2014年夏の小旅行 1
2014年8月13日(水)  <わたらせ渓谷鉄道、足尾(足尾銅山跡)、宇都宮(大谷石、餃子)>


 今日から大学がお盆の一斉休業に入ったので、僕も一応休み。

 ここ数年、夏になると2泊3日程度で一人気ままな旅行をしていたのだけど、今年はどうもそれができそうにない。仕方がないので宮脇俊三の『時刻表2万キロ』『片道最長切符の旅』でも読んで旅行気分に浸り、どこかへ行った気になろうと思っていた。ところがやっぱりそうは上手く行かないもので、鉄道紀行文学の頂点を極めたと言われている宮脇俊三の作品を読めば読むほど、どこかへ出かけたくて仕方なくなってしまった。でもあまり時間が取れない。でもどこか行きたい。でも何も目的がなく出かけるには時間がもったいない。でもどこか行きたい。でも・・・といろいろ逡巡した結果、じゃあ仕事にも一応関係があり、同時に旅行欲を満たすような日帰り旅行ならいいのではと自己肯定し、急遽出かけることにした。お盆休みですしね。

 旅行は日程を考える時が一番楽しいとはよく言ったもので、前夜に青春18きっぷを使いつつ1日で帰って来られるルートを勘案した結果、我ながらなかなか良さそうなルートが出来上がった。吉祥寺からJR中央線、東北本線、両毛線と乗り継いで桐生に行き、桐生からわたらせ渓谷鉄道で終点の間藤まで。間藤で足尾銅山鉱毒事件の跡を巡った後でバスに乗って日光に抜け、日光からはJR日光線で宇都宮へ。宇都宮で餃子の昼食を食べて、JR烏山線に乗って終点の烏山まで。烏山の街を少し散策した後でバスに乗って茂木方面に向かい、その後真岡鉄道に乗って下館へ。下館からは関東鉄道常総線に乗って取手へと出て、そこからはJR常磐線で帰宅。帰宅途中に我孫子駅で途中下車して、名物駅そばの「から揚げそば」を食べる。地図で見ると関東を大きくぐるりと一周するようなルートで、JR、バス、私鉄を上手く乗り継ぐような形になっていて、このルートで行けることを確信したときにはなかなかどうしてテンションが上がったのも事実。まあ、結局は上手く行かなかったのだけど・・・。

 旅の途中の目的は、一つは足尾銅山鉱毒事件の舞台である足尾の現在の様子を写真に収めてくること。もう一つは宮脇俊三『時刻表2万キロ』の国鉄線乗りつぶしにおいて最後の到着駅となった国鉄足尾線(現わたらせ渓谷鉄道わたらせ渓谷線)の終点間藤(まとう)駅に行き、その面影を感じること。前者はこれまで大学で足尾銅山鉱毒事件を取り上げておきながら、実際の被害や現在の状況をきちんと見ていなかった(6年前に来た時は銅山の中に入っただけだった)ために、教える者として少し後ろめたさがあった。だから今回、この目できちんと周辺の様子を見て確かめて、来年度以降の講義で使える写真を撮ろうと。後者の目的は完全に最近のミーハー心です。。

 早朝4時過ぎ、家を出て歩いて吉祥寺まで行き、4時55分の中央線に乗って出発。神田、上野、小山で乗り換えて、8時半に桐生に到着。途中の小山で30分ほど乗り換え時間があったので、キオスクで栃木名物のレモン牛乳を買って飲んでみる。レモン果汁が全く入っていないのにレモンと名乗る当たり、壮大なギャグのような気がしないでもないけれど、あの人工的な甘みが僕は好きです。レモン牛乳が売られているのを見ると、栃木まで来たなあという気になるので、旅の気分を盛り上げてくれるにはうってつけのアイテムだと思う。

 桐生駅でも乗り換え時間が30分あったので、駅の立ち食いうどんで朝食。桐生はひもかわうどんで知られているように、うどんの名産地。だからか知らないが、駅の立ち食いも関東地方なら「そば・うどん」の順序にとなるところが、「うどん・そば」とうどんの方が先に来ていた。ということで月見うどん(340円)を食べる。肝心のうどんは腰が全くない上に、ぽきぽきしてて何というか。。駅のスタンドに期待した僕が馬鹿だったか。これだったら小山駅のベッカーズでモーニングセットでも食べた方がよかったかもしれない。


<栃木といえばレモン果汁の入っていないレモン牛乳>

<小山から両毛線に乗って桐生へ>

<栃木から一旦群馬の桐生に到着>

<桐生駅の立ち食いうどんは麺がぽきぽき>

 うどんにややがっかりしつつ、桐生駅のわたらせ渓谷鉄道線ホームへ。既に9時発の間藤行き1両編成が待っていた。車体の色がシックで渋い。15人程度の客を乗せ、定刻9時に桐生駅を出発。桐生駅を出てからしばらくすると右手に渡良瀬川が見えてくるが、まだ木や森が邪魔をしてなかなか川をじっくりと見ることができない。そんな中、ちょっとした木々の隙間が見えた時に撮ったのが下の右上の写真です。

