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「通行困難な悪路」を行く


ロードマップにはいろいろな情報がありますが、道路そのものの評価が乗っているケースがあります。いわく、「渋滞」「悪路」「崩落危険」、さまざまなメッセージからはその道路の様子がうかがえます。

中には、「大渋滞」というような通る気が失せるようなものもありますが、そうした表示のなかでも、長野・山梨県境の川上牧丘林道に添えられた「通行困難な悪路」はひときわ目を惹きます。

そう書かれると走ってみたい誘惑に駆られるのが人情ですが、一方でせっかくの愛車をオシャカにしてしまったり、最悪の場合は落石や滑落で命を落としてしまうリスクが多分にあるわけです。

そしてこの夏、ついに思い立って川上牧丘林道に挑んでみました。
結論から言うと、走行記を書ける訳ですから、少なくとも落命はしていません。そして栄冠は手にしたのか...

ずらり並んだ警戒標識(大弛峠)



写真は2006年8月撮影


●さてどう攻めるか
川上牧丘林道、古い地図だと峰越林道となっているものもありますが、長野県川上村と山梨県山梨市(旧牧丘町)を南北に結ぶ林道です。
そのピークは大弛峠。標高2360mは乗鞍にマイカーで登れなくなった現在、自家用車でいける日本最高地点です。甲武信三国にまたがる山々の鞍部を越えるこの峠、金峰山や甲武信ヶ岳といった名山へのアプローチでもあり、かつこれらの山々を間近に眺めるポイントでもあります。

そのアプローチですが、牧丘側はあまり考えることもないでしょう。中央道勝沼ICに出るか、もう一度峠越えを選択し、R140で雁坂トンネルを経て秩父に抜けるか、R411で柳沢峠を越えて奥多摩に出るかです。
一方の川上側は難物で、まともな道路を選択すると、野辺山方面から須玉か佐久か、という大回りになります。ところが川上牧丘林道の終点、小海線のほうに進路をとらずに反対を向くと、その先埼玉県につながる林道が見えます。

これが唯一の道路での埼玉長野県境になる三国峠を越える中津川林道。しかしここも有名なダート道で、地図によっては「悪路」の文字が光ります。
しかし、川上牧丘林道に挑むのであれば、お誂え向きに中津川林道も同時に制覇できます。結局、両林道制覇をターゲットに行程を組んだのです。

ところで私のクルマはオフロード車やクロカン四駆ではないただの乗用車。しかもスポーツタイプの車高が低いハードトップですから、本来このような林道ラン自体が無謀です。
とはいえダートや林道はこのクルマでもそこそこ経験値を積んでおり、そこから導き出された結論は、スピードコントロールが難しく、ブレーキを踏むと車体が沈み込むので、厳しい区間は極力上り側で通過するということ。幸い中津川林道、川上牧丘林道とも峠を挟んで片側が舗装路で、中津川→川上牧丘の順で走ると上りダート、下り舗装路になるので、秩父から勝沼へ抜けることにしました。

●まずは秩父へ
時間があれば勝沼からR140で雁坂トンネル経由で秩父湖の上流域に出て、中津川林道へ、と言う勝沼起点の一周コースも考えたのですが、ちょっとハードです。結局素直にR299正丸トンネルからR140と言うコースにしました。

正丸トンネル

幸い渋滞はなかったものの、一般道での行脚は速くもないまったりとしたペースで時間だけがたってゆきます。セメント採掘で変形した武甲山をみやり、山深くなると対岸は三峰口。ここを過ぎるとワインディングという感じです。
雁坂トンネル開通で埼玉と山梨を結ぶ観光ルートとしての期待もかかり、「彩の国さいたま」と「甲斐の国」で「最下位」もとい、「彩甲斐街道」と名づけられたルートを進みます。

