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速星千里は、開業前のユニバーサル・スタジオ・ジャパンを一通り見て回ることができた。 この文章は、見学の際、あるいはその後に私が思い浮かべた、偏見に満ちた考えを余すことなく書き綴ったものである。
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まずはじめに、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンについて簡単に説明しておく。
この施設は、映画制作・配信を中心とした「総合エンターテインメント企業」(自称)である米国ユニバーサル・スタジオ社が運営するハリウッド映画のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ」の米国国外進出第1号である。 大阪市此花区の住友金属および日立造船の工場跡地を利用して建設され、2001年3月31日にグランドオープンした。
事業会社は株式会社ユー・エス・ジェイ(代表取締役社長:阪田 晃 氏、開業時資本金:400億円)であり、大阪市、ユニバーサル・スタジオ社、ランク・グループ社、住友金属工業株式会社、住友商事株式会社、日立造船株式会社など、合計40団体からの出資により設立された、いわゆる第3セクターである。
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以下は2001年4月に行われた大阪府副知事の講演の一節(要旨)である。
観光客も大阪を通過するだけ、あるいは日帰りの場合が多い。 宿泊する観光客のもたらす経済効果は通過や日帰りの場合に比べはるかに大きい。 大阪で宿泊する観光客の確保に努めなければならない。 この春に開業したユニバーサル・スタジオ・ジャパンには、そういった宿泊客の確保のほか、雇用の増大、経済的効果、映像・放送業の活発化などが期待される。
このように、大阪府はユニバーサル・スタジオ・ジャパンの集客効果・雇用効果をはじめとする種々の経済効果に大きな期待を抱いている。 当然、事業会社の出資者たる大阪市はさらに大きな期待を抱いていよう。
が、この施設のもたらす経済効果は一過性のものであると思われる。
私自身がこの施設を見学したときの感想からいえば、園内は住友金属と日立造船のあの広い工場の跡地とは思えないくらいに狭い。 アトラクションが園の周辺部に配置されていて道はその内周にあることも一因かもしれないが、ともかく、米国らしい尊大さ、いや、巨大さはあまり感じられなった。 全部回りたい、という人は別として、大概の人は、1回行くだけでも希望のアトラクションのほとんどを回ることができるだろう。 (回り方のポイントは別記事
「観光ガイド」
を参照)
入場料の高さに釣り合うだけの内容を楽しめるか、という(実に大阪人的な)観点から考えても、1度は行くだけの価値があるかもしれないが、2度、3度と行くほどの魅力は、ほとんどの人にはない。
すなわち、初めのうちはかなりの集客効果があるだろうが、東京ディズニーランドのように数多くのリピーターを獲得することはあの内容では難しいと思われる。 株式会社ユー・エス・ジェイの経営は次第に苦しくなるのではなかろうか。 そして先述のように、この会社は大阪市出資の第3セクターである。 将来、この会社の経営悪化が大阪市のさらなる財政難を呼ぶことになるのではないかと不安である。
また、確かに宿泊する観光客は確保できるかもしれないが、それによる経済効果は本社を大阪に置かない大企業が主に享受するものであって、庶民の暮らしにはほとんど影響しない。大阪市・大阪府の税収入がわずかに増える程度である。
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むしろ庶民、特に地元民にとっては悪影響の方が大きい。ここでは2点の悪影響を挙げて説明することにしよう。
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1つ目、そして地元民にとって最大の悪影響が、交通機関の利便性の低下や混雑である。
この春のダイヤ改正で、JR西日本は観光客重視のダイヤを組んだ。 具体的には、関空特急「はるか」の西九条停車、大阪環状線から桜島線への直通列車の運転などである。
特急列車が止まるとは西九条駅も立派になったものだ、と思いたいところだが、実際は違う。 「はるか」の乗客で、西九条で乗降する人などほとんどいない。 大抵の場合、単にドアが開閉するだけである。 冷房効率を悪化させる以外の効果はあまり感じられない。 それどころか、通過から停車への変更によって列車がホームを占有する時間が増加した分だけ、各線の普通列車の運転間隔が空き、西九条駅利用客のうちの圧倒的大多数を占める普通列車利用客は不便を強いられているのだ。