 途中の大間々駅で親子連れや鉄オタっぽい数名が降りた。どうやらこの後トロッコが運転されるらしいく、多くの人はそれに乗るらしい。僕も乗りたいのはやまやまだけど、列車を一本遅らすと今後の日程が全部狂ってしまうので、大人しく普通の列車で終点まで向かう。大間々からはアテンダントのお姉さんが乗ってきて、途中駅や見どころでは解説してくれるのだけど、このお姉さんがかなり美人で驚いた。わたらせ渓谷鉄道、恐るべき。

 神戸(こうど)駅を過ぎると段々と山深くなってきて、「渓谷鉄道」の面目躍如たる風景になってくる。特に沢入(そうり)駅から原向(はらむこう)駅間は沿線で一番車窓の美しい空間と言われているらしく、確かにワイルドだった。この川が鉱毒で汚されていたとは思えないほどの自然豊かな風景が続く。


<桐生駅1番線に停車中のわたらせ渓谷鉄道線>

<右手に流れる渡良瀬川>

<段々と緑が深くなる>

<一番眺めが良いと言われる区間の車窓>

 やがて旧足尾町の中心集落である通洞駅、足尾駅を経て、10時27分に終点の間藤駅に到着。とりあえず通洞駅辺りから猛烈に腹が痛くなってきていたので、間藤駅に着いてから一目散にトイレに駆け込んで事なきを得たけど、今回も結構危なかった。本当、旅行中に急に腹が痛くなったりするのは嫌だなあ。自分の体質とはいえ、本当にどうにかならんものか。

 すっきりしてから間藤駅舎に入ると、一角に宮脇俊三コーナーが設けられていた。「時刻表2万キロ、ここは間藤終着駅」という紹介があって、『時刻表2万キロ』の足尾線の部分が貼られている。僕の生まれる前に、宮脇俊三氏はここに降り立って当時の国鉄2万キロ完全乗車を成し遂げたわけですね。時代は変わり、足尾線は民営化されてわたらせ渓谷鉄道となり、宮脇さんも亡くなってしまったけれど、間藤駅が残っているお陰で宮脇さんと少しは同じ空気を吸うことができたような気がする。わたらせ渓谷鉄道は経営が厳しくて廃線の危機もあるとのことだけど、何とか末永く頑張ってほしいと思う。


<終点の間藤駅に到着>

<宮脇さん、私もここまでやってきました>

<ちょっとした展望台から>

<一応間藤駅で終わり>

 日光行のバスまで40分弱あるので、間藤からさらに奥の赤倉集落、本山まで歩くことにする。出発前に列車折り返しで休憩していた車掌さんに少し質問させてもらう。まず、渡良瀬川では魚が捕れるようにはなっているのだけど、地元の人は渡良瀬川本流の魚は食べない。支流で捕れた魚は食べるらしいけれど、本流の魚にはやっぱり抵抗があるらしい。次に銅を精錬する際の煙で禿山と化してしまった備前楯山は、数十年前から植林活動が行われているのだけどなかなかうまく進んでおらず、元の青々とした山に戻るにはあと150年はかかると言われているということ。足尾銅山鉱毒事件の発生から既に120年以上が経過し、精錬所の操業も終わっているのだけど、未だにこういった問題が残っていて、公害問題の解決は本当に難しいものだと改めて思い知らされた。120年前の足尾でさえそうなのだから、水俣病や今回の原発事故の影響も推して知るべし、ということだろうか。

 車掌さんの話によると、間藤から途中の赤倉集落を抜けて大きな銅精錬所があった足尾本山までは歩いて20〜30分程度ということだったので、写真を撮りつつ歩いていく。太陽が出てきたので、歩くだけで体力と水分が搾り取られる感じがする。暑いなあ。20分ほど歩くと本山の旧精錬所群の廃墟が見えてきた。その奥には禿山となってしまった備前楯山。確かに頂上付近は全く植林ができていないのが分かる。もう少し時間があったらもっと奥まで行って精錬所の煙突をアップで撮りたかったのだけど、バスの時間迫っていたので泣く泣くあきらめて赤倉集落に戻った。間藤駅に着くときにお腹さえ痛くなっていなければなあ・・・。でもとりあえずこの目で見て教材用の写真を撮るという目的は達成できたのでよかった。


