このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

井上靖『しろばんば』の舞台——伊豆・湯ヶ島



小林古径邸
 井上靖は明治40年5月6日、軍医だった父の任地先の北海道旭川で生まれたが、父の従軍や転勤で湯ヶ島、東京、静岡、豊橋などを転々とした。5歳のとき、父母のもとを離れて湯ヶ島の戸籍上の祖母「かの」と暮らすようになった。「かの」は靖の曾祖父潔の愛人だった人であり、ほんの1時のつもりで父母は預けたのだが、靖が「かの」になつき、「かの」も手放さなかったために、結局幼少時代を靖は「かの」と一緒に、本家と離れた土蔵で暮らすことになったのである。

 この間のことが自伝小説『しろばんば』に詳しく描かれており、湯ヶ島の自然と複雑な人間関係が、幼少時代の靖にどんなに深い影響を与えたかがうかがえる。靖が「かの」と暮らした土蔵は既にないが、土蔵や母屋のあった敷地跡に『しろばんば』の碑が建っている。靖の幼少時には村の医師に貸してあった母屋(『しろばんば』の終わり近くで主人公の少年も一時住む)井上靖旧邸は、現在、昭和の森文学館敷地内に移築保存されている。湯ヶ島の熊野山墓地には井上靖・ふみ夫妻の名を刻んだ墓もある。
『しろばんば』の碑——訪れた時(04・6・15)、地元の生徒たちが清掃をしていた▲
 『しろばんば』の碑▲
『しろばんば』の冒頭の一節が作者自筆で刻まれている。・・
 あすなろの木↑

井上靖旧邸跡に、当地で「あすなろ」と呼ぶ槙の木が立っている。『あすなろ物語』の、あの木である。
  井上靖旧邸↑

今は昭和の森文学館に移築保存されている(撮影・92・3・9)
 湯ヶ島小学校▲

現在の湯ヶ島小学校の敷地内に、『しろばんば』の像、井上靖文学碑がある。
↑『しろばんば』の像  

主人公洪作(右)とおぬい婆さん(左)
井上靖詩碑↑

「地球の上で一番清らかな広場。
北に向かって整列すると、
遠くに富士が見える。
廻れ右すると天城が見える。
富士は父、天城は母……」と刻まれ、副碑に「後輩に当る湯ヶ島小学校児童の為に詩を創って下さった……」とある。
熊野山墓地にある井上靖の墓↑
井上靖詩碑↑

井上靖の墓に隣接して、太平洋戦争戦没者慰霊のために「魂魄飛びて ここ美しき 古里へ帰る」と自筆で刻まれたこの碑がある。

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