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南紀縦断バスの旅


日本最大の半島、紀伊半島。古くから観光地として知られてきましたが、最近では世界遺産に登録された熊野古道が脚光を浴びています。
かつては観光と言えば白浜や串本など海岸沿いでしたが、知る人ぞ知るの世界だった内陸も熊野古道ブームとともに観光化が進んでいます。

一方でご他聞に漏れず公共交通の苦境は続いており、通好みの山岳路線、狭隘路線が目白押しだった内陸部のバス路線も休廃止が続いています。この10月1日にも、奈良交通が大規模な統廃合を実施したのですが、その中には往年の基幹路線の一つであった熊野線の南端部が含まれています。

このエリアは何度も運転しており、ある意味おなじみの区間でもあるのですが、この夏、熊野線を軸に久々にバスで縦断してみました。

池原で並ぶ杉の湯行きと翌朝の新宮行きのバス


特記なき写真は2006年7月撮影


●「南紀縦断」に吹き荒れる逆風
R169を行く熊野線は、かつてはR168を行く十津川線とならんで「南紀縦断ルート」として時刻表に掲載されており、奈良から新宮までの特急バスが運行されていました。しかし現在も基点を八木駅に移してはいるものの特急バスの運行が続く十津川線と対象的に、川上村の湯盛温泉杉の湯で系統分断され、マイクロバス化された挙句に、特急バスの運行を取り止め、下北山村池原でさらに系統分断され、上下とも池原(河合)に着いたらその先に行くバスがないというダイヤになってしまい、「縦断ルート」といいながら縦断出来ない状態になりました。

ところが世界遺産登録で観光客が増えたからかどうなのかは定かでないですが、2004年の秋から上り(新宮発)の時刻が繰り上がり、池原で杉の湯行きに接続が可能になり、久々に「南紀縦断」が復活しました。このまま盛り返すかと思ったのですが、 今回の統廃合 で直通どころか下桑原−新宮駅間が廃止になり、県境を越えて三重県ならびに和歌山県まで行く区間が消えました。
さらに入之波(しおのは)温泉行き等の支線、区間便も軒並み全廃で、杉の湯以南はこれまでの10往復が2往復(学校開校日は3往復)と風前の灯になってしまいました。

今回の奈良交通の統廃合は、奥吉野の村々には非常に厳しいものになっています。
熊野線関係以外でも、メイン格のR168を行く十津川線も7本(1本は上野地まで)が5本というように減便になってますし、支線区では黒滝村や野迫川村に入る路線が丸ごと廃止と、一部には 村営バスで代替されるケース があるものの、廃止されるままと言うケースもあるようですし、熊野市のように 残る路線もいつまで持つか判らん 、と半ば脅すようなケースすら出ています。

●「南紀縦断」の思い出
この紀伊半島内陸部を巡るバス路線に最初に手を出したのは89年のこと。南近畿ワイド周遊券を手に、ふらりと出かけたのが最初です。
当時はまだあった新宮までの夜行鈍行に乗り、早朝の新宮からJRバス五新線で熊野本宮へ。そこからJRバス熊野線で紀伊田辺に抜けました。

当時のR311は今とは比べ物にならぬ悪路で、離合も困難な隘路でした。当然災害も多く、私が乗った時も途中対策工事のためバスの通る時間だけの時間通行になっており、しかもバスが通れないのでその区間だけ営業所差し回しの軽自動車で移動という体験をしています。クルマを降りて田辺側のバスに乗ると、先程通ったあたりから発破の音が谷を震わせており、えらいところに来たもんだ、と思いましたが、今ではこの区間は全く新しいバイパスになっており、当時の工事箇所もろとも自然に帰ろうとしています。

これで南紀に目覚めたのか、こんどはまたまた南近畿ワイドで田辺からJRバスで湯の峯温泉に向かい、一風呂浴びて熊野交通のバスで十津川温泉へ。当時は十津川温泉の折立まで熊野交通、JRバスも入っており、南紀縦断ルートが華やかだった時代の名残りがまだ少しながら残っていました。

この時は十津川温泉の温泉宿に泊まりましたが、飛び込みで、かつ一人客とあって、女中部屋のような陋屋があてがわれましたが、谷に面した温泉や料理はそれなりによかったです。
翌朝はJRバスで折立へ先行し、奈良交通のバスに。上野地の大吊橋で途中下車し、城戸からは専用道経由のJRバスと、見るものを大概見た感じです。

