このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
はじめに いつもは食品工学を学んだ人向けに書いていますが。 今回は特に平易に書いたつもりです。 丸っきりの素人さんにはちょっと難しいかもしれません。 今回 は丸っきりの創作です |
さて、ここまでの失敗は何だったのでしょう? - 冷凍方法の失敗: 二人は500gのシチューのパックを冷凍する際に店の冷凍庫を使いました。 10パックのシチューを冷凍庫にいきなり詰めたこともあり、シチューのパック は急速冷凍されませんでした。 急速冷凍の反語は緩慢冷凍。 緩慢冷凍は凍結する際に食品組織の中で氷の粒が大きく育ちやすいという特徴があります。 肉の塊の中で氷の粒ができると肉の 繊維がボロボロになります。 参 考画像はこちら 緩慢凍結はソースの乳化もこわします。 かくして分離した肉の塊がバラバラのシチューだったものができたわけです。 煮こんで煮込んでただでさえ肉が柔らかくなった、売れ残りを緩慢凍結したので、こういうことになったという側面もあります。 - 袋の選択の失敗 冷凍食品の風味の劣化と言うものはいろいろな原因があります。 まずプラスチックフィルム(素人さんがビニールっていう奴ね)は酸素やその他香気を通します。 冷凍庫内の様々な異臭が安い包材を通過してしまったので す。 いわゆるプラスチックフィルム素材にはポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンなどなど これだけ種類 が あります。 それぞれ向き不向きがあるのです。 冷凍食品を詰めたいと思ったら、 凸版 、 大日本 などの容器屋さんに「こういう内容物を何℃で 詰めて、何℃で保管流通させて、賞味期間は何か月で、最適包材教えて」と言わないとダメでしょう。 冷凍食品のプロでない事業者が詰めた冷凍食品容器には「この袋に詰める馬鹿がいるか」という選択をしているケースが見られます。 肉が砕けても少し変なにおいがしても、ハヤシライスのもとに再利用した際には、肉の大きさは気になりませんし、トマトケチャップの風味で少しくらいの臭い はマスキングされてしまうので、わからなかったのですね。 |
真空パックの失敗 「暖かい液物を真空ひいちゃだめだよオーナー。」 「もっと冷やしてからでないと噴き出してしまいます。」 と ちょっと威張りモードだったシェフ伊盛。 しかし50℃に冷やしても0.1気圧(-0.9気圧)まで引くと吹いてしまうことには変わりない。 水道水なら沸騰しても噴き出すことはないが、シチューのように粘度が高いと泡になって噴き出してしまうのです。 基本的に量の多い粘度のある液体物を強い真空包装できる包装機はありません。 天下の東洋自動機様の全自動真空包装充填機でも、ハンバーグのたれ程度なら何とかなるいうレベル。 それでも減圧タイミングを絶妙にコントロールしているんですけどね。 |
5から9の失敗の数々 |
- あえ て書きませんでしたが、ステップ5で、液物は充填温度を90℃以上で詰めると良かったのです。 「ソースたっぷりシチュー」を鍋で肉の芯も90℃以上にな る様に温度を上げてから、その温度のまま速やかにパック詰めして脱気包装してシールしておけば、この製品は良い線行きました。 なぜなら、このシチューは 赤ワインを使ってpHが4.5前後の弱酸性食 品だったので、充填の最適条件と保存の最適条件を守っていれば酷いことにはならなかったのです。 極端な例ではpHが低い酸性食品で、水分活性が低い、初発菌数が低い、などの条件があれば常温流通できる商品があります。 砂糖たっぷりの古典的なジャム が一例です。 |
- 今回 の製品はビーフシチュー。 こんな水分活性の高い製品はいくらなんでもレトルトパウチ容器に封入しレトルト殺菌にかけなくては常温流通は無理です。 ス テップ6でシェフ伊盛が「レトルトみたいだ」と言い、真に受けたオーナー山田がステップ8で「レトルトパックです」とほざいていますが。 レトルトパウチ詰め食品とは専用の容器に詰め、容器ごと高温高圧で殺菌した食品です。 素人が一番やるのは「真空包装したら、密封包装したらレトルト食 品」という大勘違いです。 レトルト食品についての超基礎は こちら 。 つまり、今回のビーフシチューはどちらのタイプも要冷蔵でした。 弱い脱気で作った「肉塊3割/ソース7割のシチュー」の方は、 製品中(液中も含む)に残った酸素で中温好気性菌が繁殖し、膨張腐敗ということになりました。 まぁ基本は要冷蔵だね。 |
