当たっても自慢にもならないが…)。ついでに「銘菓・明日萌の里」というのもあった。
本当に昔の駅みたいに細部までよく再現された明日萌駅舎(萌役の遠野凪子と明日萌駅長役の橋爪功のサイン色紙が飾ってあった)や中村旅館などを見物し、SLすずらん号が来るのを待とうかとも思ったが、列車の到着は12時18分(16分間停車)で、だいぶ時間があるので、先を急いで、11時35分に出発。どうせこの先は留萌まで線路とほぼ並行して走るので、そのうち列車に追い抜かれるかもしれない。
恵比島峠
恵比島をあとに道道549号「峠下恵比島線」を行くと、すぐに上り勾配が始まる。この先に峠越えが待っているのだ。
それなりの苦難を覚悟していたが、意外にあっさりと「恵比島峠」の標識が現われた。まだ11時43分だから、たった8分で峠を越えたことになる。
エゾゼミがジーッと一本調子で鳴く中を一気に下ったところが峠下駅前。ここで国道233号線に合流。すでに留萌市内であるが、中心市街まではまだ20キロほどある。
炎天下の国道233号線
留萌は港町だから、あとは下る一方で楽に走れるだろうと思い込んでいたが、とんでもなかった。真上からジリジリ照りつける陽射しはいよいよ強烈で、だんだん地形も開けてきたから、日陰も全くない。全身から玉の汗が吹き出し、脱水症状気味になってくる。北海道に来てまで、こんなに暑さに苦しむとは思わなかった。
途中、幌糠という集落に休憩所があり、トイレの洗面所でジャブジャブと顔を洗い、頭からも水をかける。本当はバケツ一杯の水を全身にかぶりたいぐらいである。
とにかく、ほんの少しだけさっぱりして自転車に戻ると、マウンテンバイクの少年3人が僕の愛車を取り巻いていた。
「この自転車、いくらでしたか?」
僕の顔を見て、いきなりこんな質問である。高級車にでも見えたのだろうか。
彼らは横浜の高校生で、今日は羽幌からで、砂川市のキャンプ場まで行くそうだ。羽幌は留萌の北50キロほどの地点にある港町である。僕も今日は羽幌まで到達できたら、と思っているが、彼らによれば、ここまではそんなに大変な道ではなかったという。ただ午後の気温を考えると、楽に行けるとは思えないけれど、とにかく走れるだけ走ってみよう。
少年たちと別れて、再びペダルを漕ぎ始める。暑さと喉の渇きに空腹も加わり、もうスピードも上がらない。沿道には商店も自動販売機もないので、ひたすら我慢するしかない。留萌までまだ15キロはある。
ずっと留萌本線の線路が並行していて、途中、このあたりでSL列車を狙えば、いい感じの写真が撮れるかもしれないと考える地点もあったが、炎天下で列車を待つ気にはとてもなれない。結局、そのままノロノロと走り続ける。
ようやく留萌市街が近づいて、13時を過ぎた頃、ドライブインを発見。ちょっと休もう。
疲労困憊で店に入り、カウンターの席に座り、メニューを見上げる。ラーメンとかカツ丼とかカレーライスとか、どれもなんだか暑苦しい。唯一、涼しげなのは「冷やしラーメン」。つまり冷やし中華である。僕はこれが苦手で、もう何年も口にしていないのだが、それでも思いきって「冷やしラーメン」を注文してしまった。意外に美味かった。
留萌駅で「SLすずらん号」を見る
留萌駅前には、すっかりバテて13時45分に到着。ここにもドラマ『すずらん』の巨大な広告看板が掲げられている。
「SLすずらん号」は僕が昼食をとっている間の13時16分に留萌駅に到着していた。折り返しの深川行きは14時29分発で、ちょうど機関車の付け替え作業中である。客車は14系客車や旧型客車、それに貨物列車の車掌車改造車の混結編成で、どれもこげ茶色の車体に赤帯というレトロ調に塗装されている。言うまでもなく、プラットホームにはカメラやビデオを手にした観光客が群がっている。僕もその中に加わった。