専用道賀名生停留所
(現在は奈良交通に移管。2005年4月撮影)

当時の南近畿ワイドは、JRバスも熊野線、五新線とあり、さらに鉄道も湊町(JR難波)や名古屋までが自由周遊区間と非常に使い勝手が良く、それでいて東京からだと大阪往復に若干のプラスと言うのがうれしかったです。

そして奈良交通の「十津川くまの特急」にも挑みました。「新宮夜行」で新宮に着き、早朝の八木駅行きで出発。途中湯の峯温泉、熊野本宮大社、温泉地温泉と途中下車して五条駅まで1日かかりの旅でしたが、片道分の運賃で志古−天辻は途中下車自由になる「168バスハイク乗車券」を活用できました。

十津川村内を行く特急バス(2005年4月撮影)

一方のR169はなかなか乗る機会がありませんでしたが、91年頃に上市駅から杉の湯乗り換えの特急バスで熊野市駅まで抜けています。大滝ダムの工事で高台に移転した杉の湯で乗り換えたのはマイクロバス。今回乗ったバスよりも小さい感じです。
新道は杉の湯までで、いったん戻ってダム湖に沈む旧道を延々と進み、熊野市へ抜けましたが、さらに南紀特急バスで矢ノ川峠を越えて松阪まで回る濃い旅でした。

かつては伯母峯越え以北の全線がこんな感じ
(大迫ダム付近。ここは1973年以前に付け替え済)

神戸に引っ越してからはもっぱらクルマで巡ってますが、行くほどに味わい深いエリアです。

●スタートラインの紀伊田辺まで
熊野線は1日で縦断できますが、その新宮発は10時45分。松阪経由で熊野市で乗り込まない限り、朝に神戸を出ては間に合いません。
ゆえに1泊で行程を組んだのですが、そうなるとR168で行ってR169で帰るという「黄金ルート」になるのは自明のことです。

唯一の誤算は名鉄、近鉄、南海と系列のバスや観光船が3日間フリーの「ワイド3.3.SUNきっぷ」が発売されなかったこと。それどころか基本3社の鉄道のみの「3.3.SUNフリーきっぷ」も今夏の発売が最後という話で、愛用していただけにショックです。
奈良交通は近鉄系で、「ワイド」の対象。もちろん近鉄と組み合わせて奈良・大和路の観光対応と言う趣旨だったんでしょうが、延々と新宮まで行く路線も「高速バス」でない一般路線のため対象になっており、好事家には「ワイド」を使い倒す路線として有名でした。

さて当初新宮で考えていた宿が思わしくなく、あれこれ探すうちに、いったん本宮から紀伊田辺に出て、翌朝本宮経由で新宮に出ても熊野線に間に合うと言うことに気づきました。
奈良交通だけで通せば「168バスハイク」が目いっぱい使えますが、こだわる必要はないでしょう。紀伊田辺往復も、田辺行きは熊野古道見物対応の旧道経由で、田辺発は新道経由といい塩梅です。
で、田辺の宿を予約してましたが、急に大阪で夕方近くまで用事が入り、R168経由でのんびりともいってられなくなりました。幸い、大阪駅からの高速バスに乗れば田辺に入れるので、十津川温泉や旧道を諦めることにしましたが、こちらはまだ残ります。

そんなこんなで迎えた当日、大阪駅からの新型ガーラ使用の西日本JRバスの白浜行き高速バスに乗車。「オーシャンアロー」などと競合するバスですが、かなり鉄道を食っているのかこの7月から8往復に増強。予約画面を見ると2台口での運行も多く、海南以南の対面通行区間での渋滞が慢性化している阪和道、湯浅御坊道路でこの伸長ぶりは立派です。
当日は1台口でしたが満席。鉄道と違い山間を行くため海は全く見えないのが難点(まあ日没後でしたから同じですが)ですが、阪和道の終点、みなべICで降りて、なんでもない路上停留所でも三々五々降車客があり、大半は田辺市内での降車と、紀勢線が複線で、振子電車使用で競争力がいちばんある区間(鉄道:2時間、高速バス:3時間半)でバスがしっかりと言うのは新鮮な発見でした。

●「熊野古道」に分け入る
本宮大社経由、発心門王子行きのバスは田辺駅6時25分の発車。人気の無いフロントの鍵回収箱に鍵を返して出発です。龍神バスは田辺駅を通り越し、紀南病院を起終点にしており、駅の一つ手前の湊バス停が宿のそばなのでそこから乗ります。

