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石榑峠、最強の幅員制限を体験する


すれ違いもままならない狭隘な峠道、というのは全国津々浦々で見られるシーンですが、そのステージに入る前に、門番の如く物理的な幅員制限を課している、となると話を聞きません。

峠道よりもその「物理的な幅員制限」で名を馳せているのがR421の滋賀、三重県境にある石榑峠(いしぐれとうげ)です。峠の前後にある国道の本線に立ちはだかるコンクリート製の頑丈なブロック。この2mの関門をすり抜けられない限り、峠を越えることは許されないというまさに門番です。

このゲートの存在こそが、本来地味な近畿地方のマイナーな峠に過ぎない石榑峠の名を全国に轟かせているのです。

そして2008年の夏、この石榑峠に挑んでみました。

あのゲートを抜けて...(いなべ市側)



写真は2008年8月撮影


門番の如き幅員制限というケースは、抜け道的利用を拒む目的で農道と幹線道路の接続部に設置されているのは実はそれなりに目にしますが、3桁国道とはいえ一応幹線道路とされる国道の本線に設置となると、これは聞いたことがありません。

農道ならこの程度は日常茶飯事(千葉県印旛村にて)

その唯一の例?となるのがR421の滋賀、三重県境にある石榑峠。
山麓を長大トンネルで、いや、峠の鞍部を短いトンネルで抜けることもなく、地形に忠実に谷を詰めて峠に至るという線形は、言い換えれば延々と続く羊腸の小径でもあります。

●近江路から峠まで
神戸を早朝に発ち、瀬田、草津付近での名神と新名神の分岐を外から観察したあとに辿り着いた八日市ICが今回のスタート地点です。
琵琶湖の東、穀倉地帯でもある近江盆地ののどかな風景を行くR421からは、「鬼の門番」がいる峠道の存在など窺い知る事が出来ません。
いや、2トン車以上通行できませんという表示が繰り返し出てくるのですが、なぜ2トン車なのか、重量基準のこの警告には、重量制限を課す何かの存在は想像できても、幅員制限までは想像できるものでもありません。

ようやく現れた幅員2m制限予告

とはいえ「八風街道」という名称を見ると、北勢地区に路線を伸ばす八風バスを連想し、鈴鹿山脈を越えた三重へ続く道路であることをうかがわせます。
旧永源寺町域に入ると琵琶湖に流れ込む河川のひとつである愛知川が寄り添い、永源寺ダムにかかる頃、ようやく山めいてきますが、それでも峠の気配はありません。

妙な国道表示もあります

ダム湖が果て、小川となった川沿いに遡るうちに、道路改修工事が目に付きます。どうも石榑峠をバイパスする長大トンネルが工事中のようで、まさかの改良がなされるようですが、R21〜R8で関ヶ原か、R1で鈴鹿峠か、という両県間にもう一つ、冬でも安全に通れる道を作る意義はゼロではないにしろ、両ルートとも名神、新名神という高速道路まで付いてくるなか、この工事が本当に必要だったのかは疑問です。

その石榑トンネルの滋賀側坑口の手前で時ならぬ渋滞。
どうも作業用車の出勤時間帯のようで、大型車を含む車両を現場に取り込むために国道の通行が一時遮断されている格好ですが、関係者以外で巻き込まれているのはごく少数でもあり、影響は些少、というか、その程度の道にバイパスということになってしまうのです。

石榑トンネル滋賀側坑口付近

ここを過ぎるとまあ当たり前ですが改良は終了。
路肩や擁壁に手が入り、道路も当然アスファルト舗装と、意外とコンディションはいいですが、谷筋に忠実に進むため向こうに見える稜線がなかなか近づきません。

峠へのワインディング

手が入っているというのは災害が多いことの裏返しのようでもあり、後述の通りこの区間はこのあと豪雨で土砂崩れで通行止になり、冬季閉鎖期間が明けても未だ通行止扱いとなっており、災害に対する脆弱性も高いのですが、だとしてもバイパスの必要性とまでは、となってしまいます。

まず目に入るのはノーマルな光景

一歩一歩着実に上り詰めるような歩みでようやく稜線が近づくとそこは県境の石榑峠です。
えっ?「門番」は??とお思いでしょうが、滋賀県側のゲートはなんと峠の手前にあるのです。
上り詰めて広がる峠の広場。県境を示す表示に目が行くと同時に目に入るのが進路にたちはだかるコンクリートの関門です。

ドーンとこの迫力(三重県側から)

羊腸の小径が終わって開けた風景に目が慣れてしまうとこの幅員はいかにも狭いです。
5ナンバーなら楽勝、3ナンバーでも行ける、というだけの幅員はありますが、見た目がなんともというわけで、しかも無数のこすり傷がゲートにあるのまで目に入っては怖気をなしてしまう人も多いでしょう。
特に「国道」を信じてきてしまったような初心者なら。

正面は中継所、右手にブロック...

