このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

話 の種 

知ってるようで知らない農薬用語


素人さんは農薬イコール悪だと思っています。 昨今は農学部の学生にさえも、そういう頓珍漢がゴロゴロしているようです。情けない。 農薬の使用 の良し悪しのエンドレス議論は別として、農薬を語る上で最低限知っていなければいけない基礎的な事を解説してみました。

結構これの理解がむちゃくちゃで、生産者と頓珍漢問答を繰り返している会社が多いです。 マスコミや商社は特にその傾向が。。。hi

「日本で登録の無い農薬が使われたアメリカの野菜が云々」という報道を聞いたら 「アメリカで売っている農薬になぜ日本政府への登録が必要なんだ阿呆!」  と言うのが正しいリアクション。 

では超基礎編をどうぞ。

用語の解説

Pesticide:日本で使われる「農薬」と同義語で、次のInsecticide、Fungicide、 Herbicide、の全てを含みます。
Insecticide:殺虫剤、もしくは忌避剤、誘引剤など

害虫を制御し虫害を低減する為に使われる物の総称。 皆さんが肌に塗る虫除けもInsecticideの一種。
皆さんが夏に寝ながら焚いて吸い込んでいる「○○ノーマット」の類も農薬と成分はいっしょですね。 
Fungicide:「消毒剤」「殺菌剤」と訳すことが多い。

カビなどの細菌とは違う真菌類を消毒する為に使われる物の総称。 
Bactericide:日本では、これも「消毒剤」「殺菌剤」

細菌を制御する為に使われる物の総称。 
皆さんが大好きな「抗菌」成分は、これのことが多いですね。
Product Name製品名

一般的に、農薬製剤の商品名です。 例えば「オリゼメート」
Active Ingredients有効成分(原体)

農薬製剤の中で効き目を持つ物質の化学名です。例えば「プロベナゾール」
Chemical Group農薬、有効成分、原体の種類

有効成分は、目的は同じでも、いろいろなグループに分ける事が出来ます。例えば「有機リン系」などです。 同じ種類の薬剤を連続して 使い続けると、病原微生物や害虫は耐性と言って抵抗力を身につけてしまいます。 これを防止する為には、農薬/原体の種類を変えながら使用していかなけれ ばなりません。
ND不検出

Non-Detectedの略です。 検査機関の分析装置で「検出できない事」「検出でき なかった事」をこう呼びます。 世界的には1Kg当たり0.05mgから0.005mgくらいの濃度を指していいます。
御存知の通り分析器の精度は上がりますから、いつの日か、「農薬残留の無い作物は無い」と云うこともあるでしょう。 
と云うわけで、「ある一定濃度以下を不検出と認める」というのが世界的に法律の運用方法です。

「不検出=残留農薬ゼロ」とは科学的には言いません。 (文科系の人には非常に難しい概念らしい)
WHP収穫前日数/(農薬使用後の収穫までの最低必要日数基準)

Withholding Periodですが、適切な訳語が見つかりません。 日本では習慣的に収穫前日数としている事が多いようです。 ともかく、農薬を使用した後、収穫をする までに置かなければいけない期間。 別の言い方をすれば、「収穫する日より、何日前までに農薬散布を終わらせなければいけないか?」です。

これらの期間は、その期間収穫を待っていれば、それぞれの農薬が散布後、日時が経過するにつれて残存量が、どんどん少なくなっていって、指定された許容残 留量以下になるように設定されています。
もし、許容残存量が指定されていない場合、「不検出」でなければいけませんから、不検出になるように期間が設定して有ります。
個々の農薬と作物の組み合わせについて、その物質の分解速度等を勘案 して「14日以上前」とか、「24時間以上前」とか、様々に決められています。
MRL許容残留量

Maximum Residue Limit 最大許容残留量で、「残留農薬基準」と言ったら大抵これのことで、「有効成分」がこれ以下なら残留を認めますという基準です。 ともかく食 品輸出者は、食品の輸入される国のMRLに従う事が必要です。
このMRLは国ごとに異なった基準が採用されている事があります。 これは食文化の違いや、利用できる農薬の違い、農薬の必要性や、人種ごとの体格の違い などから来ています。
(例: 「ジャガイモを山ほど食べるドイツのジャガイモのMRLは、めったにジャガイモを食べない日本のジャガイモのMRLより厳しい」 ハズ)
ADI許容一日摂取量

Acceptable Daily Intake ADIはWHOなどの国際機関が協力し合って設定した、各物質ごとの世界統一の数字で、「mg/kg/日」が単位です。 1日につき体重1キログラムあた り○○ミリグラムまでなら、その農薬を一生涯摂取し続けても大丈夫であろう」という量をいいます。
上記MRLが世界中で一定でないのは、例えば、ほぼ毎日コメを大量に食べる日本と、殆どコメを食べない、とある外国では、「同じADIにあたる量を摂取す るために食べるコメの量が異なるから」です。 というわけで、MRLは、国ごとによって異なることがあります。 
基本的にはADIを日々食べるそれぞれの食品の量で割った量がMRLになると考えてよいです。
Registered Pesticide (Chemical)登録農薬