早朝の紀伊田辺駅前

一本入ると夜の街という駅前通り、近くでホステスのおねーちゃんが泣きながら路上でうずくまってる湊バス停から龍神バスに乗車。驚いたことに駅から観光客が5人乗車しており、熊野古道関係のニーズはかなり強いです。

湊バス停にやって来た龍神バス

この乗客が沿線の熊野古道の王子(小さな神社)や散策ポイントで見事に降りて行きますし、乗り込む人もおり、バスと徒歩をうまく組み合わせて移動しているようです。
実はこの路線、上記の通りかつてはJRバス熊野線でした。いまでも途中の栗栖川まではJRバスが走っており、末端の不採算区間を切り捨てた格好です。

この廃止が2002年3月ですが、2年後の2004年7月に熊野古道が世界遺産に登録されたのです。
沿線にあたる「中辺路」は古道の雰囲気をよく遺しており、さらには終点の本宮大社が熊野古道の「目的地」とあって観光客も急増。JRバス末期には3往復だった本宮直通は4往復になり、さらに旧道経由の季節便が2往復。美術館のある近露までさらに1往復と、完全に盛り返しています。栗栖川でJRバスから接続と言う便が成立するほどですし、乗車した早朝便ですらのべ10人以上が乗るような感じですから、まさに大化けです。

逆に切り捨てたつもりのJRバスは旧中辺路町の中心である栗栖川までを押さえたものの、「中辺路」のメインステージの手前で折り返してしまうわけで、日常利用には強い区間だけに絞ってはいますが、観光需要に関しては完全に取り残されています。

JRバスの駅だった栗栖川


上富田の裏山が崩れたあたりの規制をみやりつつR311を進みます。
栗栖川のJRバスの営業所にいったん入ります。ここからは龍神バス単独区間で、バス停もここまでのJRモードから一変します。
逢坂トンネルをくぐると近露。いったん国道(新道)から分かれて美術館などがある古くからの集落側の道に入り、なかへち美術館前で5分間休憩です。

休憩を取る熊野大社・発心門王子行き

ここでお遍路さんよろしく笠を被った旅行者3人が乗り込みましたが、彼らの目的地は小広峠。
こういう歩き遍路ならぬ歩き熊野詣のケースも多く、公共交通のサポート次第ではさらに発展できる感じです。
狭隘区間が続く旧道と分かれて新道へ。小広峠はトンネルで通過。旅行者を下ろして地元客と私だけになりました。

近露の街中を行く

かつて軽自動車で運ばれた区間は旧道を踏みつけ、トンネルでぶち抜き大規模に改修されています。最後に一つトンネルを抜けると湯の峯、本宮方面への分岐。R311はR168にぶつかるところまでの新道が出来ていますが、かつてはこれから向かう隘路がR311でした。
トンネル完成までの分岐だった将蓋の峯からは急坂と狭隘区間。それを過ぎると谷間に身を寄せ合うような湯の峯温泉の温泉街です。

湯の峯温泉


●いで湯でくつろぎ新宮へ
硫化水素系の湯の香が漂う温泉街に着いたのは早起きしただけあってまだ8時前。ひょっとしたらと思い公衆浴場の受け付けで尋ねると貸切の「つぼ湯」が空いていました。入浴料が3倍近くなった「つぼ湯」ですが、世界遺産記念の暖簾が記念品に付き、公衆浴場にも入れるようになっており、値段で混雑をコントロールした格好です。

小栗判官伝説の「つぼ湯」

まあつぼ湯はお湯は最高ですが狭くて眺めも利きません。板戸を上げれば視界が広がりますが、周囲からモロ見えになります...
「つぼ湯」は話題と割り切って、公衆浴場でゆっくりというのがベストのようです。その公衆浴場は源泉のままの「くすり湯」と、水でうめた「一般湯」がありますが、「つぼ湯」が濃かっただけに、朝風呂ということもありあえて一般湯に入りました。実は「くすり湯」のほうが高く、「つぼ湯」入浴者はどちらにも入れるとなると、「一般湯」だと損なんですが。