いったん深川方に引き上げていたC11−171がモクモクと煙を吐きながら近づいてきて、客車に連結された。転車台がないので、帰りは後ろ向きである。
この機関車にしても、死の眠りについていたのを叩き起こされ、再び生命の炎を燃やして線路の上を走れるようになったのだから幸せ者というべきだろう。シュッシュッと蒸気を吐く音も、石炭の煙の匂いも、汽車が生きている証しのようだ。本当に生きているみたいで、ただの機械とは思えなかった。
『すずらん』フィーバー(言い方が古いか…)で盛り上がる留萌駅で、もうひとつ書き加えておくべきこと。駅の待合室で開催中の若松勉写真展。言うまでもなく、プロ野球史上でも屈指の好打者で、今季から新任のヤクルトスワローズ監督である。若松監督はこの留萌市の出身だそうで、監督就任を祝して少年時代や現役選手時代の写真が展示されているのだ。でも、若松監督の地味な人柄そのままに写真展の方もひっそりしているのだった。
郵便局が出張販売していた『すずらん』の官製絵ハガキ(5枚組 350円)をつい購入して、留萌駅を14時10分に出発。
日本海岸を行く・・・ちょっとだけ。
留萌川に沿って行くと、まもなく午後の陽光にきらめく日本海がパーッと広がった。ここからは海沿いに国道232号線を北へ北へとひたすら突っ走ることになる。「稚内まで181㎞」の標識が目に入った。
この付近の海岸は岩礁地帯だったり砂浜だったりと色々だが、砂浜は海水浴場になっていて、けっこう賑わっている。夏の北海道旅行も今年で3回目だが、北海道の海で人が泳いでいるのを初めて見た。
とにかく、死ぬほど暑くて、留萌から北へ10キロほど走った小平(おびら)町で気力が尽きた。目標にしていた羽幌の40キロも手前だが、今日はここに泊まろう。小平集落の北はずれの望洋台という高台に青少年旅行村のキャンプ場がある。しかも、近くに温泉施設があるというのが決め手である。
望洋台
つづら折りの坂を自転車を押して上り、キャンプ場に着いた時には精も根も尽き果てた状態で、もうグッタリ。時刻は15時。
青少年旅行村の入村料とキャンプ代の合計600円を支払い、受付を済ませると、しばらくは何もする気が起きなかった。
ようやく活動を再開し、キャンプサイトへ移動。学生・生徒の団体利用者のサイトやオートキャンプ場は早くも賑わっているが、一番奥のフリーサイトには誰もいない。広い敷地は全くのガラ空きだった。
眼下に日本海を望む絶好の場所にテントを設営し、まずは洗濯。汗で汚れたTシャツを水場で洗った後、テントと近くの柵の間にロープを張って干しておく。この陽射しと風なら、明朝までには乾くだろう。
望洋台の南側 望洋台キャンプ場 望洋台の北側
一日中大地を灼き続けた太陽が日本海をオレンジ色に染めて水平線の彼方に沈んでいくのを海辺に腰を下ろして眺め、それから近くの小平町総合交流ターミナル施設「ゆったりかん」で入浴。「総合交流ターミナル」って何のこっちゃ、と思うが、大浴場(温泉らしい)のほかに研修室、レストラン、ホテルなどが揃った新しくてデラックスな施設である。
とにかく、サイクリングの後の温泉で、さぞや極楽気分になれるだろうと思いきや、いざ入浴となると、浴室のモワッとした熱気からして不快で、お湯につかる気にもならない。すでにかなり日焼けしていて、熱いお湯だと肌がヒリヒリする、というのもある。それで、結局は限りなく水に近いぬるま湯を洗面器に汲んで、それを頭から何度もかぶる、というのが一番気持ちいいのだった。
風呂から上がって、そのまま館内のレストランで夕食。1,300円で小平町産の黒毛和牛や新鮮な魚介類が味わえる「ゆったりかん定食」がなかなか美味かった。
今日の走行距離は91.1キロ。明日は日本海沿いに行けるところまで行くつもり。
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