このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

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開かずの踏切

〜夕つ方の東十条〜


2005年4月22日(金)乗車



 この日は、15時に大学の授業が全て終わってヒマになったので、僕の通学途中にある京浜東北線の東十条〜王子の間にある踏切に行ってきました。その踏切は、京浜東北線・宇都宮線・高崎線・湘南新宿ラインが通る複々々線の区間にあるとんでもない踏切で、通学で毎日通っていて気になっていたので、本日、急に思い立って訪問することにしました。


 夕方の17:20頃、僕は通学途中にあって見慣れている東十条駅で下車した。東十条駅は、400回以上も通ったが、下車するのは今日が初めてだ。
 北口で降りて、NEW DAYSでお気に入りの紅茶家伝を買って、準備完了!
 電車区の裏の道を歩き、陸橋をまたいで新幹線の高架に沿って歩いていくと、小さく踏切の音が聞こえてきた。歩くたびに、踏切の音が大きくなり、

 右手に例の踏切が現れた。すごい!線路の数は6本!逆光のせいで写真が暗くなってしまったが、手前の2本が京浜東北線の線路、真ん中の2本が宇都宮線と高崎線の上野方面行きの線路、そして奥の2本が、宇都宮線と高崎線の湘南新宿ラインの線路なのだ。よって、この踏み切りは、6本の線路のうち、1本でも列車の接近があれば開かないのだ。しかも、東十条駅の近くにあるので、東十条駅に東京方面行きの京浜東北線が停まっていても開かないのだ!すさまじい踏み切りだ!!

 その踏み切りは、東十条〜王子の間に2つあり、東十条駅に近いほうの踏切は、"井頭踏切"という名前だ。"井頭踏切"は、一方通行で、この反対側(西側)からしか、車が進入出来ない。

 東京方面の京浜東北線が通り過ぎると、なんと踏切が開いた!僕はこのチャンスを逃すまいと、その踏切を渡り始めた!しかし、やはり6本も線路があると、流石に怖い!電車が来ないかどうか左右を確認したり、線路の間に足を挟まれないように足元を見たりしながら歩いていると、緊張して結構心拍数が上がる!そして、4本目の線路を過ぎたとき、踏切が鳴り出した!短い!渡り終える前に鳴り出すと非常にあせる!ボクの心拍数はさらに上がった!

 やっとの思いで渡り終えた。もう心臓バクバクですわ・・・(^^;)
 これが井頭踏切の西側。奥に見えるのが線路を越える為の地下通路だ。早速入ってみた。
 入り口には、歩行者のための階段と、二輪車のためのスロープがあった。車の通り抜けは出来ないが、歩行者や二輪車なら通り抜け出来る。しかしまぁ、東京の地下通路なだけあって、落書きが酷い!

 この看板・・・!!!大雨の時は、歩行者や二輪車の人は、余儀なく踏切を渡ることになるのかぁ。頼りないなぁ・・・。

 地下通路を通り抜けて、東側に出た。東側の出口は、踏切からやや離れたところにあった。
 ボクは再び地下通路を通り、西側へ戻った。

 踏切は鳴っていたが、矢印が→だけになっていた。よし、あの京浜東北線が過ぎれば踏切が開くかな………?

 京浜東北線が通り過ぎた。………しかし、→の矢印が消えない…。

 それどころか←の矢印も点灯した! おいっ!!!
 これじゃ、いつまで経っても渡れない!車でこの踏切を渡るコース設定をすれば最後。時間通りに目的地にたどり着けなくなる!

