このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

うたげのあと
(京都)

朱雀門を抜けた大内裏には大きな松原が広がっていた。
内裏の西で、朝堂院の北だ。
朝は風にその枝をふるわせ、清清しい緑葉が青い空にちらちらと泳ぎ、闇夜は静かな深い森になった。
夏は暑さをさえぎり、冬は凍てつく大地の中で春を真っ先に告げていた。
そこはかつて美しき公達が集い、蹴鞠を楽しんだといわれる。「宴(えん)」の名をいただいたのはその名残りだ。
しかしその松原はその広さゆえに不気味な場所となり、その深さゆえにいつしか鬼が姿をみせるようになった。ある晩貴人が帝の命で豊楽院へ尋ね歩いた時に、彼はこのあたりで得体の知れない声を聞き、命を果たせず逃げ帰ったのだとか。

それは千年も前のことなのだけども。

時代が過ぎ、松原
がその姿を失って、今は真新しき碑(いしぶみ)が在りし地の名をつなぎとめている。

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