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周遊きっぷ雑感


「周遊きっぷ」の発売開始から、はや半年が経過した。発売以前の段階から問題視されていたいくつかの事項は解決を見ているようだが、予想通り売れ行きはよくないとも聞く。ここでは「周遊きっぷ」が抱える課題と解決事例、そして私案等を記してみよう。

1.出発地・経路選択について
周遊きっぷ最大の「売り」がこの「経路選択の自由」で、均一周遊券(ワイド・ミニ周遊券のこと)では認められていなかった往復の経路と出発地を自由に選べるのが特徴である。かつて山陰本線を全線走破(京都〜博多)する特急「まつかぜ」が走っていた頃、九州ワイド周遊券で「まつかぜ」に乗せろ!という声が多数上がっていた。その声に応えて?ようやく認められたのが「周遊きっぷ」だが(笑)肝心の「まつかぜ」はすでになく、むしろデメリットのほうが指摘されている。均一周遊券の場合、限られたルートとはいえ「きまぐれに」コースを選択できたが、周遊きっぷの場合最初に決めたコース以外を選択できないため旅行途中での自由度が極めて制約され、いわゆる「気まぐれ」の要素がなくなってしまったのが残念でならない。

2.JRバスについて
ゆき券・かえり券のコース中におけるJRバスの利用については「国鉄改革の公約」を守る?という観点から東名・名神高速バス及びドリーム号の一部路線が利用可能として存置された。運賃計算方法はJR鉄道線の賃率を適用し、JR旅客鉄道各社はJRバス各社に一定額を支払うという方法がとられた。今回特徴的だったのは三島会社と呼ばれる各社(JR北海道・四国・九州の三社)はバスを直営で持っており、収入分配の必要がないことから「国鉄改革の公約」に「新規参入」しようという動きがあったことである。JR各社相互間の協定が分割前夜の6社協定に縛られていることを考えると極めて特徴的な事態であり、今後も新しい制度へのチャレンジを期待したい。結局東名・名神高速と直通する系統のドリーム号を持っている三島会社が四国しかなかったため東名〜四国相互間のみに限定されたのだが、国鉄分割時の枠組みを初めて崩した事例として注目すべきである。具体的には東京〜高知・松山・高松のドリーム号各路線が追加されたが、これに着目したのがJR東海バスである。JR東海バスは「オリーブ号」という名神〜四国間の高速バスを運行しているが、上記区間の内方利用(東名〜四国相互間の範囲から出ない)となることに着目し、「オリーブ号」を周遊きっぷ利用対象に追加させることに成功した。これは極めて硬直してしまったJR制度の中で画期的な出来事であり、今回の改革の中で唯一「明るい話題」と呼べよう。機会があれば是非「オリーブ号」を利用し、担当者の努力と英断に応えるべきであろう。

3.通過連絡運輸について
ゆき券・かえり券のコース中に私鉄やバス・船等を組み込むことは原則としては不可だが、前述のJRバスと通過する特急のある各線(北越急行、伊勢鉄道、北近畿タンゴ鉄道、智頭急行、土佐くろしお鉄道)の5社は例外として組込みが認められている。今後は特急以外の直通列車がある三陸鉄道や複数のターミナルがJR線に接している小田急電鉄や富山地方鉄道等にも門戸を開いて頂きたいものである。ちなみに当初「土佐くろしお鉄道」は含まれていなかったのだが、これは単に初期計画段階で忘れていただけのことであろう。航空機利用の場合でもJR制度担当のポカが目立っただけに、周遊きっぷの設定論議がいかに拙速であったかを裏付けてしまった。しかも宮島航路についてはなんの記述もなく、フェリー等と同様になるのか?という質問が相次いだが、当然ながら利用OKとなった。その一方で、伝統ある関西汽船等の利用ができなくなったのは極めて残念である。

4.航空券組込について
9月19日よりスカイマークエアラインズが羽田〜福岡間に就航した。片道¥13700の運賃は、なんと高速バス「はかた号」より安く(¥15000)日本の交通において「青春18きっぷ」以来の画期的な価格破壊を実現した。この「スカイマーク〜」を周遊きっぷに組込めるか?という質問を多数頂いたが、結論からいうと可能である。当初からこの事態を予測していたのか?それとも単に面倒だったのかは不明だが、周遊きっぷに組み込める航空会社の指定は一切ない。これは将来、たとえば私が「かずちゃん航空」を設立し(やりませんけどね)その航空券を提示した場合でも対応が可能で、従来の周遊券が航空会社をも指定し、かつ専用の割引運賃まで設定させていた事を考えれば画期的な進化である。但し、問題なのは全日空が開始し「スカイマーク〜」も実施している「チケットレス・サービス」には対応していない事である。特に「スカイマーク〜」の場合、現実問題としてチケットレス・サービス以外の申込方法がないに等しいため、周遊きっぷへの組み込みが困難となっていることを追記しておく。なお現実に「スカイマーク〜」を周遊きっぷに組込んで購入したい方はTPO迄相談して欲しい。