峠を越えてやってきた新宮行きのバス

新宮行きまでの時間は50分ほど。湯上りの火照る身体をバス停のベンチで冷ましていると、ちょうど宿をチェックアウトする時間帯なのか、帰り客が集まってきました。旅館の主人が見送りに来ている宿もあり、本宮大社前始発で湯の峯8時46分発の湯の峯からの乗車は9人で都合12人。まずまずと言う感じです。
河原の「千人風呂」で名高い川湯温泉を経て、R168へ。瀞峡観光船乗り換えの志古で湯の峯からの家族が降りており、伝統的な観光パターンです。

本宮道路(2005年4月撮影)

延々と続く隘路と言うイメージのあるR168ですが、2005年3月開通の県境の本宮道路に続き、熊野川本宮道路が2006年3月に開通しており、徐々に改修が進んでいるようですが、五條新宮間から見ると微々たる感じです。
この区間、バスは旧道を走るはずですが、接続部分の改修と言うことで8月7日まで新道経由に。旧道上の集落との連絡用にトンネルの南詰に「バス連絡タクシー」のプレートを掲げたワゴンタクシーが待機していました。

悠々と流れる熊野川(新宮川)

新宮市内に入ると中心街を一回り。最後は紀勢線が熊野川手前でくぐる小山を乗り越えるちょっとした峠越えまでして新宮駅に入りました。
到着は10時2分の定時よりやや早かったようです。ちょうど駅前から9時58分発の八木駅行きが出て行きましたが、これが3往復ある八木駅行きの「最終バス」です。

●熊野灘から北山峡へ
いよいよメーンイベントです。
時間があり、かつ食事を取っていないので、新宮駅で「めはり寿司」を購入し、ベンチで食します。熊野線の乗り場は熊野交通の乗り場に間借り。1日2本のバスですが、これから乗るバスは時刻表では池原行きではなく、杉の湯経由八木駅となっており、往年の南紀縦断ルートをささやかながら主張しています。

ちなみに新宮のバス乗り場は単純なようで複雑で、駅舎に近い場所に案内所を置き、奈良交通の八木駅行き特急と熊野交通の瀞峡連絡バス、明光バスの特急バスと、観光系統を集めています。

観光系統はこちらから

少し下がったところの熊野交通営業所前からは熊野交通、三重交通、奈良交通の一般路線バスが発車。本宮への熊野交通はこちらになります。

一般系統はこちら

そして名古屋や東京池袋への高速バスはさらに下がった「新宮市」バス停。駅に近い乗り場はJRバスだった路線、地元の会社が営業所を構え、隣県のバス会社による高速バスは駅に入れないと言うありがちなパターンです。

昔なつかしの系統も網羅した路線図

乗り場に掲げられた路線図は年代もの。今は無い路線も多く書かれており、郷愁を誘います。
そうした中に入ってくるバスには昨今の例に漏れずコミバス系統もあるのですが、その名称が「ふれあいばす」と「こみゅにてぃばす」、まんまやんけ、と突っ込みを入れたくなる名称です。

池原行きが到着

待つうちに奈良交通の一般カラーの小型車が到着。「池原(急行 新宮駅−熊野市駅)」の表示です。すでに「ご同業」の方がおり、「ヲタ席」には座れなかったのですが、乗客は「ご同業」のみ3人。運転手も手馴れているのか、「池原までですか」と最初から確認です。
奈良交通のICカード「CI-CA」を扱っていることを確認して購入。3000円で500円がデポジット、2500円に対するプレミアムが320円で2820円からのスタートですが、車内購入はさすがに南紀営業所ではまずいないのか、なかなか設定がうまくいかず、説明書も切らしてました。

熊野川を渡る新熊野大橋

10時45分に新宮駅を出発。こちらはすんなりとR42に出て、すぐに熊野川を渡ってループ線のように下って三重県に入ります。製紙工場の税収を手放すまいと言う感じで独立を守る鵜殿村を経て、やがてバスは熊野灘を見やるコースを走ります。
おおらかな海沿いの道を海無し県を本拠とする奈良交通バスが走るのも既に過去のものになりましたが、獅子岩、鬼が城の奇岩をアクセントにした七里御浜の眺めは秀逸です。

名勝獅子岩を奈良交通バスの車内から...

