このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

お父さんのための科学解説

原発が「臨界」に達するというのは、どういう状況を示すのでしょうか

核分裂の連鎖反応では、中性子の生成と消失が起きていますが、これが連続して起きる状態を「臨界」、臨界に達する、といいます。臨界に達するメカニズムは、
1.ウランなどの放射性物質に中性子が当たると、核分裂し、複数の中性子を放出します。
2.放出した複数の中性子が他の放射性物質にあたってしまうと新たな核分裂をねずみ算式に増やしてしまいます。
3.核燃料用のウランはこのようなねずみ算式反応が起きるように純度が高くしてある(天然ウランではねずみ算式反応は起こらない)。逆に言うとねずみ算式の反応が勝手に起きないように、原子炉では制御棒を差し込んで、中性子を吸収し、連続して安定した核分裂の状態を保ちます。臨界事故とは、中性子数を制御できない状態となったことを言います。ちなみに、臨界までの速度が爆発的に速いのが核爆弾です。
日本の原発は「沸騰水型」といって、核燃料と呼ぶ「ウラン燃料を棒状に加工したもの」から熱エネルギーを取り出します(原子炉の中に詰めた水が核燃料から熱エネルギーを貰い、高温の蒸気を発生させて蒸気タービンを回す。タービンに直結した発電機から電気を起こす)。そのために普段は制御棒という炭素棒を核燃料の間に差し込んでおき、核燃料が核反応をした時に飛び出す中性子(放射線の一種)を吸収させるのです。要はある一定の量の核物質を少量ずつに分けておくと、核反応は抑えられるのです。

      核爆弾はある一定量を超える核物質を1ヶ所に集めることにより、中性子量が一瞬に増大するような連続反応を起こさせます(超臨界)。核爆弾は、ウラン235やプルトニュームを多数の塊に分けておき、爆薬などで中央の一ヶ所に高温高圧で集める事により爆発させます。これが一番簡単な臨界核爆弾で、1数キロトン〜数十キロトン程度です。小型化するのは大変な技術で、ミサイルに搭載出来るほどに小型化するのは並大抵ではできません。

この1〜3をもう少し詳しく述べますと以下のようになります。
高原子量の原子核が割れて新たな原子核が2個以上出来る事を核分裂といいます。核分裂を起こすには核物質の原子核に中性子をぶつける訳ですが、ぶつけられて分裂した原子核と共に新たな中性子が生まれるといった現象が見られます。ウランの場合平均で2.4個の中性子が分裂核と共に放出され、これがまた別のウラン核の核分裂を起こすのに寄与します。分裂するとき分裂核は膨大な熱を発し、これが原子力発電や原爆のエネルギー源になっています。ところで先ほどウランからは平均で2.4個の中性子が放出されるといいましたがこれら全てが次の核分裂に寄与するということはなく、実際にはウランにそのまま吸収されて分裂しなかったり核物質表面から抜け出てしまったりとムダが生じるわけです。もしこれらの「ムダ」によりウランから放出される中性子の平均の数が「1」を下回ってしまった場合、中性子はいつか途絶えて分裂反応はストップしまいます。しかしこれが「1」以上の場合核分裂は持続し続けることが可能になります。とりわけその数がちょうど「1」の場合は「ウランは臨界に達した」いいます。すなわち「放出される中性子と使われる中性子が等しい状態」が臨界状態というわけです。原子炉ではこの数字(中性子の倍増係数といいます)を1付近にすることで一定の熱量を取り出し発電するように設計されています。臨界状態にするには、ある程度まとまった量の核物質が必要であり臨界が発生する最小の核物質の量を「臨界量」といいます。これはその核物質の密度、形状、核特性、同位体組成や不純物などにより変化します。ちなみに倍増係数が1を上回った場合を「超臨界」といい時間と共に放出されるエネルギー量は増加していきます。原爆では非常に短時間で超臨界に達しさせ、いかに数多くの核分裂を起こさせるかに重点をおきます(爆発させるため)。このため原爆には高純度のウラン235またはプルトニウム239を球状にして用い、爆薬を用いて圧縮し密度を高めるなどして瞬時に超臨界状態にさせ反応速度を飛躍的に高めています。爆縮型の原爆に用いるδ相プルトニウムの臨界量は球形で16kg(中性子反射体などを用いると4.4kg)ほどとなっているそうです。実際に用いるのは核兵器の用途によりますがアメリカの水準で3kgほどだそうです。

原発事故とはなにか
 この中性子の発生量を加減する制御が効かなくなると、制御棒で遮られていない部分は放射線がとびかって、放射性物質がどんどん核分裂し、さらに放射線がでる、という悪循環が起こります。このことは既に述べたとおりです。
日本の原発では手がつけられなくなるまで悪化したことはないとされています(但し、核燃料の調合を誤ったため臨界に達してしまい、大量に放射された放射線を浴びて亡くなった事件があった(JCC東海)。この場合は放射性物質の量が少なかったため、防護服を来た人間が外部から遮蔽作業をして燃え尽きさせることができた)のですが、日本における最初の臨界事故とされました。チェルノブイリ(黒鉛炉)では、あまりに大量のエネルギーが生じて原子炉の建物自体が壊れて放射性物質が飛び散ってしまいました。スリーマイル島の事故(軽水炉)では冷却水が停止してしまい、そのために熱を外に取り出すことができずに炉心が溶けてしまいました。
日本でいくつか「事後報告」された例では、「偶然にも」連鎖反応した放射性物質の量が少なかったこと、また冷却水装置が「正常に」働いていたために原子炉を融かすような高温にならなかったため、「幸いにも」世間に隠すことができたのです。
放射線は四方八方に飛んでいきますので、普段からこの量を把握するよう義務付けられています。このため、事故時の中性子の量などは原子炉内の場所ごとに記録に残っているはずです。原因解明のために即座に報告すべきだと思います。事故の程度としては冷却水漏れでの原子炉の非常停止よりも、「制御不可能に陥いり臨界事故を起こした」点で重大な問題です。この重大性のため会社は事故を隠蔽したものと考えられます。このような事故の隠蔽のため「安全神話」がまかりとおり、後年の事故の再発防止につながらなかった惧れがあります。

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