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その1 バルセロナ編
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いわずと知れた観光王国スペイン。外国人観光客数は年間5,200万人(2002)で世界2位(1位はフランスで7,700万人)、国際観光収入は年間約4兆円で、これも世界2位である(1位はアメリカで年間約8兆円)。これらの数字は、スイス連邦をはるかにしのぐ(日本は外国人観光客数年間500万人、国際観光収入年間約0.4兆円で世界35位)。
歴史的な建造物が数多く存在し、同じヨーロッパ大陸でも、ダイナミックな自然が豊富なスイス連邦とは対照的である。それゆえ、スペインの観光政策は非常に徹底されており、加えて国民の歴史的な価値に対する意識も高く、古い建物や町並みが維持され、積極的に保存されている。
また、政治的に紆余曲折が続き、どっち付かずの国家元首のお陰で第二次世界大戦ではどこにも付かず中立となった。それが幸いして、国土が戦火を免れた経緯がある。そして、地震などの天災によって都市が壊滅したこともなく、非常に自然な形で中世の町並みが現存しているのである。
スペインの
風と土
ヨーロッパ大陸の西、イベリア半島に位置するスペインは、地質構造でいうところの中ヨーロッパと呼ばれる地質に位置する。古生代後半(3億2千万〜2億2千万年前)のバリスカン変動と呼ばれる造山運動によって形成された地盤が、浸食や堆積などを繰り返して現在の地形を造り上げている。この造山運動は、アルプス山脈を形成したアルプス変動よりも古い。また、古生代の地層が現存していため、有史以前の遺跡を数多く目にすることができる。
地中海に面した風光明媚な都市バルセロナ。カタルーニャ州およびバルセロナ県の主都である。首都マドリードに次ぐ人口約160万人を擁し、スペイン屈指の工業都市である。1992年には夏のオリンピックが開催された。建都は紀元前6世紀、フェニキア人あるいはギリシャ人によるものといわれ、ヨーロッパ最古に属する都市である。かつてローマ人によっても都市計画が成され、ところどころにその面影を見ることが出来る。歴史が途方もなく長いため、さまざまな文化の洗礼を受けている。近代都市へ発展した現在でも、その町並みは風化することなく機能している。
バルセロナには、天才か悪魔かと評される歴史的建築家アントニ・ガウディの作品が数多く現存している。サグラダ・ファミリア教会のように建築中で、完成までに百数十年かかるといわれているものもある。ガウディは、アール・ヌーボーに影響を受けたといわれているが、様式張らず曲線を多用した異種独特のものを感じる。奇怪でグロテスクと捉えられる向きもあるが、ごく身近な自然をモチーフにしていると容易に想像させる。
バルセロナで建築を学んだガウディは、幼少の頃に親しんだ自然の造形を積極的にデザインへ取り入れたといわれている。それは川の流れや波であったり、木の葉や樹木、大地の形であったりする。
そしてその作品は、カタルーニャの荒涼とした大地、モンセラットのような奇怪な山並み、褶曲した地層がみられる台地や斜面を彷彿させる。さらに原色が多く使われた装飾の類は、まさしく地中海性気候に特徴付けられるカラッとした風と燦々と輝く太陽である。これらが示すように、彼の作品は、まさしくカタルーニャの風土を象っている。
本来、土木の構造物というものはこうでなければならないと思う。自然に逆らわず、摂理に従い、生かすという当たり前のことが忘れ去られているような気がする。
ガウディは設計図というものをあまり書かなかったそうである。模型を重視し、不明なところは実験して解明した。だから奇抜な造形は、空想の産物を形にしたのではなく、実用上必要な造形なのである。しかも実用なのは人間だけではない。そこに関わる動植物、風、光など等、あらゆる自然のものや現象が、さまざまな形で恩恵を被る。あるいはそれを妨げないように考えられているのである。
自然を相手にする土木の世界は、本来ガウディの感性であったように思う。今、それがどれだけ残っているだろうか。
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