実際には両側に駐車車両がいる狭めの駐車場に入庫する感覚でしょうか、車幅感覚をきちんと取り、まっすぐ突っ込めばまず大丈夫です。
当然するりと抜けて三重県側に入りましたが、それにしても異様な光景です。
三重県側から見ると、道路はそのままNTTドコモの中継所に上る格好となり、正面には門扉が閉ざされて進入を拒みます。そして右手に分岐する格好で峠の広場に入ると正面に例のゲートと、これ以上進めるか!という光景ですが、よく見るとこの「隙間」が県境の通路なのです。
もっとも、三重県側から来たら三重県側の「門番」の許しを得ているわけで、「ああ、ここにも」という感覚なのでしょうが。

●そして北勢へ
さて、滋賀県側から来るとここにゲートが、門番がいる、ということは、本来ここで節目となるはずの峠のてっぺんが実は「地獄の始まり」ということなのです。
三重県側に向けて下りだすと、舗装道路であることは変わりませんが、丸い刻みが入ったコンクリート舗装の道路からは急勾配であることが伺えるとともに、幅員が1車線ギリギリに減ってしまうなど、いわゆる「酷道」ぶりが牙を向いた格好です。

峠はハイキングコースの基地

NTTドコモの管理用道路と言われても信じるしかないような道ですが、石榑峠は街道名にもなっている八風峠などへのハイキングのベースになるうえに、「酷道」マニア、そしてナビに騙されて「最短ルート」を選んでしまった初心者などが入り乱れる休日などは、まさに例のゲート、特に峠のゲートを先頭にかなり渋滞することもざらのようです。
それも無理ないとしか言いようが無いすれ違い不能な小径を下り降ります。

三重県側はさらに酷く...

バイクくらいしかすれ違う車両はなく、たまにクルマに出会ってもたまたま幅員がある箇所と運にも恵まれ、三重県側の関門に辿り着きました。
こちらは山間の平坦部にひっそりとという感じで、峠にそびえる滋賀県側ゲートほどのインパクトはありません。
そうはいっても2mの関門であることは変わりがなく、さらにはゲートの横に草に埋もれた駐車スペースのような広場があるため、なんだ迂回できるのでは、と思わせておいて、実は本線側とはガードレールでしっかり分離と言う厳しさは峠のそれと好一対です。

こちらもがっちり(三重県側から)

さらに下ると石榑トンネルの三重県側坑口。
2006年着工、そしてこの訪問後、2009年1月に貫通して2011年の開通を目指している4100mあまりのこのトンネル、スペースが取れないのか、R421本線を切り裂くようにバイパスの構造物が横切り、現道は鉄板敷きの仮設桟道で切り回されています。

仮設桟道

ここからはトンネル開通後も当然使う区間なので再び改良の手が入ってきています。
いなべ市(旧大安町)のR365までの区間はありがちな山から里へ下る道路と言う感じで、見所もさほどありません。
やがてR365にぶつかり、私は関ヶ原へ向けて北上し、次なるターゲットを目指したのです。

石榑トンネル三重県側坑口

私が通ってから2ヶ月もたたない2008年9月3日、集中豪雨により石榑峠を挟む区間でR421は各所に決壊箇所を生じ、通行止になりました。
この区間は石榑トンネルでバイパスされる区間であり、所定の冬季閉鎖期間が過ぎた2009年5月現在でも通行止は解除されていないことから、このまま復旧されることなくバイパスで交通を確保、となる可能性は否定できません。

もちろんNTTドコモの中継所へのアクセスが必要ですが、三重県側からの道路のみ「管理用道路」として確保するにとどまる可能性もあるわけで、八風峠などへのハイキングへのアクセス用「だけ」に本格復旧させるのかどうか。
道路事情を考えると、三重県側を廃道にして、石榑トンネル西口から峠へのアクセス路を確保したほうがいいのですが、どういう復旧の絵図面を描いているのか。そしてあの「門番」の今後はどうなるのか、気になるところです。




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