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アンコール遺跡−22 タ・プローム(その5)
タ・プロームの壁面に残されたデバターは、ここがかつて大寺院だったことを雄弁に物語っている。
デバター
かつて5,000人とも10,000人とも言われる人間が住んだという大寺院も、手入れがなされなければ荒れ果てるばかりである。残っている祠堂や回廊には苔が生えているので、タ・プロームは緑色の世界である。僕が行ったときは曇り空だったのでいっそう廃墟という感じがしたが、クメールの陽が照り付ける晴天ではどのように見えるのだろうか。
タ・プロームに来ると、人間より植物の方が寿命が長いということを痛感する。ほとんどの人は100年も生きられない。ガジュマルは数百年を経た今でも成長を続けていく。人間が手入れをしなくなった建物が、自然に侵食されていくのはやむを得ないのであろう。人間の築いた文明は、はかないものである。自然の生命力の前では、あまりにも無力である。人間は自然の一部にしか過ぎないということを実感する。
苔の生えた祠堂
東門とテラス
タ・プロームの崩壊を防ぐために、ところどころ補修されている。
補修
アンコール・ワット も バイヨン も手入れがされている。大規模な戦乱に巻き込まれることが無い限り、存在し続けるであろう。
タ・プロームは違う。補修されているとはいえ、毎日少しずつ崩壊に向かっている。ガジュマルは毎日少しずつ成長している。ガジュマルの根は石の間に入り込み、押し広げる。ガジュマルを乗せた回廊は、いつか重さに耐え切れずに崩壊する。
タ・プロームには「滅びの美学」という言葉がふさわしいのではないか。地球の歩き方によれば、タ・プロームは日本人に人気があるとのことである。日本人は花火や桜のようにすぐ消えていくものを好む。「わび・さび」に通じるのかもしれない。いつの日か滅びるのが確実なタ・プロームは、日本人の心を打つのであろう。
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