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すぱくり人生 〜高校編


【きゃあきゃあ言われたいお年頃】

男だったら、女の子にきゃあきゃあ言われたいもの。

いや、もちろん「きゃあきゃあ」ってのは変態的行為をしてきゃあきゃあ言わせるのではなくて、自分の実力で言わせるんですよ、念のため。犯罪者とは違います。

とまぁ少し話が横道にそれてしまったが、高校生くらいの男の子というのは、兎にも角にも女の子に気に入られようと、日々努力をしているわけです。ムースの使用が禁止されているのにこっそり使って髪形をアピールしたり、わざとズボンを腰の辺りではいたり(いや、おれの高校時代にはそんな風習はまだなかったぞ!)。

しかし、そんな大それたことができない、うぶな高校生もいるわけです。まぁ大抵は先生にがみがみ言われるのが嫌だっただけで、やって格好良くなれるものなら本当はやってみたい。格好よくなって女の子の視線を集めたい。僕らのようなうぶな高校生は、そうは考えるけれど決して行動に移さない非常にオクテな男の子。そういうことが出来ないムッツリ高校生なだけです。
 
ではそういう高校生はどういうアピールをすればよいのか。スポーツができるやつは点数が高い。さわやかに滴る汗、そしてたまに見せる白い歯。もうこれで女の子はイチコロクラクラなのだ。もちろん生まれつき容姿に恵まれている奴なんて全く問題なし。何もしなくてもきゃあきゃあ言われる。問題はその他の男子たちなわけです。スポーツもそれほどできるわけではないし、容姿が優れているわけでもない、平均的な男たち。

僕は典型的にそういう「普通の」男だった。まあ学校の男のうち八割はそういう奴だったけど、そういう人間はあせるわけなのだ。どうしようどうしようと。

ただそういう素振りを女の子に見せるのは厳禁である。女の子の前では「おれ、全く女なんか興味ないから。ふん」みたいな態度をとることが重要なのだ。でれでれしていると今度は女の子から嫌われてしまう可能性が極めて高い。

と随分前置きが長くなってしまったが、高校時代の僕はそういう悲しい願望を持った一高校生だった。日々素敵な出会いを求めて裏で努力するのに、全く効果なし。「おれってダメな男なのかなぁ(ため息)」なんて思うこともしばしば。

だが長い高校生活、生きていれば何かいいことはある!実は僕にも「きゃあきゃあ」と言われたことがあるのです!ここでは自慢げにその話を披露しちゃおうと思います(ホント前置きが長くなってすみません。。)

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それは忘れもしない高校1年の2学期のこと。

この学期の音楽の授業は「出席番号で分かれてバンドを組み、コピー曲1曲とオリジナル曲1曲を学期末に発表しろ」というもの。この授業はなかなかどうして、面白いことをやってくれるじゃないの。

早速班で集まって会議。班のメンバーは僕を含めた男3人と女3人。チェッカーズをやりたいという意見もあったが、あまりに古すぎるので却下し、結果としてスピッツの「ロビンソン」に決まり、僕の担当はドラムになった。ちなみに今となってはロビンソンは当時のチェッカーズの曲並みの古に匹敵する。

それはともかくとして、僕はドラムに触るのも初めてだった。だから音楽の時間だけでなく、昼休みにも音楽室を訪れ結構真面目に練習することになった。もともとピアノをやっていたので音楽的なものは得意だったのだが、それでも音を鳴らすギターやキーボードに比べ、リズムを刻むドラムはなかなかコツを掴み辛かった。それでも3ヶ月も練習すればなんとかなるもの。発表会前にはそれなりの形になって、自分でも「ほぉー、なかなか上手くなったじゃないの」と自画自賛である。

一方で班の他のメンバーはほとんど楽器を触ったことがないらしく、演奏に四苦八苦していた。だから全体であわせると最初はスピッツのロビンソンを演奏しているかどうかわからない状態だったが、発表会が近づくとそれなりにロビンソンに聞こえるようにはなってきた。

そしてクラスでの発表会当日。

他の班がそれなりに演奏をこなしていく中、僕は一人気が気ではなかった。完璧主義の僕にとって、失敗は許されない。人が見てないところで掌に人の字を書いて飲み込んでいた記憶がある。それほど緊張していたのだ。そしていよいようちの班の番。ドラムセットの前に座ると、不思議と緊張感が安らいだ。あとは演奏するだけ。ええい、なるがままよ!

