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さよなら クモハ42
(2003.03.01)
九州からJRに乗った場合、山陽本線の小野田駅からレールは海へと別れていく。これが小野田線であり、起点である宇部線の居能までを結んでいる。ルーツは大正4年11月に小野田軽便鉄道が開通させた小野田−セメント町(現・小野田港)間。

宇部・小野田地域の臨海部は海底炭田やセメント工場が集中していたことから、これらを輸送する目的で路線の拡充が図られている。

現在の小野田線は石油へのエネルギー転換による炭坑の閉山や輸送形態の変化により現在は普通の地方線と言った風情。

この小野田線の中間駅雀田からニョロッと2.3kmの路線が生えている。通称“本山支線”。特徴ある雀田の三角ホームから瀬戸内海へ向かって走り、長門本山まで結んでいる。駅数は途中の浜河内をいれてわずか3駅。終点の長門本山から炭坑の坑口までレールが続いていたのはずっと昔々のこと。

そのような盲腸線を走るのが、昭和8年日本車輌製造のクモハ42001である。車体全身のリベット。ブドウ色2号という濃い茶色に塗られた電車だ。
鉄道省の俊足電車として宮原区に新製配置され、東海道・山陽線で通勤・通学に活躍。併走する阪急列車とデッドヒートを演じた。その後首都圏へ移動。そして昭和32年に2輌の同型車と共に宇部区入り。車輌の前後に運転台を備えるという利点を活かし、線路規格の低い本山支線専用として昭和56年の105系電車の配属や民営化に伴う宇部区の廃止などを乗り越えてきた車輌である。

現在は1日5往復のみ。朝と夕刻の時間帯に限っての運転だ。地元高校に通う学生の足として利用されている。普段は午前の運転が終了した後、雀田で昼寝をしているのだが、月曜日と金曜日は検査のため下関へ回送される。



年が明けてこのクモハ42型が引退することが鉄道趣味誌などで報じられるようになった。平成10年の夏休みに撮影のため同支線を訪れたことはあったが、狭い窓がズラリと並び、そこから差し込む光に木製部品のニス塗りが美しかった車内、網棚・・・。用意していたフィルムを一気に使い切ッてしまった事が懐かしい。しかし現像で大失敗をしてしまったのだった。

再撮影を誓うも今日まで叶わないまま。気が付けば引退である。思い立ったが吉日というわけで2月の最後の日に有休を取ったのであった。午前4時に起床予定も4時半起床の5時出発。何とか間に合えと国道3号を飛ばしたが、関門トンネルで渋滞に引っかかり、山内県長府付近の2号線で身動きが取れなくなってしまった。結局目的地の長門本山駅着は午前9時。クモハ42の姿は当然ない。回送前の姿なら撮影出来るかもと、とりあえず雀田の駅へ車を走らせた。

細い路地をグネグネと・・・。住宅地を抜けると雀田駅だ。

「いたぁ・・・。」

茶色の電車の姿を確認し、改札で入場券を購入しながら職員の方に線路内への立入を許可してもらう。「本当はいかんちゃけれど・・・。」とおっしゃいながら、「今日は回送があるから気を付けて撮影されて下さいね。」とOKしてくれた。

ホームを降り、車輌の反対側に回る。ヴーンとうなりを立てる機器を観察しながらシャッターを押した。今回用意したのはFUJIの400 PRESTOを4本。駅の表情を入れながら・・・である。残念ながら回送列車と言うこともあり、車内にはいることは出来ない。もっと早く出れば良かった・・・とか高速を使えば・・・など考えては、「撮れただけでも良いじゃないか。」と言い聞かす。その車内で、同線を利用した乗客が書き残した“乗車ノート”を眺めている運転士の姿がなんとも幻想的で、レンズを向けずにはいられなかった。。

今回ちょっとびっくりしたことが2つある。

1つは女性の鉄道ファンの存在。私が過去に遭った女性ファンは一度きり。なのに2人も見てしまったのだ。IXYなどそれぞれのカメラで撮影を行っていたが、鉄道趣味という分野はどちらかといえば野郎の世界である。そんな世界で女性ファンの存在というのは、ねぇ・・・。うれしいもんです。

もうひとつはカメラ付き携帯電話の普及。結構電車にレンズを向けて撮影している人が見られたのである。その場の風景をライブで伝えられる事が利点というか。鉄道趣味もデジタルカメラの進出だけでなく、どんどん変化しているようだ。

宇部新川方面の信号が“進め”となった。振り返れば前照灯が輝いており、すぐにフォンがなる。重い歯車が回るかのように吊り掛け式電車の独特の走行音と共にゆっくりと走り出したのだった。

クモハ42001は502万kmを走ってきた。引退後は山口県内で保存予定だという。最後の日まで2週間。何事もなく走って欲しいと思う。
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