<間藤駅から足尾本山駅までの廃線跡>

<間藤からさらに奥の赤倉、本山方面へ>

<本山の精錬所近くの渡良瀬川>

<昔の終点、貨物の足尾本山駅>

<植林活動が進められている備前楯山>

<上の方はまだまだ禿山>

<足尾本山の精錬所跡>

<遠くに精錬所の煙突が見える>

 赤倉集落11時18分発の日光市市営バスに乗車。足尾も今は合併して日光市の一部なんですね。このバスに乗ればJR日光駅に11時58分に到着し、12時3分発の日光線に乗り継ぐことができる。初めてのJR日光駅で駅舎とかじっくり見られないのは残念だけど、まあそれは仕方がないので別の機会にするしかないと思っていた。ところが今日はお盆休み。バスは最初の山道では順調に進んでいたものの、日光市中心部に入り、特に東照宮の付近で大渋滞に嵌ってしまった。おかげで終点のJR日光駅に到着したのは定刻から20分遅れた12時20分。この時点で、今日のこれからの計画はパーになってしまった。せっかく上手い具合に立てた計画だったのになあ・・・。盆休みを恨みます。

 次の宇都宮行は13時5分発。計画を立て直す必要が出てきたけれど、日光駅をじっくりと見る余裕もできたわけで、その辺はよかったか。というかそう思わなければやってられない。日光にはJR日光駅と少し離れて東武日光駅があり、料金や都心からのアクセスの点からすると東武日光の方に軍配が上がるので、日本人でわざわざJR日光駅を使う人は少ない。僕も以前来た時は東武線を使ったし、18きっぷを使うとかとか乗りつぶしが目的であるとか、そういった奇特な人間でないとなかなか使わないだろう。JR日光駅は格式のある駅舎で優雅なつくりになっているので、見物し甲斐がある。でも10分もすると飽きてしまい、そもそもJR日光駅には売店がないので食糧の調達ができない。ということで隣の東武日光駅まで行き、「ゆば御膳」という駅弁を調達してくる。お値段1080円也。

 JR日光駅に戻り、ベンチでゆば御膳を食べつつ今後の計画を練っていると、列車が到着して結構な数の外国人観光客が降りてきた。外国人だとJRのジャパンレールパスが使えるので、JR利用が多くなるのだろう。ゆば御膳は薄味だけどなかなかのお味。


<大正元年(1912年)落成の伝統あるJR日光駅>

<13時5分発に乗るしかない>

<駅舎の2階は旧一等車待合室>

<東武日光駅の方で買ってきた「ゆば御膳」で昼食>

 弁当を食べ終えたら良い時間になったので、改札を通って13時5分発の宇都宮行に乗車。JR日光線は電車も含めてレトロな趣で統一されている。電車内の中吊広告も、よくある下世話な週刊誌のものではなく、英語での日光紹介になっていた。こういうのは外国人には受けるだろうなあ。

 13時46分に終点宇都宮に到着。本当ならここから烏山線に乗り換える予定だったのだけど、日光でバスが遅れたおかげでそれは無理になったので、今回はもう宇都宮をうろうろしてから帰ることに予定を変更する。烏山線より先はまたいつか。

 栃木県の県庁所在地、宇都宮市。これまで何度となく乗り換えで途中下車はしてきたし、駅周辺で餃子を食べたこともあったけど、街中を歩いたことは皆無だったので、今回は割り切って宇都宮の街を堪能することに。余談だけど47都道府県庁所在地のうち僕が街中を歩いたことがない都市が三つあって、その中の一つが宇都宮だった(残りは岐阜と津)。だからこの際、宇都宮を歩いてしまおうと。国内の旅行も段々と塗りつぶし要素が大きくなってきているなあと思う。

 そうは言っても宇都宮の何を見ればいいのか良く分からなかったので、駅の観光案内所に行ってみると、「大谷観光一日乗車券」というものを販売していますよというパンフレットが目についた。大谷石については特にダンジョンのような大谷資料館の噂を聞いたことがあったのでこれは行くしかないと思い、一日乗車券を購入した。バスの往復代金と大谷資料館の入場料、大谷観音の拝観料がセットになって1,500円。ばらばらに買うと1,900円になるので、400円お得らしい。こんな石の博物館なんかに行くのはよっぽどの物好きしかいないだろうからと高を括ってバス乗り場に行くと、既に行列ができていた。何とまあ。皆さんも石に興味があるのね・・・。

 バスはちょうど皆が座れるだけの人数を乗せて14時15分、宇都宮駅を出発。ここから最初の大谷観音までは約30分。僕はバスのあのもっこりした部分にしか座れなかったので、到着するまでの30分弱が非常に苦しかった。しかも市街地では渋滞するし、車内の冷房の効きも良くないしで全然いいことがない。何でこんな思いまでして石を見に行かないといけないんだろうか、とこの時点では思っていた。