ロビンソンにおいて、ドラムの演奏は単調だ。だから最初は普通に目立たず演奏していた。ただ、他のギターやボーカルがお世辞にも上手いとは言えなかったから、見てる人は「あ〜、多分こいつらロビンソンやってるんだろうな」という感じだったに違いない。実際演奏が始まっても何の声援もなく、クラスの皆さんは静かに聞いていた。

演奏が中盤に差し掛かり、そろそろ1番のサビに入ろうかというとき。ここは今まで平凡だったドラムが少し格好をつけるところである。今までは単調にエイトビートのリズムを刻んでいるたけだったが、ここではドラムセットにあるすべてのドラムを使って盛り上げないといけない。ロビンソンの中で一番難しいところなのだ。曲の最初は緊張が収まっていた僕も、サビが近づくにつれて徐々に緊張してきた。

そしていよいよ問題の場面。

・・・・しくじった。。バチさばきが上手くいかなかったので、かなりごまかしてしまったのだ。あぁ、せっかくの見せ場だったのに・・・。

ところが、である。

その僕の失敗したドラムさばきを聞いて、クラスの女の子から大歓声があがったのである。「きゃ〜」という声とともに、それまで散り散りに見物していた女の子たちが、僕の前に寄って来たのだ!!!

これには僕もびっくりした。同時に顔が真っ赤になった。だって、失敗してるのに??

でもまんざら悪い気分じゃなかったのもれっきとした事実だ。それから後は、「ふふん、おれのドラムさばきなんてこんなもんよ、髪さらり」みたいな感じを装いながら、調子に乗ってドラムを叩き続けていったのだ。実際のところ、ドラムなんかより集まってくれていた女の子たちのほうに目をやりたかったのだが、演奏中なのでそうもいかない。できるだけクールに装い続けたのである。

兎に角、それまで静かだった女の子たちが、「きゃ〜」の歓声の後は僕の近くに寄ってきて手拍子をしだした。これにはホントに驚いた。そして同時に演奏中の僕は我が世の春を謳歌したのである。

演奏が終了すると、女の子たちは僕にむかって拍手喝采をしてくれた。「すごーい、すぱくりくん!」と言っている女の子が何人もいる。僕は心臓がバクバクいっていたが、ここでそういうそぶりを見せてはいけない。いつでも「おれは女になんか興味ないんだよ、ふん」みたいな態度をとらなければいけないと思ったのである。ただし、これだけ声援を送ってくれたのだからそれはまずいかな、と思い、クールに装いつつ、右手で髪をかきあげながら(←これ重要)、一礼をした。ギャラリーの皆さんはもう一度大きな拍手を返してくれた。

発表会が終わってからも、僕は興奮覚めやらぬままだった。いや、もしかしておれはものすごい才能の持ち主では?ふふふ、どんなお嬢さんも寄ってらっしゃい、みたいな最大級の勘違いをしていたのだ。今となってはほんとに恥ずかしい。

一週間後の音楽の授業で、先週撮った演奏会のビデオを見よう、ということになった。自分の姿をスクリーンで見るのは恥ずかしかったが、さらに恥ずかしいのは、スクリーンの中の僕が拍手喝采を受けていることだった。もう一週間たっている、今冷静に女の子たちが見ると、果たしてどういう反応するのかが恐かったのだ。

ただそれも杞憂に終わった。ビデオの中の僕に対して、先週ほどではないけれども、大きな拍手をしてくれたのだ。このときはうれしいというよりは安堵したというほうが正しいだろう。一週間たっても評価が変わってないことに対し、僕はまた変な自信をつけてしまったのである。。

その後、何かいいことあるかなーと思い、期待に胸を膨らませて待っていた僕だったが、何の音沙汰もなし。結局1年の3学期が終わるまで本当に全く何もなかった。まぁそんな邪な気持ちでドラムをやったわけじゃないですけどさ・・・。

それ以来、僕はドラムを叩いてもいないし、女の子に「きゃあきゃあ」言われたこともない。

あの時はよかったなぁ・・・、ほんと。

(2004年6月)


モドル

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