カンチャナブリ
微笑みの裏側に見えるもの
タイの人々の微笑みの裏側に、あなたは何が見えますか?
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| タイは人脈社会ですが、これは見方を変えれば階級社会とも言えます。そして、仏教道徳を規範とした大変に人に優しい社会です。どっぷりと浸かりますと、大変に居心地が良い人間関係です。
しかし、ビジネスで深くタイ人と付き合ってきますと、多くの日本人の目にはその負の側面が目立ってくるようです。その特徴的な負の側面(日本人の目線では)と言われているものを列挙して見ますと、
・自分の内面を話さず、あたりさわりのない話をおもしろおかしく話する人が話上手だとか、良く出来た人物などと言われる。
コン・チャイ・イェン「冷たい心の持ち主」が大人物で、コン・チャイ・ローン「激しやすい心の持ち主」は心の小さい人物という評価がタイ人の一般的な人物評価です。日本式の合議制のスタイルで打ちあわせを行うと、自分の私見を述べたときなどには「落ち着いて」などと言われて会議が空回りすることが多いのではないかと思います。上から下への指揮命令関係と考えて接した方が良いと思います。
・多少のウソは人間関係の潤滑油として社会的に認知されている。
日本では遅刻したり小さなミスを犯したりしますと謙虚に謝るのではないかと思いますが、タイでは多少のミスはウソで言い訳し、相手側も特に追及したりはしないと思います。人に優しい文化には、このような側面もあるのです。
・タイは階級社会であり、情報や知識などは同じ階層内に留まります。上の階層はその恩恵を享受しますし、下の階層はそのような情報に特別の関心も持ちません。
上には従うという、これは社会の仕組上から来ているものと思われます。日本的な「愛情を持って咎める」とか、「厳しい愛情で接する」とかの対応は理解してもらえず、相手によっては逆に恨みを買うことすらあります。争いが極力おこらないような社会文化になっているのであり、日本人の人間関係を築いていくという考え方は暖簾に腕押しとなりかねません。特に下請業者などに対して「ミーティング」や「方針説明」などのような日本式接し方は通用しないと思います。
それに対して「日本型経営」と言われるものを見てみますと、これは非常に優れた仕組みだということがわかります。しかし、日本型経営はよすぎるためにそれに甘えてぶら下がる「フリーライダー」の問題もありますが、それでも世界で特筆した経営システムであることは間違いがありません。日本では、50年、100年のスパンで会社にノウハウを蓄積できますが、中国や米国、そしてタイもそうですが、これらの国々の企業では個人の能力で勝負していますので、会社にノウハウが貯まることは無いのです。日本企業はこのような人材をベースにした組織力で現在の繁栄を作り上げてきたわけなのです。
何故、日本だけが和を尊び地縁を大切にする特別な経営システムが定着しているのか、それは日本独特の地理的条件と日本古来の文化、そして近代化の過程にその原因がありそうです。
日本は世界的にも稀で純粋な農耕民族の国家で、しかもその農耕民族が治めている同一民族の平和な国家であり、少数の異民族との和をも尊ぶ民族でもあります。異民族戦争の悲惨さも知らないため、数千年前からアミニズムの神道を信じ、自然崇拝や祖先との輪廻を信じています。話し合いでの解決を好み、妥協の余地も大きいのが日本的文化の特徴だと思います。
日本は江戸時代に入ってまもなく鎖国政策をとりました。アジアに対する西欧の植民地獲得競争を避けて、内向きの独自な繁栄の道を模索したのです。封建主義下の幕藩体制を敷き、江戸幕府は諸国大名の参勤交代制度やその他の諸政策などで政権の政治的安定を図りました。各藩は藩経営の財政的安定のために各領土内の産業振興を図ります。これは現代風に言うと会社組織の経験であり、このような形で多くの人が他人を動かす経営を経験しているのです。
中国や韓国、台湾、そしてタイなどは中央集権国家体制であり、日本のような多くの人が他人を動かす経営を経験していないために、個人的な信頼で経営する小さな商店しか経験していません。それが現在ではビジネスの世界では人脈社会という形となって現れているのだと思います。
江戸時代でのこのような経験が、日本が明治維新以降の富国強兵や急速な近代化に成功した背景であり、第2次世界大戦での敗北後は急速な経済復興に成功した秘密であると私は考えます。鎖国時の幕藩体制下での各藩独自の経済振興が、お互いに切磋琢磨して現在の日本型経営システムの元となっているのです。
しかし、組織の一員としての日本人は大変に高い能力を発揮するのに、1人で海外へ出張すると海外に免疫の無い日本人ほど情けない実力しか発揮できない人が多いのも事実です。人脈社会であり、個々人の実力社会である中国や韓国、タイなどの国々へやって来ますと、文化的な戸惑いで実力が発揮できないのです。日本的な目線からは最初に述べたような特徴に見える事柄も、現地の人々からは個人としての実力やリーダーシップに欠ける人と映っているのではないかと私は思います。
私たちはカンチャナブリの経済界の親睦の催しに度々出席しますが、個々の経営者は紳士・淑女としての振舞いを心得ていて、このような場にはドレスアップして出席し、個々人の歌やダンスはプロ級に近く、そして人々との会話の話題には大変豊富なのが特徴です。つまり、各経営者それぞれが社交の場では大変個性的で魅力的なのです。階級社会と言いますが、まるで人種が違うような錯覚に陥ります。
よく「微笑みの国タイ」と言われますが、ものの見方には二面性があり、一面的には笑い話として見えている話でも、もう一面から見ると深刻な問題が浮上してくることもあります。これが国際化社会の難しさです。人に優しい社会タイ、そして微笑みの裏側にあなたには何が見えましたでしょうか。 |
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