このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

待機場へと戻ってきました。

第1類の審査が刻一刻と迫り、待機場では出品牛の手入れに賑わっている。

熱湯で絞ったタオルで牛の全身を拭き上げる“湯拭き”。手のひらとブラシを使って拭き上げた牛の毛並みを立たせていく。本番に向けた長い調教の成果だろうか。牛は暴れることもなく、周囲が慌ただしい意味を分かっているかのようにじっとしている。

前にも書いたかも知れないが、この作業は地域の農家の支えで行われる。不思議なことに、誰彼の役割を事前に決めていた訳ではない。自然とスムーズに作業が流れていくのに驚きを覚えるのだ。
西都・児湯地区に充てられた待機場で見つけた物があった。

前回、鳥取県で開催された全共において、児湯郡から選出、出品された牛が全国津々浦々からの優牛を抑えて、堂々の首席を取った。

その牛は口蹄疫の蔓延により、惜しまれながら殺処分されたのだが、この幕は「災禍など物ともしないぞ。児湯牛は前を向いて歩き出しているんだ。」という意思表示を現している。
県内の次代を担う養牛家を育成する 県立高鍋農業高校 も所有する牛を児湯郡の代表として送り出してきた。

牛の手入れの主役は同校の生徒や教諭であることは言うまでもないのだが、自らも同校のOBであろう畜産農家や 児湯畜連 の職員がサポートに回る。
その頃、審査会場では後継者や女性農業者による黒毛和種審査競技会が開催されていた。

数頭並べられた牛の中から最も外形が優れる牛を選定するのであるが、私のような素人では具体的に「ここ!」とその牛の美点を指摘することは難しい。
それぞれ、額にしわを寄せながら牛とにらめっこをしていたが、女性の部では西都市の川越さんが優勝したようです。この方。一昨年に福岡県から西都の農家に嫁がれたとのことです。畜産は生き物を扱う以上、良いことばかりがあるとは限りません。釈迦に説法とは思いますが、今後とも経営、家庭を支えていって欲しいと思います。
競技会の講評の後、場内にアナウンスが響き渡る。いよいよ、肉用牛の種畜部門の審査開始だ。

準備の終わった牛から審査会場へと続く通路に引き出される。

出品者を送り出した自治体からの激励、出品者と牛を取り巻く農家の笑顔・・・。出品者はその中、緊張した面持ちで自らの牛を見つめている。

準備が整ったところで拍手が起こる。いよいよ審査会場へと入場である。

当日は時折、大粒の雨が降り注ぐ荒天であった。場内に渦巻く熱気はそんな雨など意識させなくなる。屋根に打ち付ける雨粒の音は相当大きいはずなのだが、人の声にかき消されたのだった。
審査会場に引き出された各地域からの出品牛たち。

少しでも牛の良さを審査員にアピールしようと手綱を持つ出品者の顔は真剣だ。

第1類に出品された牛の頭数は26頭。審査は番号の若い方から順番に行われるので、審査員が全ての牛を覧るのには結構時間がかかる。

その間、牛をじっと立たせておくべく、時になだめ、手綱で牛を律する。
こうして、審査は終わり。審査結果について、出品牛の格付けはすぐには発表されずに2日目に持ち越しとなる。

審査が終わったことにより出品者は緊張から解放されるのだが、笑顔が見えるも“安堵”だったり、“苦笑い”だったり・・・。様々な表情とともに牛と待機場に戻ってくる。

児湯地区にあてがわれたスペースで地区の出品者が画像のような腕章を付けていた。『
感謝』とは、言うまでもなく口蹄疫の際の県内外からの支援に対しての気持ちである。
そして、待機場では第2類(生後17ヶ月以上22ヶ月未満の黒毛和種のめすで、登録または登記されたもの)の出品へ向けた手入れが進められていた。

熱湯に浸したタオルで牛体を湯拭きし、ブラシをかけていく。牛が分や尿をしそうになると、牛の体が汚れないように肥料袋を活用した糞尿受けで受ける。
準備が整った牛から審査会場へと向かう。

ぞろぞろ・・・・と続くのは地域の応援団。審査会場の入り口まで見送るのだ。
そうして、第2類の審査が開始される。



・・・私は仕事の都合もあり、ここで会場を後にしたのだが、できれば2日目の本審査、そして種馬の部もぜひ覧てみたかった。

その結果はというと、第1類では都農町からの出品牛が優等賞の2席に、第3類では宮崎中央地区の出品牛が優等賞首席に選ばれるなど、各地域からの出品牛が検討したようだ。だが、前評判通り、西諸県地域からの出品牛が好成績を収めたようで、第2類で優等賞首席となった小林市の森田さんが生産した“はつはな号”が見事、グランドチャンピオンの栄冠。


さて、ちょうどこの項をまとめているときに、TPPへの交渉参加についての表明を野田首相がいたしました。和牛というのは、2006年に農水省が和牛にかかる保護知的財産権の保護を検討するなど、我が国の第1次産業にとっても大きな存在です。今は国の補助金のあり方が変わってしまっているので違ってきているとは思うのですが、農水省が所管している畜産行政であったり、補助事業の中には、牛肉を輸入することで得られる関税を財源にしていたものも結構ありました。

この中には、子牛や牛肉の販売価格に対する価格補填の事業があったと思います。市場価格よりも販売価格が低かった際に手当がなされるのですが、このような事業が無くなったらどうなるか・・・。

TPPについては農業分野だけでなく、その影響は非常に広範に渡る・・・とこの枠組みに慎重な態度を取る人たちは言っております。口蹄疫の時に思い知りましたが、地方では第1次産業が地域の経済にとってかけがえのない存在であることが普通。口蹄疫の発生から県による安全宣言が出されるまで、県内の経済はストップしましたし、その影響は今も引きずっているのですよね。我が国のGDP全体に占める農業のそれが1.5%だ・・・と誰かが仰ってましたけれども、そこを潰したときに地域経済に与える影響はどれほどのものか・・・。想像が付きません。

2年に1度開催される県畜産の“ハレの日”。携わる人々の明るい顔をずっと見続けることができるのか不安になりました。
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