5.選択乗車と発売の簡便性について
当初「選択乗車は認めない」という方針であったが、発券の簡便性とマルスのシステム上の制約から結局認められることとなった。これにより、関係方面で懸念されていた山陽新幹線利用時の「岩徳線問題」も解消した。山陽新幹線は山陽本線と同一とみなされるため、山陽本線の特例(運賃は最短経路の岩徳線を経由したものとして計算する)が適用される規定があるが、現行のマルス(JRの発券コンピューターシステム)では岩徳線を除外して発券する場合、経由をいちいち入力せねばならず、現実的ではないと判断されたのか、それとも単にポカだったのかは定かでないが、いずれにせよ発券時の手間が少しでも軽減されたのはありがたい。しかし経路入力が必要な事は同じで、発券に手間がかかるのは事実である。そこで各ゾーン券に対し「ゆき券・かえり券」の指定経路をあらかじめプリセットしておき、従来の均一周遊券のように一発発券できる「プリセット周遊きっぷ(仮称)」があれば便利であろう。

6.手書き発行について
当初JR東日本とJR東海は「周遊きっぷ」をマルス以外で発券することは一切ないとしていた。これは東海道新幹線の自動改札化に対応させるためで、今回の「周遊きっぷ」化も自動改札対応化の一環である。しかしマルスのシステム上、途中の経由は16線区迄しか入力できないため、17線区以上(実際には山手線を一周すると5線区としてカウントされる)を経由した場合、発券不可能となってしまう。そのためどう対処するかが注目されたが、結局JR東日本では早い段階(発売直後?)から手書き券(出札補充券)による発券が実施されていた事を特記しておこう。なお、他のJR旅客鉄道4社では当初より手書き券を発行しており、いくら自動改札化にご執心とはいえ、旅客不在の対応を宣言してしまったツケが回ってきただけであり、あえてコメントは避けたいと思う(ふぅ、やれやれ)

7.東海道新幹線利用について(提案)
周遊きっぷでは東海道新幹線利用時に限り、ゆき券・かえり券の割引率が5%となるケースがある(601キロ未満の場合)のだが、これは制度の混乱を招くだけであり旅客・JR双方にメリットが全くない。そこで提案したいのがドリーム号利用時と同様に「周遊特急券」を設定し、それを持たない旅客は新幹線改札を通さないことにすれば一発で解決する。新幹線は特急券を持たねば乗れないはずであり、さらに自動改札化されていることから確認は可能である。収入分配もJRバス同様に「周遊特急券」ベースで算出可能であり、かつ周遊きっぷ自体の発券作業をシンプルにできる。価格設定としては割引差額(20%−5%=15%)相当の金額を設定すればいいが、概算ながらこの額がほぼ「のぞみ料金」と同等なので、「のぞみ料金」をそのまま充当してもよいかと思われる。

8.払い戻しと学割について
従来の均一周遊券ではB券(現地周遊&かえり部分)の使用開始後は払戻不可であったが、周遊きっぷではゾーン券とかえり券が明確に区分されたため、ゾーン券使用終了後の払戻が可能である。これは旅程変更の可能性を担保する唯一の特徴で、割引こそ効かないものの、別途きっぷを買えば他の経路や航空機などでの帰路を選択できる。周遊きっぷの現行ルールでは往復の航空機利用ができないため、かつてのニューワイド周遊券に比べサービスダウンとなっているが、この規定をうま〜く使えば周遊きっぷのデメリットを埋める事も可能となろう(笑)その一方でゾーン券に学割が設定されていないのが痛い。これにより学生にとってはかなりの値上げとなってしまい、かつてのように気楽に買えるきっぷではなくなってしまった。しかし、その一方で三島会社は若者の鉄道離れに対抗すべく、週末等に限定して半額近い割引を実施している。ならばせめて三島会社のゾーン券だけでも学割を設定すべきではないだろうか?別に半額にしろとまでは言わないが、所定?の3割引だけでも有効な集客ツールとなろう。

9.ゾーン券の範囲について
ゾーンの範囲が千差万別で、格差が付きすぎているのが現状である。たとえば「大井川・浜名湖ゾーン」の場合、大井川鉄道や天竜浜名湖鉄道に乗れるという利点があり、しかも大井川鉄道を1往復と天竜浜名湖鉄道を全線乗ればモトが取れる価格設定である。学生時代に私鉄に乗るために1食抜いた私みたいな者にとって、このように私鉄や遊覧船(日本ライン下り等)さらには市内バス(姫路市営)にも乗れるのは周遊きっぷ最大のメリットであると考えているが、乗れる路線がJR東海・西日本のエリアに固まっているのが気になる。聞くところによるとこの両社のみが、私鉄等各社に対し周遊きっぷ加入の意志確認をしたようで、他のJR各社ゾーンが第三セクターの一部のみしか対象としていない事からも伺える。これは近日中に全国の公共交通各社に加入の意志を確認すべきであると思うし、毎年更新してしかるべきものと考える。近い将来にはバスの新規参入が自由化されることでもあり、是非対処してほしいテーマである。しかし、その一方でゾーン券の価格が押し上げられているのも事実である。例えば単純に東京〜名古屋を往復したい人には値上げ以外の何ものでもない。もっと問題視すべきなのは「奥三河・伊那路ゾーン」のように飯田線以外の乗車が不可能なケースであるにもかかわらず、¥6800と往復運賃相当額の価格設定がなされていることである。有効期間を考慮すれば旧ワイド周遊券相当のゾーンでも同様であり、このように価格設定は妥当とは言い難い。次項に述べる内容とあわせ価格設定の見直しは急務であろう。

