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惑星ピスタチオ「破壊ランナー」

1999.06.08(火)・10(木)・11(金)・18(金) 於:シアターアプル ※8日は公開通し稽古 
各日19:00(金曜公演は20:00)開演の回 鑑賞日順に6列10番・11列14番・5列16番・5列10番にて鑑賞

【物語】

 西暦2707年。生身の体での音速走行を可能にした人類は、人間による音速走行レース「ソニックラン」に熱狂していた。10期連続チャンピオン・豹二郎ダイアモンド(腹筋)は100連勝を賭けてレースに挑むがなぜかリタイア。人類最速の男・豹二郎。だが、2年前に自己新記録1.71音速を達成以来、最高速度の更新は止まっていた。より速く、速度の高みを目指す豹二郎は今の速さに満足できず、自暴自棄に陥ってしまったのだ。

 気まぐれ半分のリタイアが及ぼした影響は大きかった。引退の噂、所属チームのスポンサーの出資打ち切り。所属チームは破産寸前、チームスタッフはお手上げ状態。恋人・リンコ(福岡)との間にも、豹二郎の八つ当たりで微妙なひびが。
 八方ふさがりの豹二郎の前に現れたのは新参チーム・AROIのオーナー・黒川フランク(保村)と専属科学者スパイク(進藤)。「私たちのもとへ来れば、きっとあなたは速くなる。」無限の可能性をちらつかせる、フランクの甘い誘惑。心揺れながらも拒絶した豹二郎は、信じられぬ言葉を耳にする。「AROIに、自分よりも速いランナーがいる」……。

 半信半疑のまま、アリゾナでのレースに出場した豹二郎。いつものように並み居るランナーをごぼう抜き、ぶっちぎりで先頭を走り続ける。会場の誰もがチャンプの独走優勝を確信したとき。トップを凄まじい速さで追いかける影が。そのランナーこそがAROIの新人、ライデン(末満)だった。
 全力をふりしぼって逃げる豹二郎。速度はもちろん彼の、つまり人類の出しうる限界速度、1.71音速。
 しかし。不敵な薄笑いを浮かべ、無名の新人は脇をすり抜ける。表示速度は1.75音速。遠く、更に遠く距離は広がる。
 だが、ライデンばかりではなかった。好ランナーではあるが常に2番手に甘んじてきたカルリシア(川田)までもがぴったりと併走してきたのだ。「AROIは危険よ、豹二郎。」意味不明な言葉を残し、カルリシアもまた豹二郎を抜き去る。
 やすやすと自分を抜き去ったライバルに対する驚き、自らの限界を突破できぬ苛立ち、悔しさ。様々な感情が豹二郎の全身を貫いた。
 その瞬間、爆発的な力が全身を貫いた。ぐんぐん上がるスピード。1.77音速。彼自身「出せるはずがない」とフランクに言い切った速度で、豹二郎はライデンを猛追する。筋肉の暴走を防ぐためのパルスコントロールも無視し、ついにライデンを抜き、トップ奪回。だが、ライデンもまた自らの限界を突破し、1.80音速で豹二郎を抜き返す。更に速く。速く。全身の力をふりしぼりライデンの背中を追う豹二郎。
 しかし、それが限界だった。
 突然、凄まじい爆発が会場を覆う。限界を超えた運動に耐えかねた豹二郎の脚は筋肉内核爆発を起こしてしまったのだ。

 ライセンスを剥奪されチームは解散、核爆発による被爆で豹二郎は再起不能に加えて余命1年を宣告される。
 しかし、豹二郎は被爆治療を拒み、アリゾナの砂漠でひとりトレーニングを再開した。訪れたリンコに彼は語る。誰もが存在しないと思った1.77の走行速度を、俺は確かに出した。人間には限界などないのだ。何音速でも出してやる。必ずレース復帰して、もう一度ライデンを抜いてやる。……リンコは彼の決意を確かめると、「私は次のレースからランナーとして復帰する。」と告げ、去って行く。彼女の所属するチームの名は、AROI。
 リンコの去った後、顔見知りのランナー・キャデラック(宇田)が訪ねてくる。爆発に巻き込まれてカルリシアが死んだ、その事故跡で拾った小さな部品を豹二郎に見せる。人工筋肉の部品の一部。カルリシアは違法機械化手術を受けていたのだ。そして、部品に刻まれた文字は「A・R・O」……。
 「リンコが危ない。」
 その瞬間。すさまじい熱が砂漠を焼き尽くした。

 同じ頃、チームAROI。フランクはアリゾナレース以降1.80音速をマークできないライデンに苛立ちを隠せない。「1.80音速は偶然の産物。二度と出せません」と言い切るスパイクに、フランクはAROIの真の目的を明かす。1.80音速以上で走るランナーは、爆発を起こせば凄まじい威力を発する兵器となる。AROIは、秘密兵器を開発するための、防衛局の隠れ蓑だったのだ。国家機密を漏らした上で、今や自分の意に添わぬスパイクを抹殺しようとするフランクだったが、ひそかにランナーたちを意のままに動かすようマインドコントロールを施したスパイクによって返り討ちに合う。