秩父湖方面との分岐

改修で長期運休に入った三峰ケーブルを過ぎ、温泉がある道の駅を過ぎるとT字路。雁坂トンネル開通直後は山梨方面も左折でしたが、今はバイパス(大滝道路)が出来たので右折。開通当初に走った時は、秩父湖の先で三峰神社に向かうルートを分けるトンネル内分岐を経て、秩父湖沿いの隘路への対応として、雁坂トンネル工事用に作られた湖畔の作業用道路を西行き車線とし、R140は東行きのみと言う形で捌いていました。

ループ橋を仰ぐ

さて右手は中津川集落への道。そして中津川林道へのアプローチです。地図を見るとR140のバイパスとは早々に分岐して断崖の羊腸の小径という印象でしたが、かつて夜になってから通った時に幻想的だったループ橋など、R140をしばらくトレースするようになっていました。
こうなったのは滝沢ダムであり、ダム対策でR140がループ橋になって約8年、ついに試験湛水が始まりました。

中津川林道へはここを右折

将来は湖畔の快走路となるであろう大滝道路を行き、中津川への道路に別れてもしばらくは同じような快走路です。そしてようやくダム湖が尽きるのか、左から旧道が寄り添い、合流したとたん「いつもの」田舎道になったのです。

●中津川林道を行く
細道ですが隘路と言うほどではありません。林道区間との境にある彩の国ふれあいの森までは西武秩父バスが通っています。
しばし進むと金山志賀坂林道を分岐するポイント。トンネルの中に抜けて行きますが、ここで初めて直進側に「川上」の文字を出した標識が現れました。

直進は川上、三国峠

彩の国ふれあいの森に来るとちょうど西武秩父バスがいました。普通の中型車ですが、最近ではこういうローカル路線はおしなべてマイクロなのに、かえって珍しいです。
ここでトイレ休憩をして、いよいよ中津川林道に挑みます。

三峰口行きのバスこれより林道区間

コテージ群の中を通るうちに林道基点。実は中津川林道は今は「林道」ではなく、大滝村道を経て秩父市道17号線になっています。奥秩父は小鹿野を除けば秩父市になってしまい、かつての大滝村もなくなりましたが、実も蓋もない「市道」で呼ぶ人はまずいないのが現実です。沿道には改修を訴える看板も立っていますが、いかにも山間部と言う小さな集落を抜けるとダートが始まりました。

最奥の集落県道昇格を訴える...

荒川の源流である中津川に沿ってダートが続きます。素掘りのトンネルをいくつかくぐりますが、しばらくは速度にさえ気をつければ無理なく走れる感じですし、幅員はそれなりにあるので交換に手間取ることはありません。通行量は少ないとはいえたまにすれ違うクルマもありますが、乗用車もあり、まあ峠までいけそうです。

素掘りのトンネル

やがて中津川が進退窮まると林道は右に大きくターンして川と別れます。川のレベルに合わせた緩勾配だったのが一変してぐいぐい登ります。標高1740mの三国峠へ向けての攻略が始まりました。
しばらく直登して、突き出した地形を交わして向きを変えると、中津川水系の谷を見下ろすパノラマが広がります。行く手を屏風のように遮るのが埼玉長野県境の峰々でしょうか。

ダート道をぐいぐいと登る

いくつかの林道分岐がありますが、中には立体交差という山中になぜ、という箇所もあります。そうした箇所を過ぎ、さらに登るうちに稜線が近くなります。
この時点でお昼をかなり回ってしまっており、視界が利くどころか雷雲が湧き起こっており、雷雨に警戒しながらの行程になったのは失敗でした。

ゲートを越えると峠は間近

さらに登ると稜線が見えてきました。簡易なゲートを通り、左にカーブを切ると小さな広場に出会いました。三国峠の看板があり、ようやく峠です。林道入口から18km、1時間10分が経過していました。

三国峠

やれやれとクルマを降りてよく見ると、林道はその先にハンプのような小山になった形状で切り通しを越えています。歩いてみると、そこが本当の峠。県境の表記もあります。

小山の部分が本当の峠(向こうは長野県側)