ちなみに10月1日には熊野交通も改正を行っており、県境を越えて熊野市、鬼が城へ向かう路線が廃止になっており、県境同様奈良、三重、和歌山の会社が入り乱れていたエリアも急速に整理区分が進みました。

熊野市駅に入ると老人が乗車。買出しなのか大荷物ですが、そのうち一つを解いて弁当を遣い出しました。下北山村まで乗るのでしょうか、長旅です。
11時半、結局4人で内陸に向かいます。鬼が城を過ぎ、大泊で紀勢線とお別れ。ここは今でこそバイパスになってますが、かつてのR42は大泊駅付近のガードをくぐっていました。ここに高さ制限がかかっていたため、標準的なスーパーハイデッカー車が通れず、西武と三重交通が池袋−勝浦の路線に車高を下げた特注車を投入していました。

佐田坂から熊野灘を望む

バスは大泊の集落を行くため旧道経由。件のガードをくぐり、いよいよ佐田坂に挑みます。
ここは北山川水系との分水界。しかも片峠が海のそばにあるという特殊な地形ですが、紀伊半島東部には紀伊長島の荷坂峠も同じ形態であります。
熊野灘が見えなくなると峠。ここから瀞峡を経て新宮に注ぐ北山川水系になります。
小阪でR42と別れてR309へ。のんびりとバスは進みます。

●紀伊半島の深遠部を行く
三重県熊野市北部の山村の外れになる桃崎で三重交通のバス路線は途絶えます。
瀞峡方面からのR169が合流して道路もR169になります。そして七色ダムの貯水池になって下る大又川に沿って進みます。
ちょっとしたトンネルを越えると川の流れが逆になり、北山川本流を今度は遡上します。このあたり、対岸は飛び地の村として有名な和歌山県北山村、そして小口橋の手前で奈良県下北山村に入ると言う三県の錯綜地で、人家を全く見ません。

七色貯水池の静かな水面

素掘りのトンネルを通り、またトンネルと言う手前で左折してR169といったん別れます。
谷が開け、集落が見えると下桑原。10月からの熊野線の終点です。北山村への短絡路になる不動トンネルを上桑原で分け、下北山村役場のある寺垣内(てらがいと)と進みます。R169沿いでダムがあり、温泉や公園がある池原が中心のように見えますが、役場はここまで引っ込んでいます。熊野市からの老人もこのエリアで降りていきましたが、10月からはどうするのでしょう。

不動トンネル(2005年4月撮影)

なお10月からは下北山村営バスが不動トンネル経由で北山村七色に抜け、三重交通バスもしくは北山村営バスで熊野市に抜ける便が従来どおり2往復確保され、北行きの1本は池原5分接続と微妙ですが、南紀縦断も可能になっています。下北山村営バスは当面の間無料ですが、土日祝日と年末年始は運休であり、厳しさが募ります。

眼下に広がる池原の集落

ここからは十津川から果てることの無い山道を越えてきたR425に合流。ひときわの隘路で松葉垣内(まつばかいと)を回り、池峯公園、明神池を過ぎると眼下に池原の集落が広がります。
逆落としのように下り、12時55分、池原の営業所に到着。新宮駅から2時間ちょっとで2400円でした。

池原に到着したバス池原行きの経由幕

一気に残高が減ったCI-CAにチャージしましたが、あとから考えたら乗車時間の条件が適うので割引率の高い「ひまわり」チャージにすればよかったです。
同じバスが杉の湯行きになるまで約2時間。運転手に近道を聞いて下北山温泉「きなりの湯」へ。
温泉でくつろぎ、湯上りに生ビールを空けて、名物の茶粥定食に舌鼓。これぞ公共交通利用の醍醐味ですが、それくらいしかアドバンテージが無いのも事実です。

きなりの湯

池原の営業所に戻ります。営業所と言っても窓口扱いなどは無く、乗務員の休憩・宿泊所とバスの夜間車庫と言う感じ。
かつてはにぎわっていたのか、商店らしき建物が見えますが、営業しているかは定かでないです。

池原営業所車庫部分

14時39分発の八木連絡杉の湯行きは運転手も乗客も同じメンバー。池原ダムの巨大な堰堤を交わすように上り詰めると池原貯水池。不動七重の滝や前鬼宿坊への分岐となる前鬼口の先、前鬼橋を渡ると上北山村に入り、上北山村の中心である河合でようやく普通の乗客が3人乗ってきました。

池原貯水池と前鬼橋不動七重の滝(2006年6月撮影)

R169は徐々に高度を上げます。右手に大台の稜線を見やり、吉野川(紀ノ川)水系との分水界になる伯母峯の峠を新伯母峯トンネルで通過。かつてはここから狭隘区間が杉の湯まで続いたのも昔語り、ループ橋も交えた高規格な伯母谷道路で一気に抜け、池原から1時間で大迫ダムに着きました。

