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話の種

ヨーロッパ連合の全地球測位システム「ガリレオ」計画というものがあるそうで

測位システムというのは、皆さん御存知の通り、自分のいる位置を正確に読み取る装置のことです。 日本ではアメリカ のGPS衛星を利用した電子ロードマップが自動車に多く用いられていますね。 この他にアメリカが、イラクやアフガニスタンの政府を転覆させる際に使用し た、精密誘導爆弾もGPS誘導だったそうですが。
定期航空機や定期航海船舶も、現在位置を知るのにアメリカのGPSを使っているのが殆どです。

ちなみこれは使用料無料です。

なぜヨーロッパ連合が、わざわざ巨額の投資をして、自前で重複するシステムを持って、アメリカのGPSへ対抗しようとしているのでしょうか?
色々言われておりますが、欧州が農業地域であり、プロジェクトを推進しているのが、ヨーロッパ一の農業国であるフランスなのを考えると、ひとつ理解の鍵が 見えてきます。 私の会社でも畑の農薬や肥料散布の記録管理にGPSを使っています。

一枚一枚の畑が、北海度並に、もしくは北海道より、どでかいことも有り、GPSで畑の区画に認識番号をつけて管理しているわけです。  まぁ、この場合1 アール毎位の精度での管理ですが、それなりに役立っております。

何でかと言うと、農薬散布も肥料の散布も飛行機でブーン、ですから、時々パイロットが間違えて隣の畑に撒いちゃったとかの無駄がおきます。 GPSで位置 が正確にわかれば、そんな無駄が無くなって万々歳です。 まぁ、飛行機でぶちまける訳ですから、10メートル単位程度の精度でかまいません。

ですから、アメリカが、またぞろどこかの国に無理難題吹っかけて、戦争が始まって、敵に利用されないようにGPSの民生用周波数の精度を低下させられて も、まぁ、大した事ないと言うわけです。
ところがですね、農業のコスト競争も激しくなってきますとね。 飛行機代もケチるようになります。 

話しは外れますが、農業用飛行機はすごいですよ。

普通20人乗りの双発機飛行機に使うようなターボプロップエンジンをのっけた、単発プロペラ機で、軽量化のために翼は布張りだったりします。 何しろ重た い水に溶かした肥料や農薬を抱えて、牧草地のようなところから短距離で離陸するわけで、軽い機体、高揚力の翼と物凄いパワーのエンジンの組み合わせが不可 欠です。 

空荷だと、50mも滑走すると、そのまま垂直に上昇して行く姿は、模型のラジコン飛行機のようです。

で、けちった飛行機代の話ですが。
当たり前の話、地べたをトラクターで走るほうが、燃料代的には安く付きます。 それなのに、なぜ、飛行機を使うかと言いますと、密播き作物の場合は、種を 播いたら最後、トラクターが走る余地が無い。 麦などの栽培がそうです。 この場合は、飛行機くらいしか手が無いのです。  踏んづけたら枯れてしまうで しょ?

一方、畝で植える作物で、あまり地上の葉っぱや茎が伸びないもの。  例えばニンジン等は畝の間にトラクターのタイヤを走らせられるので、トラクターにタ ンクをつけて、水、肥料、農薬などを撒けます。

ところが、水気の少ない土地では畝を作ると乾燥が進みすぎるので、まったいらにした畑に作物を植えます。 つまり、植えたら最後、芽が出るまで、どこに植 わっているか検討もつかない訳です。  仮に芽を出した後で上から見えるとはいえ、昨今のトラクターは大型化の一途で、とても、人間様の能力では精密な運 転など出来ません。 また、カボチャなどは横へ伸びますから、トラクターのタイヤの通る余地が殆ど無い。 

そこでGPSが出てきます。 ニュージーランドの農業会社の中にはGPS搭載のトラクターで種蒔きをしているところがあります。  なんとまぁ12cmの 誤差で種が、まっすぐに総延長数キロにわたって植えられています(なんで、そこまで高い精度が民生用GPSで出せるかは聞き損なったのですが)。 それだ けまっすぐだと、隣の列との間もぴっちり、タイヤひとつ分だけあけてきっちり植えられます。  

つまり非常に効率の良い植え方が出来るのです。  あとから、GPSデータをもとに、肥料やりも水やりも、植えた作物を踏みつけにする気遣い無くできま す。 いままで飛行機でないと撒けなかった肥料や農薬も、トラクターで出来るようになって、航空燃料代が大幅削減できたと言うお話です。 しかも、必要な 部分にだけ、絞って行えるので、無駄がありません。 無駄を省くことが、安く生産する鍵なのは自動車工業だけに限りません。

ヨーロッパの大規模農家もこの手でやっているのでしょう。 ですのでいきなりアメリカ政府がGPS精度を落としたりすると、GPSガイドトラクターを使っ ている農家は大損害。  そりゃそうです、踏んでいないつもりの野菜をミスガイドでふんずけてしまうかもしれませんからね。

これもまぁ、欧州連合がガリレオをやりたがっている理由のひとつでしょうね。

ここまで、効率化しているから、わざわざ日本へまで船や飛行機で運んで行っても、日本産より安く売れるわけでありました。 いまWTOで農産物関税をなく して、なんでも自由にしようと言う意見がありますね。 私の勤務先なぞも、大歓迎で、関税撤廃を応援しています。 こんな、効率化された農業によって生産 された農作物が日本へ入ってきたら、日本の農業は壊滅だと言う人がいます。

私はね、そうはならないと思います。 政府からの補助金。 つまり、農業以外の産業に従事している人の税金を、労無く受け取って生活しているような怠慢な 農家が滅びるだけです。 私の友人にも日本で農畜産業をしているのが何人もいますが、殆どの連中は、補助金なんていらねぇ と言ってます。  

トヨタや、ソニーの例を見るまでも無く、効率のいい生産、新規な製品の開発で、日本の工業は生き残ってきました。  円高が1アメリカドル360円から 88円になっても、がんばって生き残ってきました。  農家の皆さんに、このがんばりが出来ない訳がありません。  当然、大規模化が進むでしょう。  NZの農家のように、隣の農家と農地をつなげて大きくして、農業生産会社に貸し付けるとか、生産を請け負うとかと言うのも出てくるでしょう。

ともかく、日本人は改善や効率運用が出来る民族です。 ですから、補助金や関税撤廃になったら、かえって物凄い変化 が起きて、日本の農業が大改善するとおもいますよ。 そうなったら、私の勤務先のような会社は大打撃。  というわけで、私的には日本の農業にいつまでも 補助金漬けになっていて欲しいのです。

なぜって、私は日本に税金を払っていないから、自分の懐は痛くないのでした。 

失礼しました。

 

初出「北海道ブラインドハムクラ ブ」録音月刊誌2003 

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