その向こう側は舗装された広場になっており、長野県側と埼玉県側で峠を挟んで「三国峠」を整備していますが、峠を挟んで向き合う姿はなんか変です。
個人的には素朴な埼玉県側の感じが好きですが、見晴らしは長野県側に譲ります。

こちらは埼玉県側


●川上牧丘林道へ
ここからは舗装道路。千曲川(信濃川)源流域の谷を巻くように駆け下ります。
眼下に畑と集落を見てから大きく左にカーブを切り、畑を取り巻くように高度を下げると梓山の集落。ここまでは信濃川上から村営バスが来ています。
交差点で見返すとY字分岐の左手は三国峠、右手は千曲川源流だそうです。

駆け下ると高原野菜畑左三国峠、右千曲川源流

農協の施設など久々に見る大型の建物は大きく見えました。そして秋山の集落の手前で大弛峠への看板に従い左折。いよいよ川上牧丘林道への最終アプローチです。

大弛へは左折(正面は信濃川上駅方面)

急坂で一気に高度を稼ぐとそこは高原野菜の畑が広がるのどかな光景。遠くに異様な形の岩山が見えますが、これは屋根岩。その奥に金峰山などの山々がならんでいますが、雲に隠れています。

屋根岩の奇岩

梓山とともに村営バスの終点である川端下を過ぎ、金峰ふれあいの森で金峰山荘、廻り目平のキャンプ場への道を分けると林道入口。スタートのシチュエーションは中津川林道と似ています。

ここが林道入口


●想像を絶する大弛峠への道
しばらくは狭いものの舗装道路。ただし舗装は簡易舗装でかまぼこ型。中の土盛りが流れたのか穴が空いている箇所が多く、中津川林道のようなダートのほうがマシです。

しばらくはこんなヘロヘロ舗装路

小さな橋にさしかかるとそこからダートです。
落石、路肩、注意、狭隘の黄色い菱形の警戒標識4種をまとめて1枚の看板に書いた標識が立ち、「林道につき整備が行き届いていません」と端から投げてしまったような注意?が立っています。

これよりダート。見よこの警戒標識

そこからのダートはまさに「豹変」と言う形容がぴったりな感じ。
中津川林道のダートは路盤は締まっていて、埋まっている石や岩の尖端でのパンクが注意点だったくらいでしたが、こちらは違います。
石や岩が路面を埋めています。あたかも敷いてある、と言うかそのまま置いた感じで、浮石になっています。雨がえぐった路盤を石や岩を敷いてフラットにしました、と言う感じです。

これでは登山で言うところのガレ場であり、石や岩の大小により大小のギャップもまた発生しているのです。
極力ギャップを回避するため、石や岩の一つ一つを注視してラインを取ります。どの石に乗っていけばギャップに嵌らないか。スピードは目盛りのない10km以下から動かず、徒歩だってそこまでは、と言う速度に落ちることもしばしばです。
狭い道幅を最大限に使い、蛇行しながら進むのです。

連続ヘアピンを行く

急峻かつ気が遠くなるような連続ヘアピンを何とかクリアすると、すこし道が穏やかになりました。高原の雰囲気に気が緩んだ瞬間、派手にクルマが跳ねました。
目線が遠くの稜線に行った瞬間、目の前の大きなギャップを見落としたようで、底を激しく打ちました。さすがに「擦る」と言うレベルではなかったので、停止して底面をチェックしましたがどうやら無事。勾配区間でなかったのが幸いで、勾配区間だと停まる、停まりかけるだけでも浮きまくるガレのせいで空転して再起動が困難ですから。

底を打った現場あたり

終わらない戦い。激しい振動。前方の石の一つ一つを凝視する極度の緊張。
景色を見る余裕どころか吐き気が襲ってきます。四駆なら余裕なんでしょうが、1600cc、4ドアハードトップの11年落ちのクルマには過酷過ぎる道であり、ゴールはまだです。対向車も追い越すクルマもバイクも無く、何かあったら「死して屍拾うもの無し」です。

ちょっとした展望広場があるようですが、これかなと思う箇所はあったものの、停まる気力もありません。空が広く感じる様は峠が近いことをうかがわせますが、峠は見えません。
再び先程と同じような連続ヘアピンが現れます。実はこれが峠近しのサインですが、ヘアピンをこなしても凶悪な登りはとどまるところを知りません。

いつ落ちてきても...