新伯母ヶ峯トンネル(2006年6月撮影)

さて、何も無いダムサイトで降ります。
というのも、やはり10月から廃止になった入之波(しおのは)温泉への支線便がちょうどあり、いったん入之波温泉まで往復して杉の湯に抜けられるのです。

大迫ダムを出る杉の湯行き

クルマでの観光客目当てでしょうか、鮎の塩焼きの屋台があり、買いましたが、クルマが泊まった気配も無いのに客が来たということで売り子の姐さんが不審げな目をしてました。

入之波温泉から見た大迫ダム湖

やってきたバスは老人が2人乗車。自由乗降区間とはいえ、停留所がなく次は終点入之波温泉。
2ヶ月前にクルマで温泉に来た場所ですが、その奥まったところにある旅館の赤茶けた辛いお湯は強烈で、カルシウム分の析出で杉やケヤキで出来た風呂が「岩風呂」になっています。
ただ折り返し時間は20分で、今回は素通りです。

入之波温泉で発車を待つ(2006年5月撮影)

R169に戻り、柏木の集落で狭隘な旧道に入り、かつての営業所跡の柏木停留所を通ります。
大滝ダム建設で移転した集落を縫う新道を走り、30分ほどで湯盛温泉杉の湯へ。八木行きは6分の接続です。

杉の湯のバスターミナル

●旅の終わりへ
バスの乗り継ぎポイントで、道の駅併設なのにかつては立ち寄り不可だった杉の湯も、今は平日の日中に限り日帰り客を受けています。上北山村にも温泉併設の道の駅がありますから、杉の「湯」を名乗る道の駅で入浴不可というのは周辺とのバランス上も問題と言うことでしょうね。
その杉の湯を通すバスはいまや大台ケ原へ直通する特急バスのみ。といっても車両はこのあたりの路線バスと同じです。

の大台ケ原に集う特急バス(2006年6月撮影)

新道や新しい集落の元になった大滝ダムは、試験湛水の水圧で周辺の地盤に異常が起こり、工事をやり直したと言う稀有な経緯を辿ったダムで、いまだに水が張られていません。その異様な眺めを経て、ダムサイトを過ぎるとR169は高度を下げ、大滝の集落に入ります。

この便はR169経由で無い国栖(くず:停留所名は木偏に巣)経由便です。国栖の集落は昭和30〜40年代の趣がありました。
この便、「くず」は通るし、上市駅の先では「むだ」(六田)も通るし、駄洒落のような面もありますが、国栖の先の吉野川(紀ノ川)には「記憶に残したい吉野川、ごみ、くずは残すまい」
という河川事務所の看板が。国栖の住民はどう見てるのかな...

吉野川に沿う上市の市街地

吉野川に沿って伸びる上市の市街地の区間も国栖と並んで懐かしさを覚える風景ですが、河原で花火がある影響で渋滞。上市駅着が若干遅れて電車乗り継ぎ客が、目の前で乗るつもりだった特急が出てしまい慌ててました。
直後のあべの橋行き急行と同時にバスは出ましたが、急行は次の六田で急行吉野行き、特急のダブル交換。バスが大淀バスセンターに曲がる下市口の手前でようやく急行が抜きましたが、電車は吉野口を迂回するため、壺阪山で追いつきました。

急行はここと岡寺で急行とそれを追う特急と交換するため、結局岡寺時点ではバスが逃げ、橿原神宮前駅への取り回しで時間を食いましたが、ほぼ同時でしょう。迂回や交換のせいもありますが、鉄道はこれでは苦しいです。
もっとも、バスも停留所が駅前のみと、区間利用をほとんど考えていない感じで走るから早かったという事情もあります。このあたり、それなりに人家も多く、こまめに停めれば良いのにとも思いますが、なぜなんでしょう。

八木駅に到着

八木到着はほぼ定時の19時前。CI-CAをタッチすると240円不足の表示。杉の湯乗り換えの割引がないようなので運転士に聞くと、割引は上桑原方面への本線のみで、入之波温泉のみ適用除外だそうです。昔から支線は乗り切り通算なしでしたが、同じ乗り継ぎですから割り切れません。

旅の終わりにちょっとミソをつけましたが、伝統のルートの「乗り納め」、いい夏の思い出になりました。

八木駅に残る往年の南紀縦断2ルートの案内









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