 踏切をよく見てみると、各線路の間にカメラが設置されている。誰かが踏切に取り残されたら、踏切支障検知装置が作動して、接近列車が停まるようになっているのだろう。しかしまぁ、開いている時間が少なくて、渡る人も少ない踏切によくこんなにお金をかけられるものだ。

 東京方面の京浜東北線が過ぎ、奇跡的に両方の矢印が消えて踏切が開いた!
 ボクはまた踏切を渡り、東側へ行った。
 渡り終えてすぐに踏切が鳴り出し、1秒以内に→と←の矢印が点灯した。踏切が開いている時間は"奇跡の時間"と呼べるのだと、如実に感じた。

 
 地元のおじさんが踏切を渡りにやって来た。踏切には→の矢印だけがついている。宇都宮線がやって来た。これが過ぎれば開くだろうと思ったら、宇都宮線が通過中に←の矢印が点灯した。おじさんはあきらめて去っていった。
 そんなこともあって、約8分が過ぎ、やっとのことで踏切が開いた。
 ちょっと急いで渡ろうとしたつもりだったが、また半分も渡り終えないうちに踏切が鳴り出した! あせるって!!!

 暗くなって写真が撮れなくなるといけないので、井頭踏切を後にして、もう1つの踏切へ行くことにした。
 『ドラえもん』に出てくるような、1軒屋の立ち並ぶ閑静な住宅街の中を歩いていると、
 見逃されそうなところに、ひっそりと第2の踏切が立っていた。
 相変わらず、左右の矢印を点灯させて鳴り続けている。
 この踏切も一方通行になっているので、車は反対側(東側)からしか進入出来ない。
 んん、待てよ、何故こんな至近距離に2つも踏切があるかというと、両方とも一通だから・・・、両側から車が行き来できるように・・・か!!!??

 紅茶家伝を飲みながら数分間待つと、踏切が開いたので、ボクは踏切を東側へ渡った。
 やはりまた、鳴り出して1秒以内にパッパッと→と←に矢印が点灯した。渡れてよかったなぁと思った。

 東側に来て、第2の踏切の名前が、"根岸踏切"だというのが分かった。"根岸"っていう駅は、京浜東北線でずぅっと大船方面に向かって乗っていると着くぞ。同じ京浜東北線内に、場所違いで"根岸駅"と"根岸踏切"があるのかぁ。

 だんだんと空が暗くなってきた。これから通勤ラッシュの時間になると、踏切が開くのがさらに厳しくなるだろう。
 そう考えていると、1人のおじさんがやってきた。おじさんは、左右に点灯した矢印を見ると、いつものことだ、待つか、というような表情をして、レバーの前に立った。
 宇都宮線の上野行きが過ぎ、京浜東北線の大宮行きが過ぎ・、湘南新宿ラインの平塚行きが過ぎ・・、京浜東北線の大船行きが過ぎ・・・、高崎線の高崎行きが過ぎ・・・・・・・・
 列車が過ぎていくのと同時に、時間も過ぎていく。
 踏切の矢印は左右に点灯したり、片方になったり、また左右になったりで、時間が進んだり戻ったりしている。
 空が暗くなってくるのと同時に、おじさんの表情も暗くなってくる。
 踏切の矢印は左右に点灯したり、片方になったり、また左右になったりで、同じような表情を繰り返し見せている。
 歴史の流れや世論に関係なく、踏切は独り鳴り続ける・・・。

 ・・・もう開くことはないのだろうか・・・。

 矢印が←だけになった。耳を澄ますが、列車の音が聞こえず、踏切の音だけがボクの耳に入ってくる。
 おそらく、東十条駅に停まっている京浜東北線だけが、踏切を鳴らしているのだろう。
 その時、同じことを考えていたのだろうか、おじさんがレバーを越え、右をよく確かめながら、踏切が鳴っているのにも関わらず、複々々線の線路を横断して行ってしまった!!!
 ・・・、一瞬の出来事であったが、これは大変だ。
 これと同じようなことを1000人がしたら、1度は列車を停めてしまうことがあるだろう。そしたら、京浜東北線・宇都宮線・高崎線・湘南新宿ラインの全てに遅れが出て、大勢の乗客に迷惑がかかる。そして、5000人がしたら・・・、1人命を落とすだろう。
 たとえ平気だと思っても、このようなことはやってほしくない。事故があってからでは遅いのだ。"急がば回れ"という諺のように、先を急ぎたい時は、遠回りしてでも地下通路を利用してほしい。