 ソニック・ラン・ワールドシリーズ最終戦会場。AROIを掌握したスパイクは、マインドコントロールを施したフランクと共にレース観戦をしていた。そこに、豹二郎についての情報が舞い込んでくる。レーザー光線で砂漠ごと蒸発させたはずの豹二郎が、キャデラックとともに生き延びて、レース会場をまっすぐ目指して走っているのだ。しかも、復帰不可能の筈の豹二郎の走行速度はいつの間にか0.7音速にまで上がっているではないか。理論に反することは一切認められない。スパイクは、理論に反する存在を抹消するため、追尾装置付きミサイルを発射する。
 必死でミサイルから逃げる二人。逃げるうちに豹二郎のスピードはどんどん上がり、ついには音速走行を達成。サーキットに走り込んだ豹二郎はリンコを探し求める。だが、リンコはすでにマインドコントロールを受け、恋人を認めることができない。「リンコ、俺だ。見てくれ、サーキットに戻ってきたぜ」必死に呼びかける豹二郎。その後を、スパイクの2音速で走る巨大ロボットが追う。だが、豹二郎とロボットの間は縮まらない。驚くべき事に、その差はゆっくりと広がっていった。あまりのスピードに耐えかね、クラッシュするロボットを置いて、更に速くかけ続ける豹二郎。その横に、いつしかライデンの姿があった。「俺を速く走らせるのは、スパイクの作った機械の体ではない、お前だ。今度も負けん。たとえこの体がバーストしようとも。」二人は誰も到達できぬ、極限スピードで併走する。表示速度は3音速を超えた。信じられぬ光景に固唾を呑む場内。
 だが、決着の瞬間は訪れる。バーストを起こすライデン。豹二郎は一人、前人未踏の速度で走り続ける。マインドコントロールの解けたリンコと刹那の間言葉を交わす豹二郎だったが、彼のスピードは速すぎ、リンコを追い越してしまう。
 理論に反する速度で走り続ける豹二郎に、スパイクは狂気じみた怒りを爆発させる。レーザービームで豹二郎を焼き尽くそうとするスパイク。灼熱した一本の光が、まっすぐに豹二郎を追う。必死で逃げる豹二郎。更に限界を超えて上がり続けるスピード。サーキットにリンコの、観客の、仲間達の悲痛な声が響きわたる。「豹二郎——っっっ!!」

 真っ白な光が爆発し、轟音が轟く。その後に、豹二郎の姿はない。彼は死んだのか、それとも……。
 公式記録にはこう残される。「豹二郎ダイアモンド、3.20音速を記録した直後、行方不明。以後、現在に至るまで、この記録は破られていない。……」

<<ボーナストラック>>

 はるか後の世。ソニック・ランは相変わらずの人気。今年もソニック・ラン・レース、豹二郎ダイアモンドカップが開催される。世界中から結集したそうそうたるトップランナー達。その中にはかつての豹二郎のライバルの子孫たちの顔もある。参加者全員が2.80音速を達成している今回、ついにだれが前人未踏の3音速を出すことができるのか。未知の世界に向かってランナーがスタートを切ろうとしたまさにその時。
 まばゆい光、そして轟音と共に、金色に光るランナーが突然姿を現した。周りを見回し、彼は叫んだ。 
 「リンコはどこだ——っっっ!」

 To Be Continued.

 

【感想】

今度の破壊ランナーは、ラブストーリーだ。

  ピスタチオ初体験は前回「破壊ランナーDX」だった。 THEATER/TOPS二列目中央での観劇。圧倒的な迫力は伝説に値する物だった。THEATER/TOPSを出たとき、私は頭をひっくり返される衝撃と、えもいわれぬ感動で夢うつつだった。
 生身の人間が、目の前で音速を超えた。人としての限界を超えた現象を、確かに私はこの目で見たのである。人間は何だってできるんだ。人の持つ可能性の無限さを、ピスタチオは証明して見せたのだ。
 それは演出によるイリュージョンには違いない。だが、確かに私は「何のトリックも使わず、人が、その肉体だけで」音速を超えて走り抜ける奇跡を目撃したのだ。

 さて。今回。物語は前回よりも若干細部の描写を加え、ふくらみが出た。特にリンコのソニックランナーであった過去が描かれることにより、彼女と豹二郎のつながりがさらに分かりやすく感じられる。今回の「破壊ランナー」は、前回の「より速く走る美学」よりもこの豹二郎とリンコの恋物語がクローズアップされている。同じ作品ではあるが、テーマは全く別なのだ。個人的に言えば、やはり過去に衝撃的な体験をしてしまったので、どうしても食い足りなさが残った。観たかったのは恋愛物ではなく、人間が限界を超える奇跡だったのだから。それはさておき、リンコと豹二郎がアリゾナの砂漠で語り合うシーンは良かった。お互いにレースランナーである二人の意地と、ランナーとしての愛の形。それは前作よりも的確に浮き彫りにされ、心を打った。
 ただ、個人的には、レースランナーの美学と奇跡を見せつける作品であってほしかった。