10.ゾーン券の単独販売について(提案)
これらの問題点と各地域観光需要の活性化を考慮し、ゾーン券の単独販売を提案したい。要するにゾーン券を該当エリアのフリーきっぷとしても活用することにより、既存のフリーきっぷを統廃合(または新規に組込)し、発券事務の合理化と旅客案内の一貫化を具現化する。価格設定に格差をつけ、ゆき券・かえり券をつければ単体購入額から割引があるという方法も考えられる。また同一ゾーン券を複数購入すれば(割引があればもっとうれしい)旧ワイド周遊券の代用としても機能し、最長14日間だった道内滞在を延長する等の使い方も考えられ、同時に均一周遊券廃止のデメリットの大半をクリアできる唯一の方法でもある。幸いなことに従来の均一周遊券と違いゾーン券単体での収入分配となっているため、精算も容易であり、結果として旅客・JR双方がメリットを享受できる。是非実現して欲しいテーマである。

11.実際の使用例について
その後寄せられた使用事例には面白いものが見られる。先に記したケース以外にも、東京から燕三条迄の往復券+特急券として「越後湯沢・弥彦ゾーン」を使う方法は、新幹線の特急券を安くあげる事ができ(越後湯沢迄の特急券でOK)結果として格安利用が可能となる。また浜松から「湘南・熱海ゾーン」を使い、東京都内は都区内フリーを併用する方法等は、必ずしも目的地を含むゾーン券が安いとは限らないことを示している。従来の均一周遊券に比べ活用が困難と言われた「周遊きっぷ」でも、アイデア一つで有効活用は可能であり、もっと奇想天外な使い方が登場することを期待している次第である。

12.周遊きっぷシンポジウムについて
1998年4月25日、東京にて「周遊きっぷシンポジウム」が開催された。参加者の大半はいわゆるマニア系の方(人のことは言えませんが)であったが、取材記者諸兄はシロートであったため、双方のレベルにあわせた議事運営を余儀なくされた(担当の加藤さん、ご苦労様)基本的にはパネラーの基調講義と質疑応答であったが、パネラー各位の講義内容にも注目すべき点が多かった。筆者もここに記載した内容を中心に講義を仰せつかったが、701系市民運動を始めとし、実際にJAROにまで行ったという全国鉄道利用者会議の武田代表(頼むからインターネット化してくれー、貴重なデータが勿体無い)や、地球温暖化対策京都会議に際し「エコ・トレイン」を運行。エコツーリズムとグリーンツーリズムとの違いを解説して頂いた斉藤基雄氏。そして「周遊券なんてややこしいし、しかも高いから『青春18きっぷ』のほうがいい」とおっしゃる青木朋子嬢(利用者代表として無理やり壇上にあげられたとか、ご愁傷様です&面白かったよん)さらには質疑応答でも、東北ワイドの範囲を全部カバーするゆき券・かえり券を設定した場合の価格差や、果てはイギリスのヴァージンレイルの事例迄登場するなど、会場の都合で時間切れとなったのが残念なほど密度の濃い内容であった。

13.周遊きっぷの今後
正直な所、もはや「ノーマルチケットの時代は終わった」というのが筆者の実感である。勿論周遊きっぷも例外ではなく、2〜3割引程度の割引乗車券では鉄道の存在意義すら問われる時代がついにやってきたのだ。海外旅行のほうが安い時代を作り上げた?旅行会社HISのパンフを見ると…ヨーロッパ7万、アメリカ5万、韓国3万、そして福岡2.5万…(いずれも往復)これを見ているとスカイマークを全然安く感じない。しかも、その「スカイマーク〜」にはなんと「スカイメイト」があるが、これに対抗できるJR券はもはや「青春18きっぷ」だけである。現代において、在来線座席夜行の「市場価格」なんて、それこそ「青春18きっぷ」の価格位ではないだろうか? その観点からすると「周遊きっぷ」がいつまで生き残れるかはかなり疑問である。ここで提案した事項は拙速な制度決定の尻拭いにすぎず、せめて往復も新幹線・特急乗り放題としたり、価格の大幅見直しが必要となろう。それが不可能である限り、鉄道に未来はない…というのは決して過言ではないと思う次第である。

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