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第2話 「出発(たびだち)のバラード・後編」

 

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(N)人は皆星の海を見ながら旅に出る。思い描いた希望を追い求めて。

果てしなく旅は長く、人はやがて夢を追い求める旅のうちに永遠の眠りにつく。

人は死に、人は埋まれる。終わることのない流れの中を列車は走る。

終わることのないレールの上を夢と希望と野心と若さを乗せて列車は今日も走る。

そして今、汽笛が新しい若者の旅立ちを告げる。

 

(SE)エアカーの振動音

鉄郎:エアカーって全然揺れないんだね。

メーテル:出発まであと5時間しかないわ。飛ばすわよ。

鉄郎:う、うん。

メーテル:どうしたの、鉄郎? 浮かない顔ね。999に乗るのが恐くなったの?

鉄郎:そんなことないよ。メーテル、どうして僕にこんな大事なパスをくれるの?

メーテル:さっきも言ったでしょう。あなたが私と一緒に列車に乗ってくれるお礼よ。それ以上は聞かないで。

鉄郎:メーテルがそう言うんなら。

メーテル:ほら、メガロポリスが見えてきたわ。

鉄郎:あれがメガロポリスか。すごいなあ。

メーテル:銀河系最大のターミナル駅があるんですもの。いろいろな星からひっきりなしに人が集まってくるのよ。

 

(待ち合い用個室)

(SE)ドアが開いて閉まる音

メーテル:ここが待ち合い用の個室よ。乗車前にはここで休養するの。鉄郎はソファでくつろいでいて。私はシャワーを浴びてくるから。

鉄郎:メーテル、僕・・・

メーテル:なあに?

鉄郎:ううん、なんでもない。

メーテル:うふふ、おかしいわね。

(SE)シャワーの音

(バスルームから謎の声)

鉄郎:僕はついに行くんだ。このパスさえあれば、ほんとに機械の体をただでくれるっていう星まで行けるんだ。ん?

謎の声:メーテルよ、手抜かりはないな?

メーテル:はい。

謎の声:いいか、おまえはあの少年に影のごとくつきまとい、決して離れてはならない。よいか?

鉄郎:はい、決して離れません。

謎の声:もしおまえが私のいいつけに背いた場合、おまえは死ぬことになる。それを忘れるな。

メーテル:わかりました。

鉄郎:メーテルが死ぬだって? ねえ、メーテル、誰と話してるの? メーテル?(バスルームのドアを開ける)

メーテル:どうしたの、鉄郎?

鉄郎:あ、ごめん。変な話し声が聞こえたから。

メーテル:話し声? 見ての通り、私は一人よ。

鉄郎:失礼しましたっ。(バスルームのドアを閉める)おかしいなあ。確かに今・・・メーテルって何か隠してるのかな。(不思議そうに)でも、今はそれよりも・・・

 

(メガロポリス駅構内)

球体アナウンス:午前0時発アンドロメダ行き銀河超特急999号は99番ホームより発車いたします。ご乗車の方はお急ぎください。

鉄郎:これが銀河超特急999号?(驚く)

メーテル:そうよ。驚いた?

鉄郎:だってこれ、大昔のSLじゃないか。

メーテル:大丈夫よ。こう見えても、耐エネルギー無限電磁バリアに守られた超近代化宇宙列車なんだから。

鉄郎:本当?(安心したように)

メーテル:ええ、外装だけ旧式の蒸気機関車にしてあるの。二度と帰らないお客のためにはこんな型の列車じゃないとだめなの。

鉄郎:二度と帰らないって・・・僕は機会の体をもらって、必ず帰るつもりなんだよ。必ず。

メーテル:あ、そうだったわね。

(SE)人込みのざわめき

メーテル:どうしたの? さあ、乗りましょう。鉄郎?(怪訝そうに)

鉄郎:僕、この列車に乗る前に、やっておかなければならないことがある。どうしても。(きっぱりと)

メーテル:・・・999号は待ってくれないのよ。

鉄郎:大丈夫。必ず戻ってくる。

(SE)鉄郎の足音

メーテル:鉄郎・・・

 

(機械伯爵の館)

(SE)蓄音機の音楽

機械化人A:しかしこれはとんでもない上物だ。伯爵、よく一発でしとめましたね。(へつらうように)

機械伯爵:ああ。こんな見事な剥製は俺も初めてだ。この白い肌を見ろ。実に美しい。

(蓄音機の音楽が急に止まる)

機械化人B:なんだ?

機械化人C:おい、どうしたんだい!?

機械化人A:おい、誰だ、蓄音機を止めたのは?

鉄郎:僕だ!

機械化人B:貴様!

機械化人C:何者だ!

鉄郎:その剥製の・・・息子だ!

機械伯爵:何?

機械化人B:何しに来た!

(SE)銃声とうめき声

機械伯爵:貴様・・・

鉄郎:お母さんの敵(かたき)を討ちに来た!

機械伯爵:敵を討つだと? おまえのような小僧が? ふっふっふっふっ、やれるものなら・・・

(SE)銃声

機械伯爵:うっ!

鉄郎:人の命をおもちゃにする機械の悪魔め!

機械伯爵:人間の命をもてあそんで何が悪い! 所詮100年しかもたない安物だろうが。貴様等の命など剥製ほどの価値もないわ!

鉄郎:言うことはそれだけか?(銃を突きつける)

機械伯爵:う・・・やめろ・・・脳だけは撃たないでくれ・・・脳をやられたら・・・俺たちはおしまいだ・・・助けてくれ・・・

鉄郎:くたばれー!

(SE)銃声

機械伯爵:(絶叫)

鉄郎:お母さん・・・行ってくるよ。

 

(メガロポリス)

(SE)999の汽笛

(走り出す999)

(走ってくる鉄郎)

鉄郎:メーテルー!(喘ぎながら)

メーテル:鉄郎!

鉄郎:よかった。間に合った。

メーテル:鉄郎、怪我はしてないのね?

鉄郎:大丈夫。僕は何が起ころうと絶対に機械の体をくれる星まで行ってやるんだ。

メーテル:さあ、中に入りましょう。

(SE)999の汽笛

鉄郎:ああ、メガロポリスの明かりが小さくなっていく・・・

メーテル:今のうちによく見ておくといいわ。今度またこの景色を見ることがあったとしても、そのときは機械の目になっているんだから・・・

鉄郎:いいんだ。この星にはいやな思い出しかないから。

メーテル:どんな思い出もやがて懐かしく思えてくるときが来るわ。

鉄郎:いやだな、メーテル。そんなおばあさんみたいに・・・ お母さん、お父さん、行ってきます。機械の体をくれる星へ。お母さんたちの分まで長生きするために。

 

 

(N)鉄郎を乗せた銀河超特急999号はその無限軌道に乗って走り出した。

どんな星を訪ね、どんなところへ行ってどんな姿になって帰ってくるのか、鉄郎にはわからない。

銀河鉄道ののびていく彼方には、ただ無限の星の輝く海が広がっているだけだ。

(SE)999の汽笛

 

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