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遊気舎「FOLKER」

1999.4.24(土) 於:本多劇場 14:00開演の回 C列12番にて鑑賞

【物語】

 とある女囚刑務所。そこでは、死刑囚のメンタルケアの一環として、更正プログラムが組まれていた。その一つ、フォークダンスのクラスは「ハーイ皆さん、笑ってくださーい。」が口癖のほがらかな先生・松岡(山本)に担当され、厳しい規律は一切なし。プログラムの時間だけは死の恐怖を忘れ、ひとときの安らぎを得る女囚たち。ある日現れた新入りの女囚(楠)。まだうら若い彼女の名前は空那(そらな)。妹を殺した男を殺害した罪その他で死刑宣告を受け、ここへやってきたのだった。

 すさみきった空那は誰ともうちとけようとせず、近づく者すべてに殺意に近い憎悪を突きつける。ダンスにもいっこう加わらず、部屋の隅でそっぽを向いている。とげとげしてしまうクラスの雰囲気。だが、松岡は根気強く彼女の心をときほぐし、ついに空那は仲間になる。

 一方。フォーク・ダンスコンテスト、「フォークダンス・バトル」の主催者・マイキー(後藤)は大会を盛り上げるための新しい趣向を考えていた。優勝最有力候補は、7連覇を目指す「フォークウォーリアーズ」。じつは主催者の持ちチームで、勝つためならどんな卑劣な手段も辞さないヴァイオレンス集団だ。
 コンテストの話題づくりとして「囚人を参加させる」アイデアを思いついた主催者は空那たちの刑務所に参加を申し込む。
だが、「フォークウォーリアーズ」には娼婦だった空那の妹を殺した真犯人であり、空那の復讐によって自分の兄を殺された男・ジギー(西田)がメンバーとして加わっていた。
 空那が参加していることを知ったジギーは、復讐の刃が自分に向けられることを恐れ、あらゆる汚い手段を使って囚人チーム・「スティールキャッツ」の出場を妨害する。
しかし、幾多もの妨害工作を何とかくぐり抜け、優勝への階段をのぼってゆく「スティールキャッツ」。

そしてついに、「フォークウォーリアーズ」と「スティールキャッツ」は決勝戦で直接対決することに……

 

【感想】

 これはおとぎ話だ。「昔々あるところに……」ではじまる、何代にも渡って語り継がれてきた、昔々の逸話。後藤ひろひとはギャグやサスペンスをきどりながら、新たなおとぎ話を私たちに披露してくれたのだ。
 「源八橋西詰」の「カッパミイラちゃん」、「人間風車」の童話作家とその物語、後藤ひろひとの作品はいつもおとぎ話のにおいがする。リアルタイムではなくて、昔々の話、人の口を経て語り継がれながら少しづつ変化をし、もう最初のすじがきを知る者のいなくなった物語。

 知人の編集者から渡された原稿に目を通すうちに、そこに書かれた物語と読み手の現実が少しづつ重なり合い、境目がなくなってゆくという展開。だが、原稿に記述される物語はどうも現実にはありそうにないストーリー。女子刑務所という殺伐とした舞台を描いてはいるが、どこか甘く、(過酷な現実が一切描かれていないためもあろうが)読み手には死刑囚達の立つ絶望と、一縷の光明であるフォークダンスとの対比が鮮やかには浮かび上がってこない。リアリズムに欠けている。欠けているからこそ、この物語はおとぎ話として一級品なのだ。
 ラスト、この物語は全て架空のものだったと確信された直後、最後の最後になって「この物語は本当にあった出来事です」と知らされるわたしたち。この展開が童話「ナルニア国物語」「はてしない物語」を思い起こさせる。登場人物が現実と架空の世界を行き来し、読み手も一緒に二つの世界を行き来する。読み終わる頃には異世界への見えない扉を探したくてしようがなくなってしまう。
 強烈な架空世界は、現実に限りなく近くなる。降り注ぐ星を全身に受けながら踊る死刑囚達の姿を見るうちに、私の中に「この世のどこかに彼らはいるのかもしれない」という奇妙な現実感が生まれていたのだった。

 他、こまかい感想。
 もうちょっとおふざけがはげしいかと思ったけど、そうでもなかった。要所要所にお遊びを取り入れつつ、物語自体はかっちり作ってある感じ。祥子(工藤)の脱走は爽快かつ笑えた。(あのほっそい体で毎晩こっそり腕立て旋回もやってる姿を想像すると)
 いきなり出てきたカーク船長こと三上市朗にびっくりするやらおかしいやら。不条理脈絡なしなし。

【DATA】

公演は全て終了。

作・演出・出演:後藤ひろひと

出演:楠見薫 山本忠 福田転球(転球劇場) 久保田浩 西田政彦 谷省吾 魔瑠 信平エステベス プリンス・ジャミー・アリババ・ゴールデン40人・光と影・人工衛星・C-500・DIDDLE,FOG,DIDDLE・SLOWAIR・REWRITER・円卓・こうぼく・突撃ヒューマン 魔人ハンターミツルギ 中平みほ 小川十紀子 工藤まき まついきよし バカボン 峯素子 岡田美子 史野サロウ 篠垣雅男 田中香奈 二宮いづみ 藤田佳苗 エル・ニンジャ コロス(大阪・福岡)→荒木由香 稲田真理 上田典子 植田ゆき 上村京子 さわいくこ 瀬戸啓光 副島新五 南斗ユウカ 西うらしんじ 根岸千里 林昌伸 みきあすか 森嶌正紀 安田裕美 (東京)阿久津勝哉 石野紀子 いせゆみこ 伊藤たまみ 大原康子 小野ひでゆき 斉藤麻英子 中根美好 ババヒロアキ 日向新 平井ゆり子 ますだころ 松下清永 森野久美子 山下聡美

舞台監督:永易健介 照明:池田哲朗 音響:Alain Nouveau 美術:池田ともゆき 装置:篠垣雅男 
衣裳:平野佳寿代+田中千香子 小道具:コニッタ+佐藤広美+二宮いづみ 

宣伝美術:黒田武志(SAND SCAPE)宣伝写真:中川誠一 

演出助手:萩原弓佳 演出補:谷省吾 振付:福田転球(転球劇場)

運営協力:JAWAS 制作:伊藤恭子+岡田美子+金沢保枝 プロデューサー補:太木裕子 プロデューサー:荻野達也

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