 役者。リンコ役の福岡ゆみこ。良かった。観る前は平和堂ミラノのかげりあるリンコのイメージが強かったのでどんな感じかと思っていたが、予想を超えて良かった。力強いがしなやかな動き、しゃきしゃきと気っぷの良い演技。強いリンコ、かっこいいじゃありませんか。福岡はステージを重ねるにつれ更に動きのしなやかさと力強さを増し、微妙な心の動きを表現する演技力を発揮。どうしてこの人がメインを張る芝居がなかったのだろう。西田シャトナーは彼女を使い切れていなかったとしか思えない。今回、すごく輝いていた役者。

 保村大和のフランク役に磨きがかかっていて、とてもGoooooood!なまめかしさ、くねくねさ縦横無尽。「中央〜」ネタはいまいち相方の首藤とかみ合わせが悪く今ひとつだったが、ギャグ以外の演技ひとつひとつが光っていた。登場の仕方も含めて、一番光っていたかも(^^;)

 客演、希ノボリコ。二日目公演までは全く声が出ない、表情もセリフのメリハリも平板、台詞も噛むで、ヒヤヒヤ。しかし、恐らくそれは緊張のせいだったのではないだろうか。公演2週目に入ると、別人。セリフも表情も生き生きと感情が投影されて、動きも13年バレエを習ったという自在さが前面に出る。アクロバティックでキュートな早井速三。速三というよりは速子、という感じだけど。もっともっとはじけてほしい。

 劇場選びについて疑問が残る。前回公演「ナイフ」の時も思ったのだが、なぜアプルなのか。今回の公演はもっと小さな場所を選ぶべきではなかっただろうか。明らかに、観客が体感するスピードが落ちていると思う。正直言って、スピードスケートをもっと早くしたスピードにしか見えないことが多いのだ。(もっと前&センターの席で観るとまた違うかもしれないが)
 (役者の体力が年齢的に落ちているのかもしれないがけれど、広い舞台を使い切るためどうしても役者のスタミナが途中から不足する(腹筋善之介ですら、最後の方は腕は動くものの足がほとんど歩いていた)ように見受けられた。
 また、今回の舞台セットはいつもながらすばらしいできなのだが、レースシーンをスピーディに見せる、という点において失敗だったかと思う。
 というのは、半円形で舞台を囲むオブジェで、待機中の役者はほぼソデに隠れることなく、オブジェの側で出番を待つ。レースシーンの場合、いきなり相手が追いついてくるとか、追い抜くとかのスピーディな展開があるのであるが、すると、出を待つ役者の動きがほとんど丸見えなので、次にどんな展開が起きるか予想がついてしまうのだ。意表をつく展開のはずなのに、舞台装置のために緊張感が薄くなってしまうのである。

 ピスタチオにはありがちなのだが、尻上がりに出来が良くなっていっているので(客には失礼な話だが)、大阪の千秋楽も見に行こうかなーと、ちょっと思っている。

【DATA】

作・演出:西田シャトナー

出演:腹筋善之介 保村大和 宇田尚純 福岡ゆみこ 末満健一 進藤則夫(劇団 帰ってきたゑびす) 
川田陽子(劇団 2年6組山田学級) 希ノボリコ(劇団☆世界一団) 坂口修一(TNT RYTHM

照明:大塚雅史(DASH COMPANY) 音響:Alain Nouveau 衣裳:斉藤まさみ
舞台芸術:橘宣行彫刻ランド 舞台監督:鈴木田竜二(寿団事務所) 

グラフィック・デザイン:黒田武志(SAND SCAPE)
写真撮影:磯井美和
印刷:(株)トータル・アド・メディア 

制作:塩谷雅子 

総合プロデュース:池口登紀子

 

東京公演 1999.06.10(木)〜06.25(金) @シアターアプル
開演時間:火〜木19:00 金20:00(25のみ19:00) 土17:00 日15:00 (開場は各日開演の30分前)
月曜休演

大阪公演 1999.07.02(金)〜11(日) @シアター・ドラマシティ
開演時間:月〜木19:00 金20:00 土17:00 日15:00 (開場は各日開演の30分前)

料金:\5500(前売り・当日共通、全席指定) 当日券は開演1時間前より販売

前日ターボ予約あり。詳しくはオフィス・ピスタチオ:06-6454-1546へ

期間限定オフィシャルホームページ (7/11まで)にてチケットレス予約も受付中。

 

次回公演:「白血球ライダー2000」 1999.10月〜11月 東京・大阪公演(すみません、確かに詳細な公演情報を見たんですが、リーフレットのどこを見ても載ってません。アンケート用紙に記載されてたのかなー。)

 

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