直通列車の運転についても、ダイヤ上は天王寺〜大阪間の列車の運転区間が延長されただけに見えるが、ただでさえ西九条駅は運転経路が複雑に絡み合っているのに、その西九条駅を経由する列車が増えたことはダイヤの硬直性を増した、すなわち利用客のニーズに応じたダイヤが組みにくくなったといえる。
そもそも、名前が良くない。 あの由緒正しき工場通勤路線「桜島線」の名称はどこへ行ったのだ! 「JRゆめ咲線」って何だ? もっと地名に即した愛称は思いつかないのか? 夢洲はまだ造成中だし、咲洲は南港だぞ! ……失礼、ついエキサイトしてしまった。 ともかく、朝一番から妙な路線名を聞かされるのは不快極まりない。 「桜島線」の呼称は正式名称として残っているはずなのに、なぜ誰も使わないのだろうか。
直通列車の塗装もけしからぬ。 周囲の景観を無視したあの極彩色は、異常としかいいようがない。 あのデザインをJR西日本に提供した株式会社ユー・エス・ジェイの職員、そしてそれをあっさりと受け入れたJR西日本の職員には、色彩検定の受検をおすすめしたい。
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もう1つの大きな悪影響は、居住環境の悪化である。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの開業に伴い、従業員の米国人が付近に大勢住むようになった。 あるいは観光客も、国内外から此花区にやってくるようになった。 となると、気がかりなのは治安の悪化である。 別に私は、某都知事や警視庁のように外国人と犯罪とを直接結びつけて考えているわけではないし、ごく一部の米兵と他の多くの米国人とを混同しているわけでもないが、人が集まれば、犯罪は増える。 これは当たり前のことである。
開業当初は交通渋滞も心配したが、これについては、多くの人が現地までのアクセスにJRを利用していることもあり、目に見えてひどくなることはなかった。 前で述べたように、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの集客効果は年々衰えると思われるので、渋滞そのものの影響はもうほとんど出ないだろう。 むしろ、地元民が渋滞を懸念して出控えることの方がはるかに大きな問題である。
この他、騒音や光害などが懸念される。 人が集まることによって生じる声や自動車などの騒音の他にも、大音量で音楽を流したり、いくつもの投光器で空に光の帯をつくるなど、原因となりうるものは多く挙げることができる。 しかし、これについては一地域住民が具体的な値を測定することは難しく、また資料も適切なものが見つからないため、明言は避けることにする。
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と、ここまで散々に書いてきたわけだが、もちろん、良い効果もある。
例えば、文化的な交流の促進である。 国内外からある程度の観光客が大阪にやってくるのであるから、我々は居ながらにして様々な地域の文化に触れることができる。 日頃あまり意識しない自分達の文化を見つめ直す良い機会にもなる。
あるいは、経済的な面においても、たとえそれが一時的なものであって構造不況の根本的な解決策にはならないにしても、景気を刺激する一定の効果は否定できない。
ところでこれらの「良い効果」、どこかで聞いた覚えはないだろうか?
そう、今までに大阪で行われてきた大規模事業とそっくりなのである。 具体的には、万博、花博、大阪ドームなどがすぐに思い出せるだろう。 そして現在も、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの他に、五輪招致にも手を出している。
大規模事業の繰り返しが戦後の大阪産業の活性化に寄与した面は大きい。 だがその反面、産業が事業に依存する構造になり、創造性が失われてしまった。 「創業のまち」と呼ばれた大阪は、いつの間にか廃業率が開業率をはるかに上回る「廃業のまち」になってしまっている。 産業構造の抜本的な改革が急がれる。 このままでは、大阪市も、大阪府も、大阪産業も、株式会社ユー・エス・ジェイと運命を共にしてしまう。
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「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」「Universal Studios Japan」の名称は、米国ユニバーサル・スタジオ社およびその親会社、子会社、関連会社の商標である。
© 2001 Chisato Hayahoshi
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