 矢印が消え、「ちゅうい」という文字が点灯し、踏切が開いた。何分ぶりであろうか・・・。
 ボクはまた踏切を渡り始めた。踏切が開くと、衝動でどうしても渡りたくなってしまう。
 また、半分も渡らないうちに、踏切は鳴り出した。レバーが降りてしまってはいけないと思い、走って西側へ渡った。
 ヒヤヒヤする。ボクならまだいいが、年配の人や、視力に障害のある人がこの踏切を渡っている途中に踏切が鳴り出したら・・・!本人もそうだが、それを見ている人も、いてもたってもいられないだろう。
 何でこんな危険で、しかも滅多に開くことのない複々々線の区間に踏切なんて作ったのだろう・・・???
 そのような質問しか頭に思い浮かんで来ない。

 もうすぐ通勤時間帯だ。もうこの踏切が開くことはないだろう、と、思った時、異様にも踏切が開いた!
 あまりに突然だったので、ボクは呆然としながら、踏切を渡り始めた。
 しかし、今回は、歩いても歩いても、踏切が鳴り出すことはなく、結局鳴り出す前に東側へ渡ることが出来た。
 渡り終えてボクは踏切を見た。「ちゅうい」という文字が点灯している。
 踏切が鳴っていなくて、物音が一切ない。静かだ。
 そんな状態が5秒ぐらいは続き、再び踏切が鳴り出した。短い時間だったが、ボクにとっては、かなり長く感じられた。
 18時少し前のことだった。



 根岸踏切に他の人が来なくなり、→と←に矢印が点灯しているのを見て、もう十分ここにいて満足したと思い、ボクは根岸踏切を去った。
 (新幹線の高架橋のある)東側を歩いていると、子どもたちの威勢のいい声が聞こえてきた。それは、線路沿いにある空手教室から聞こえてくるものだった。教室の中では、まだ小学生にもなっていない頃か、成り立ての頃の年代の子どもたちが、大きい掛け声とともに、同じ手を同じような格好で前に出している。そして、監督らしい人が、その小さな子どもたちに容赦なく大声でどなりつけて気合を入れている。
 全ての日本の子どもたちがこのような環境で育てられたら、将来、悪事へ走る人がいなくなり、日本は治安のいい国になるだろう、と、変な妄想をしながら、ボクはその空手教室の横を通り過ぎた。

 高架橋の下にある公園や駐車場を見て、土地が有効利用されているなぁと思いながら歩いていると、井頭踏切(最初に訪れた踏切)が見えてきた。
 こちらの踏切も相変わらず、もう鳴らせ飽きたと言わんばかりに鳴り続けている。

 その、開くことがないだろうと思われる踏切に、キャスター付きのカバンを引きながら、1人のおばあちゃんがやってきた。
 おばあちゃんは踏切の前で、ああやっぱり鳴っているわね、と思われる表情を見せてから、カバンに手をかけて立ち止まった。
 そしてさらに、幼い娘をだっこした母親もやってきた。

母親「ほぉら、見て。電車が通ってるよ。」

 どうやらこの母親は、渡るのではなく、幼い娘に電車を見せるために、この踏切にやってきたみたいだ。その母親を見て、おばあちゃんが話し掛けた。

おばあちゃん「電車が好きなんだね。」
母親「そうなんですよ。女の子なのに。でも、もう少し大きくなれば、好きじゃなくなるかもしれませんけど。」
おばあちゃん「女の子だもの。男の子だったら、もうちょっと大きくなっても、電車が好きでいるだろうね。」

 これを見ていると、おぶられて道路の信号機をよく見に行った小さい頃の自分を思い出す。
 母親は5分ぐらい、おばあちゃんと立ち話をしながら娘に電車を見せてから、歩いて去っていった。
 おばあちゃんがとても友好的に見えたので、ボクも衝動にかられておばあちゃんに話し掛けた。

はじめ「いつもこの踏切を使っているのですか?」
おばあちゃん「いや、いつもじゃないけど、1週間に1度、用があって使っているの。」
はじめ「おお。」
おばあちゃん「さっきさ、かなり長い時間、踏切が開いたでしょ?」
はじめ「ああ、確かに。15秒ぐらいは開いてましたね。」
おばあちゃん「いつも18時ちょっと前になると踏切が長く開くから、それを見計らって家を出てきたんだけど、遅れちゃった。」