崩れかかった崖を交わすとようやく稜線が見えてきます。この崖の区間、峠までの中で一番やばそうな崩落で、斜面をガレが埋めているといういつ大規模に崩れてもおかしくない感じです。
そしてストレートを蛇行しながら進むと山腹の木道が目に入り、舗装された駐車スペースが現れました。ついに有数のハードなダートを制して標高2360mの大弛峠に辿り着いたのです。

ファイナルアプローチ


●制覇はしたが...
金峰山荘の分岐から、そしてダートの入口からとても長かったように感じましたが、ダート自体は8km程度。1時間もかかっておらず、中津川林道よりもはるかに短いのです。
にもかかわらず疲労感は比較にならず、到着してクルマを降りた瞬間、軽い放心状態になりました。大弛峠の制覇は長年の夢でしたが、正直言って二度目は走る気になりません。

大弛に到着

木道を歩いて高原の雰囲気を楽しみたかったのですが、時間が無いので15分ほどの休憩。視界が案外利かず、大弛小屋から国師ヶ岳まではすぐですし、稜線に出たら視界が利くのでしょうが、時間がありません。
残念だったのは森林限界にギリギリで達しておらず、ハイマツとともにシラカバやダケカンバの群生がありました。見上げると林はすぐに果てているようで、微妙な高度のようです。

この奥は登山道、そして大弛小屋

駐車スペースに停めたクルマを四周から、そして底を覗き込んでチェックしましたが、幸いオイル漏れとかもなく、タイヤも大丈夫そうです。
ただ、フロントのバンパーの裏に土砂や石がたまっており、どうしてそうなるのかが不思議でしたが、ガレ場を進むうちに巻き上げたのでしょう。

なんとか頂上に辿り着いたクルマ

さて帰る前に、と、チップ式トイレに入ったら、中の取っ手が壊れており、開きません。一瞬窓から脱出か、と焦りましたが、よく見たらドア横の窓から外側のノブに手が届き、事なきを得ましたが。

「おにぎり」型の警戒標識

山梨県側は綺麗に整備されています。警戒標識が国道と同じ「おにぎり」型と言うのはご愛嬌です。舗装路に丸太をイメージしたガードレール、長野県側の野趣溢れる姿から見るとちょっとやりすぎですが、山梨県側は金峰山、国師ヶ岳などの登山客が多いだけに、整備せざるをえないのでしょう。峠のキャパシティの問題から、マイクロバス以上の乗り入れが規制されていますが、それでも狭い頂上、しかも長野側はあれですから事実上の袋小路とあって、登山シーズンには混乱を極めると聞いています。

山梨側のゲート

あとは塩山、勝沼に向けて下るだけ。牧丘の千貫岩と言う巨岩が見えるはずですが見えず、金峰牧場のあたり、クリスタルラインの標識が見えてくると柳平で、そのまま進むといつのまにか杣口林道になってしまいます。三叉路を右にとり、ダムの工事現場を過ぎますが、今日はダム工事に縁がある日です。
林の中の薄暗い林道が続き、焼山峠を越え、塩平まで来ると川上牧丘林道の終点です。鼓川温泉のあたりでは下ってゆく方向に谷が開け、正面に堂々たる富士山を望みながらのドライブが、長年の夢であり、そして苦しかった大弛峠越えのフィナーレを飾ったのです。

正面に富士を望んでのラストコース

しばらくすると牧丘の中心となり、R140に合流。さすがに雁坂トンネル経由で秩父に舞い戻る気にもなれず、県道から塩山駅付近を経由し、勝沼ICから中央道で帰りましたが、談合坂あたりから小仏トンネルまでは毎度おなじみの渋滞にはまりました。苦しいながらも達成感のあった一日を振り返りながら...








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