 30分ほどで大谷観音前に到着し、下車して大谷観音を拝観。まず境内に入るとその異様な大谷石の凝灰岩に圧倒される。本堂に入ると、その岩肌に掘られた4mほどの千手観音(大谷観音)がお目見え。この千手観音は日本最古の石仏らしい。こういうところに掘ろうと思ったのがすごい。大谷観音の近くには大谷石の石切り場跡に建てられた平和観音がどーんと鎮座。1956年にできた約27mの観音様。大谷観音と比べると大きさも迫力も桁違いなんだけど、大谷観音の方がご利益がありそうな気がするのはなぜだろうか。


<大谷観音にやってきた>

<平和観音と広場>

<掘り出された大谷石が並んでいる>

<こういう岩肌が続く>

 大谷観音と平和観音を見物した後は、いよいよメインの大谷資料館へ。ここは大谷石の元採掘場を資料館として一般公開したもので、地下にあるので一年を通して涼しいとのこと。今日は12℃で、寒いので注意してくださいねということだったが、外が暑かったのでこのくらい涼しい方がありがたい。でもその涼しさよりも何よりも、採掘場跡の巨大な地下空間は圧巻だった。一応安全のためにライトはついているけれど、その具合がまた絶妙で、おどろおどろしい雰囲気が醸し出されている。地下にこれだけの巨大空間があるとは。圧倒的なRPGのダンジョン感。気分はインディージョーンズというかスぺランカーというか。人類が滅び、何億年後かに新しい知的生命体がこの洞窟を発見したら、この空間の意味を巡って論争が起こるに違いない。大谷資料館はここ最近でベスト3に入るくらいの興奮したなあ。

 1時間くらい地下空間を堪能して、16時47分のバスに乗って再び宇都宮駅方面へ。今回は宇都宮駅まで行かずに途中の県庁前で降りて、宇都宮の市街地を歩くことにする。さすがに人口50万人を超える栃木県の県庁所在地だけあって街の規模も大きい。パルコもある。街の中心にどすんと二荒山神社が鎮座していてお参りしていきたかったのだけど、時間が早いうちに餃子を食べておきたいと思い、二荒山神社の近くにある宇都宮みんみんの本店へ。

 ところがみんみんの本店はびっくりするほどの大行列で、並んだら少なくとも2時間はかかりそうな雰囲気だった。お盆だということを差し引いても、まだ夕食時間でもない午後5時前過ぎに何でこんなに並んでいるのかが理解できない。申し訳ないけど餃子ごときで並ぶのは我慢ならなかったので、本店は諦めて別の店舗で食べることに。本店があれだけ込んでいたから別の支店もだめだろうなあとは思いつつも、一縷の望みをかけて宇都宮駅東口にあるみんみん駅東口店へ。でもやっぱりここも大行列。今日は宇都宮を代表するもう一つの名店である正嗣が休みだったので、みんみんの方に客が流れているのかもしれない。

 駅東口も駄目だったので、最後は宇都宮駅に直結しているホテル・アールメッツ店へ。ここは穴場なのか、本店・駅東口店と比べると行列は少なかった。それでも30分は待たないといけないらしい。餃子のために並ぶのは非常に癪だったけど、宇都宮まできて餃子を食べないのも悲しすぎるので、仕方なくここで並んでおくことにする。意外と回転が早かったのか、20分程度でカウンター席に案内された。

 今日はここまで暑かった上に、餃子を食べるためにうろうろして疲労感が最高潮だったので、まずはビール。プレミアムモルツが五臓六腑に染み渡ってまさに生き返るという表現がぴったり(写真は飲みかけですみません)。ビールで喉を潤した後、お勧めの組み合わせだという焼餃子2人前、水餃子1人前にご飯のセットを注文。焼餃子1人前と水餃子半分をビールのつまみで食べ、残りをご飯とともにいただく。疲れと空腹もあって間違いのないおいさだった。ただみんみんの餃子はにんにくやニラがあまり入ってなくて比較的マイルドなので、パンチという意味では個人的には少し物足りない気がしないでもなかった。これだけ歩いて探して結構待ったにしては、少し物足りないかなあというのが正直なところ。今度は地元民に人気だという正嗣の餃子を食べてみたい。


<宇都宮市街地>

<みんみん駅東口店も大行列>

<何とかみんみんにありついた>

<焼餃子2・水餃子1とライスのセット(790円)>

 餃子を食べて全ての用事が終了したので、18時49分発の湘南新宿ライン大船行き乗って帰宅。21時2分、無事吉祥寺に到着。

 今回は途中で当初の予定が狂ってしまったけれど、そのおかげで大谷石関連の施設を見ることができたのでよかった。特に大谷資料館は圧巻なので、個人的にはおすすめです。残ってしまった烏山線や真岡鉄道はまた次の機会に・・・。


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