何処の国でも、作物ごと生育段階ごとに使ってよい農薬が農薬会社によって製品名で登録されています。
ほとんどの登録農薬のラベルには、推奨する最適使用量と言うものが書いてあります。 これは次の理由から、守られるべ きものです。

農薬会社は、農薬が説明書どおりに使用された場合にのみ、その結果に責任を負います。
ある農薬が、その農薬の対象作物でない作物に使われた場合、許容される残存量は、その作物に許可された農薬の許容残存量より遥かに低濃度(厳しく)で、し ばしば、オーバーします。 オーバーは有効成分のMRL違反になりますから輸出出荷できません。
つまり、対象外の作物に使うなと云うこと。
もし、減農薬を考えて濃度を薄くした場合。 病原体や、害虫などが弱い薬剤で耐性を身につけて、結果的に強い農薬でさえ制御できなくなります(死ななくな る)。 
減農薬とは、散布回数を減らして実現するのが一般的です。
もし、強力な効果を期待して特濃の農薬を使用した場合。 作物そのものが農薬負けし、益虫も殺してしまう事もあるでしょうし、環境破壊にもつながります。  そもそも、経費的に破綻します。 また、残留農薬(有効成分)がMRLを越えて出荷できなくなる事も有るでしょう。



間違えやすい勘所

世界中の国々で、全ての農薬製剤が同じように登録されているわけではありません。 その国々で必要な農薬だけが登録されているわけです。 例え ば、数多くの水稲用の農薬が日本で登録されています。 しかしニュージーランドでは登録されていません、なぜならZLでは、ほとんど水稲栽培が行われてい ないからです。

そ のほかにも

Withdrawn Pesticide (Chemical)

失効農薬

これは、農薬会社が「もう利益でないし、この農薬の製造販売止めます」と云うことで、政府に登録の廃止を申請した農薬を言います。  失効しても、すぐ使用できなくなるわけではなく、猶予期間があったり(日本)、有効成分のMRLで管理したり(USA)で、一定期間使う事が出来ます。
反対語:登録農薬

Prohibited Pesticide (Chemical)禁止農薬

それぞれの国の政府が、人の健康や環境への悪影響が予見されることを理由に、作物への使用を禁止した農薬の事です。 ある作物が輸出用に栽培されているな ら、生産者は、輸出向け国政府が禁止農薬に指定している農薬を、栽培に使用してはいけません。
Application for non registered crops適用外使用

日本のマスコミで、しょっちゅう間違えて混用されているのが、この農薬の「適用外使用」と、「使用禁止農薬」です。
適用外使用と言うのは、「キュウリ専用の消毒薬を、ナスに使いました。」とか「ピーマンの苗床用の殺菌剤を開花後に使いました。」と云うようなことです。  農薬会社は、農薬をそれぞれ、対象作物名と使用時期とセットで政府に登録していますから、登録していない作物や時期にへ、その農薬を使用すると、適用外 使用になります。 
やってはいけないことで、日本では農薬取締法違反になります。 (食品衛生法違反にはなりません。)

別の意味では、日本で登録されているからといって、B国で、その作物用にB国政府に登録されていない農薬を使うと、日本に輸出するとしてもB国の国内法で の農薬の適用外使用ということになります。



簡単早見表、農家や食品の輸入者は何処の法律を尊守せねばならないか?

以下の早見は2005年3月現在の情報で書かれています。

 使用する農薬製剤収穫前散布の制限残留農薬基準(MRL)禁止農薬失効農薬
日本で栽培して日本で売る場合日本政府に登録された、その作物用の農薬。登録された規定の期間以上、農薬散布と収穫の間をあけなければいけない。日本の残留農薬基準の基準以内であること。禁止農薬は使用してはいけない。猶予期間中に使い切ること。
とあるB国で栽培してB国で売る場合B国政府に登録された、その作物用の農薬。登録された規定の期間以上、農薬散布と収穫の間をあけなければいけない。B国の残留農薬基準の基準以内であること。禁止農薬は使用してはいけない。B国政府の残留農薬基準の基準以内であること
B国で栽培して日本で売る場合

(上記B国生産B国販売の条件を満たした上で、右の条件も満たす事)
B国で登録された、その作物用の農薬。 
日本で登録されていなくても使用可。
但し、輸入検疫時に、日本の残留農薬基準の基準以内であること。
輸入検疫を通過する為には、各々の農薬の有効成分残留量が、日本のMRL 残留基準の基準以内であること。 日本国政府の定めた禁止農薬は、原則検出されてはいけない。適用外農薬/失効農薬は、日本国政府の定めた、その有効成分(原体)の残留基準以内で有る

と まぁ、ややこしいです。
ややこしいから、分かりにくい、分かりにくいから、理解を放棄した人々の目には怖いものとしか写らないのが農薬。 説明していると「私たちには分からない から」と平気で言う人たちが居ますが、判らないなら何で反対なんだろう?


また、一般商品に,残留しているかもしれない農薬を気にする人々が、日本の都会の空気を平気ですっている感覚が私には理解不能です。 「健康の為なら死ん でもいい」(某噺家談)と思っている人々にはお手上げhi


日本で最も使える農薬に関するサイトは こちら

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