- オー ナー山田がステップ9で「レトルトシチューです。」と配っておりましたが。 ステップ6で100℃で茹でているだけです。 これが恐ろしい。 pH4.5 と言えばボツリヌス菌の生育限界ギリギリ。 増殖しても不思議のないpH帯です。 かの11人殺しの「 からしレンコン食中 毒 」でも有名をはせたのがボツリヌス菌です。 あの事件の場合、 初発菌数は低かったのに、熱湯煮沸で他の一般生菌を殺菌したためボツリヌス菌が優勢状態になったこと。 真空包装して嫌気細菌であるボツリヌス菌が増殖しやすい状態になったこと。 (世の中には酸素があると育たない細菌も多くいます。) それをさらに常温に置いたこと。 基本的にウェットな食品は要冷蔵です。 多くの食中毒菌は増殖時にガスを出さず。つまり膨らまないこともある。 ある意味膨らんだものを食べる人は居ないので店の評判は落ちても死人は出ない。 |
- そし て、ステップ9。 何が無許可だったの? オーナー山田の店は保健所に飲食業の営業許可をもらっていましたが、惣菜製造と食肉加工の許可はもらっていませんでした。 レトルトと言って売ったので「缶詰製造業」の免許も必要だったんです。 まぁ殺菌技術者の資格がないとどうにもなりませんし、資格を持っていたらこんな事 故は起こさなかったでしょうね。 どこにも義務表示を付けたと書いてないでしょ? JAS法 食品衛生法での表示違反でもあったのです。 2015年には新しい食品表示法令が施行されま すのでご用心。 |
食品保蔵学を学ぶ。 意味が分かるようになるまで手を出さない。 県の衛生部門(いわゆる保健所)や農産部門に教えてもらう。 我々食品加工のプロから見ると、役所はろくでもない現場を知らない御仁ばかりだが、まるで素 人の飲食業やさんよりはネタを知っている。 しかも彼らは相談料無料である。 一番遠回りだが、安定したビジネスをしようと思ったら聞きかじりではできない。 お料理とそろばんができれば飲食業は始めることができる。 (そのかわり、簡単に潰れるので年間数十万店が消える)。 賞味期限を有する食品の工業生産は、食品科学(食品加工学、食品保蔵学、微生物学など)、食品法令の知識などを知ったうえで初めてレシピづくりができるの です。 |
短期的には。。。 「肉塊9割/ソース1割のシチュー」 と 「肉塊3割/ソース7割のシチュー」の両方とも2-4週間ぐらいの賞味期間を持たせたパック商品はできたでしょう。 まず「残り物で作るのは諦める。 残り物はどうしても初発菌数が高いんだよねぇ。 レシピを調整してpHを4.3未満にする。 酢かpH調整剤(クエン酸)を使うとよい。 充填前に十分加熱するすべての肉の中心温度が90度にまでなっていること。 プラスチックパック容器は内面PP、外面PETのような袋がとりあえず。 包材問屋と相談する。 (馬鹿な問屋もいるから気を付ける) パックに充填したら脱気、あるいは真空してシールする。 10秒ほどよくゆすって、そのあと速やかに冷却する。 氷水を使いたいくらいである。 十分冷や したら30分以内に0℃から4℃の冷却冷蔵する。 冷蔵能力の高い冷蔵室か冷蔵庫を使う。 原料と同じ冷蔵庫なんてもってのほかです。 原料から製品容器に汚染が広がったら? と考えましょう。 以上のことをするには、最低でも中心温度計が必要です。 安物買いは悲惨なので。 せめてこのくらいのは買いましょう。 「肉塊9割/ソース1割のシチュー」の方は80℃位で充 填して真空密封し、そのあと95℃以上の熱水でボイルするといいでしょう。 肉が多いので熱伝導が悪いため、長い時間ボイルしないとダメかもしれません。 その時間は数個犠牲にして中心温度計を刺してみて、計測するといいでしょう。 以降はその経験値をもとに殺菌時間を掛ければよいですね。 肉塊を大きくしたり容量を大きくしたりしたら、時間が延びますね。 こちらも急冷するのを忘れずに。 ところでなんで急冷するかわかります? 耐熱細菌とはいっても耐熱芽胞でない場合は熱でだいぶやられます。 しかし、ゆっくり冷却すると、耐熱芽胞がまた 発芽して栄養細胞となり悪さをするのです。 密封した野菜や餡などが膨張したり変敗したりするのは、加熱不十分か冷却不十分。 pH制御不足などが主原因です。 あいてはセレウス菌や枯草菌、耐熱性乳酸菌などなど。 ボツリヌス以外にもいろいろいるんですなぁ。 そうそう これは冷蔵食品として販売しましょうね。 保健所に正しい食品営業の許可申請を出しましょう。 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/kyoka/kyoka_0.html 食品表示は消費者庁のホームページから資料を探す http://www.caa.go.jp/foods/ 原産国(地域)表示やアレルギー表示、製造者表示などなどきりがないけどね。 |
ZL2PGJ/7L2PGJ 鶴田
(c)ZL2PGJ/7L2PGJ 2014
使 用条件
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