このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

角を矯めて 牛を生かす!!
偶蹄目反芻亜目ウシ科“ウシ”には当然ながらがある。ギリシャ神話のミノタウロスや、マタドールが対峙する筋肉の固まりのようなスペインの雄ウシ、インドの街角で瞑想にふけるように横臥反芻を行う痩せたウシ・・・。みんな角がある。

群れを形成する動物であるウシ同士が群内での“順位を決める”ときにには頭(角がありますね)を使って突き合う。言っちゃえば
ウシにとってはシンボルのようなもの。

養牛の現場ではこの角を切り落とす。これを“
除角”と言うが、わざわざ苦痛を与えるわけだから残酷としか言いようがない。だが、意義はあるし得られるメリットも大きい。広い牧野で放牧を行ってきた酪農の分野では当たり前の技術であるけれども、パドックでの群飼が増えつつある和牛の生産現場でも“除角”が当たり前になりつつある。

じゃ、メリットって何なんだ?という話になる。

一つは除角することによって
牛がおとなしくなり、群の中での闘争行動が和らぐこと。繁殖和牛では除角によって牛同士が傷つくこともなく、流産を防ぐこともできる。肥育牛では枝肉評価を下げる“アタリ”などの瑕疵の発生を防ぐ

そして二つ目は飼養管理者にとっての安全性。農家の人は「ウシの踏ん張りが利かなくなる。」と言うが、角を切ることで
性質がおとなしくなるだけでなく、ウシが首を振ることで起こる事故を防ぐことができる。女性や老年者でも扱いやすくなりますね。

では、その方法を画像で追ってみようか。
(用意するもの)

・ワイヤー
・ワイヤーを保持するもの
 (筒状のナットとボルトで良い。無ければ、握りやすい木にワイヤーを
  結びつける。)
・レザーソウ
・炭・七輪
・ブロワー
・焼き鏝(除角用)
・蹄病軟膏
・除角していないウシ
①まず炭をおこして、焼き鏝を熱する

この時、ブロワーで空気を送り込んでやると早い(炭の消費も早いけど・・・)。
ウシを保定する。この画像のように保定枠があればよいが、無いときには四肢を縛ってウシを倒すことになる。暴れるので怪我しないように。

ウシが前に動かないように前足(胸垂のところ。気道をふさぐので締めすぎに注意。ヨダレをぐはっと吐き出します。)、後ろに下がらないよう尻のところにロープを結ぶ。頭を保定するためには鼻鐶にロープを通して耳・角の後ろへぐるっと回し、また鼻鐶を通して支柱に結ぶ。角にもロープを回して、やはり支柱に結ぶ。

止血のためゴムを角の周りに巻こうか。
③根元から少し残して、レザーソウで切り込みを入れる

切り込みを入れる位置は、ウシの成長と相談しながら。
④ワイヤーをごしごしして、摩擦で角を切る

角の一番外の部分には神経が通っていないけど、髄には当然・・・。ここにワイヤーが到達すると暴れます。ウシが枠から飛び上がって事故が起こらないように、立ち会った人は手で押さえること。
「もう角が落ちちゃうぞ・・・。」という辺りになったら、ワイヤーを引っ張るスピードを落とすこと。そうすることで断面がきれいになるだけでなく、この後の作業もやりやすくなるのだ。
⑤真っ赤に熱せられた焼き鏝を角の断面に当てて“血止め”をする。当然殺菌のためでもある。角を切るときに断面をきれいにすると、この時、鏝をあてるのが楽になり血も止まりやすい。焼き鏝にはボンベ式のガスバーナータイプもある。

保定の時にゴムを巻いておいたのを覚えていますか?血管を締めているので“プシューッ”と鮮血が飛び散ることもない。

この作業。やりすぎると、脳を痛めてウシを殺すこともあるので注意。

(まぁ、普通農家で除角を行うときには油圧式のカッターを使うわけだが、角が柔らかい子牛の時は良いとしても、角の固い親ウシの場合、バリッと角が割れて・・・。うーん。スプラッタ。)
蹄病軟膏を塗る。消毒が目的。

これが現物です。コールタールみたいなものなので、暖めないと固くて使用できない。
手が汚れないように軍手をはめる。これから先は暑くなる季節なので、ちょっと厚めに塗ってあげよう。
これでロープをほどいてやれば除角も終了である。

ここで注意すべき事。暑い夏場などにやると除角した断面が膿んでウジがわいたりするので、ウシにも良くない。
寒くなった晩秋から春先(4月頭まで)に行うようにすること。

そして除角は“手術”であるということ。宮崎県では出血の伴う内容は“手術扱い”になるので、
当然獣医先生の立ち会いが必要になる。かかりつけの開業医や共済の先生を必ず呼ぶこと。

で、人手がいる作業だから、農協の生産部会や青年部を寄って
協力して行うと、作業がスムーズに進行しますよ。



さ、あなたの所のウシも角が伸びたままじゃないですか?事故が起こる前に切った方がいいのでは?
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(2004.04.09)

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