 地元の人は、踏切がいつ開くのかを覚えているみたいだ。凄いなぁ。

はじめ「もうすぐ、通勤ラッシュの時間ですから、この踏切は暫く開かないと思いますよ。地下通路は使わないのですか?」
おばあちゃん「いや、もうちょっと待って、開かなかったら、地下通路を使うよ。」
はじめ「はは、左様ですか。」
おばあちゃん「あの電車が過ぎれば、開くかも。」
はじめ「開くでしょうか・・・?」

 目の前を、東京方面の京浜東北線が過ぎて行った。が、踏切は鳴り止まなかった。

おばあちゃん「あらあら。」
はじめ「(ギター侍風に)残念〜!」

 列車は、右から、左から、間髪入れずにやってくる。踏切の矢印が片方だけになった時にやって来る列車に対しては、(この電車がなければ、踏切は開くんだよ!)と苦笑いをしたくなる。ま、複々々線なので、片方だけの矢印が2本もしくは3本の列車の接近を知らせていることが多いが。

おばあちゃん「おにいちゃんは今何?学生?」
はじめ「大学生です。この踏切は通学途中に通るので、気になっていたのですよ。」
おばあちゃん「そうなんだ。あ、あの電車が行っちゃえば・・・」

 目の前を、これで4度目となる東京方面の京浜東北線が過ぎて行った。
 そして・・・、←の矢印が消え、踏切が鳴り止み、レバーが開いた!

おばあちゃん「やっと開いてくれた!」
はじめ「おおおおお!では、また鳴り出す前に、早く渡ってしまいましょう。」

 ボクとおばあちゃんは井頭踏切を渡りだした。おばあちゃんはキャスター付きのカバンを引きながら渡っている。そのキャスターの車輪が線路の間に挟まって踏切が鳴り出したらどうしよう・・・・・!!!!!(向こう側まで線路があと4本・・・)

はじめ「おばあちゃん!そのカバン、ボクが引きますよ!」(あと3本半・・・)
おばあちゃん「いいよ、大丈夫だよ。」(あと3本・・・)
はじめ「いえ、でも、もしその・・・」(あと2本半・・・)

!カンカンカンカン!

はじめ「あ゛〜〜〜!!!!!鳴り出したぁ〜〜〜!!!!!」(あと2本・・・!)
おばあちゃん「あせらなくても大丈夫よ。」(あと1本半・・・!)
はじめ「あせります!!!!!」(あと1本・・・!)

 ボクは、踏切、右の線路、左の線路、おばちゃんの足元、カバンのキャスター、自分の足元、を全て順番に見ながら、最後の1本を渡り、無事に西側へ辿り着いた。

はじめ「はぁっ、はぁっ、」
おばあちゃん「おにいさん、こんなに心配してくれて、やさしいのね。」

単に、大げさなだけだ。

はじめ「では、気をつけて行ってきて下さい。」
おばあちゃん「うん、ありがとうね。」

 ボクはおばあちゃんの後ろ姿を見送った。

 時計を見ると、18時半をまわっていた。そろそろ帰るか。ボクは、西側の線路沿いの道を東十条駅に向かって歩き出した。
 今日はもう耳にタコが出来るほど聞いた踏切の音がだんだん小さくなって、車の音にかき消されてなくなった。

 東十条駅の南口に着いたら、改札を通り、ホームに下りて、南端から踏切を眺めた。赤い丸が上下しているのを見ると、自分の頭の中に踏切の音が蘇ってきた。
 何だか、通学途中なのにも関わらず、かなりイイ旅をしたなぁ。
 列車が来たので、ボクは列車に乗った。列車は東十条を発車。
 ボクの乗った列車は、これから、"開かずの踏切"をふさぎに行く・・・・・・・・・・










 ・・・・・って終わりたかったんだけど、あいにく、ボクが乗ったのは南浦和行きだったから、あの踏切は通らなかったんだよなぁ・・・・・、
残念!!!



〜完〜






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