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惑星ピスタチオ「白血球ライダー2000」

1999.11.13 於:シアターアプル 18:00開演の回 13列25番にて観劇

 

【物語】

 誰のものとも知れぬ、人体内部。体内のバクテリアを破壊する、白血球で結成された免疫警察により、体内の安全は保たれていた。

 しかし、ガーン将軍(末満)率いる地下組織・セルショッカーは白血球細胞に改造を施し、免疫警察を攻撃。怪物と化した細胞により、免疫警察は壊滅の危機に瀕する。

 核に異常を持って生まれた白血球細胞、シロー・シロガネ(腹筋)は常に異端扱いされ、「バクテリアだ」と白眼視されていた。正義感に燃え、免疫警察に入隊志願した彼も、入隊試験を偏見により受験拒否されたことをきっかけにグレてゆく。いつしか彼は暴走ライダーのヘッドとなりはてていた。

 そんな彼の元にある日、エリート刑事のJB(保村)が訪れ、レースを申し込む。二人は立入禁止の胎盤山脈でレースを開始するが、直後にJBのもとに出動命令が。細胞にとりついてゼンマイを内部にはびこらせるHIVウィルス集団が街を襲ったのだ。レースを放棄してJBは現場に向かい、一方、シローは誤って胎盤山脈を覆う異次元空間に飛び込んでしまう。

 異次元を抜けて落ちた先は、セルショッカーの改造手術室。6つの改造白血球細胞の中に墜落した衝撃でシローは核融合を起こし、「白血球ライダー」の破壊的能力を身に着ける。

 この時から、彼は正義の破壊者となる。改造され、怪物と化した妹・小雪(福岡)、老警察官ギャリソン(宇田)らを殺す。だが、彼の中で疑問が芽生える。自分は何故、このようになったのか?偶然の運命なのか、それとも、物理的・数学的・科学的に計算された結末なのか。ただの破壊者なのではないか、俺は。

 答えを求め、シローは脳に向かう。かつての恋人、双子の姉妹ノンとレム(川田・坂口)に会うためだ。しかし、二人はすでにガーンに改造され、脳ゲルゲ・レディーと化していた。美しい肉体が見るもおぞましいモンスターと変化し、二人はシローに襲いかかる。心を裂かれながらも、シローは二人を倒す。

 脳は、すでに廃墟と化していた。細胞はどろどろに融け、すべて死滅している。「脳が死んでいる。この世界は、一体どうなったのだろう。」おののきながらシローは脳から去り、世界がどうなったかを確かめる。心臓は確かに動いている。だが、免疫警察壊滅によって異変は起きていた。大腸はすでに正常な栄養供給システムを断たれ、機能を失う。細胞達は自らの役割を果たさず、末世的空気が世界を覆う。
 そして、シローは癌の街に辿り着く。隆盛を極める癌の街に。癌細胞達はシローを歓迎する。「あなたは立派な癌細胞だもの」と。シローのいるべき場所は、ここだったのか?同胞を得、奇妙な安らぎを感じるシローに、ガーン将軍の声が突き刺さる。「こいつは癌細胞ではない。」

 白血球でもなくバクテリアでもなく癌細胞でもない。アイデンティティを喪失して漂流するシローは、見えざる力に導かれるように子宮へと辿り着く。胎児の中には、彼を新たなメンバーとして受け容れる免疫警察が待つ。だが、背後にガーンの率いるバクテリアの大群が迫る。シローの閉ざそうとする子宮の扉をこじ開け、清浄な生命に侵入しようとするバクテリア達。シローが選択したのは、自らが属する、崩壊する世界に残ることだった。扉を閉ざし、溶接する。バクテリアが彼に襲いかかる。食い尽くされたシローはまた、バクテリアの一部となる。
 この運命は誰の意志なのだろう、偶然の産物か、物理的・数学的・科学的に計算された結末なのか?

 滅びる母胎を残し、胎児は離れて行く。爆発する惑星から宇宙船が脱出するかのように。

 

【感想】

 いつもながらストイックなセット。何もない舞台、三方にうずくまるロボット型の鋼鉄オブジェ。不気味で奇妙に有機感のある無機物。廃墟、死んだ生物のイメージか。生々しく息づく存在感。 胎動か不安の鼓動を思わせる、単調な効果音が開演前の場内に流れる。

 宣伝チラシに見られる従来路線とは裏腹に、舞台は過去のピスタチオとは一線を画した内容。

 恐らく、HIVによる免疫不全から癌を発病しついに脳死状態に陥った女性が、奇跡的にも身ごもっていた胎児を出産するまでの彼女の体内。彼女を構成する細胞の戦い。

 結論を先に言おう。名作である。衣装、照明、効果音、物語。今までのピスタチオ作品の最高峰であると言っていいだろう。ただし、致命的な欠点がある。構成だ。

 冒頭の群唱のすばらしさ。細胞核の破壊から生まれる世界。宇宙の誕生。生命の萌芽の瞬間。ぞくぞくする。

 だが、本編に入ると連続する回想シーン。物語の半分以上が登場人物の回想で構成されている。エピソードを時系列に並べず、各登場人物の回想をモザイクのように配列しているのだが、整理不足で、混線している感じ。たぶん、演出の中でまだ整理が完了していないのではないか。話の流れはわかる(分からない人もいるかも)が、各シーンの切り分けやつなぎがうまく機能していないので、観客にいたずらな混乱をもたらしていると思う。多分、脚本を読めばよく解るんだろうなあ、と思いながら見ていた。そう、とにかく物語は素晴らしい出来だ。そこに流れる世界観も。そう、ピスタチオの舞台の根幹はいつも、「世界観の構築・模索」にあるように思える。

 回想シーンの多角的な反復と同時に、生物の用語が多用されたシーン、キャラクター紹介。複雑な世界や場面設定の説明。膨大な情報量を、観客は追うことになる。恐らく、脳味噌がパンクしかけた人もいるのではないだろうか。
 膨大な情報量の摂取を妨げた原因には、こなれない場面演出以外に発声の悪さが挙げられる。毎度書いていることなのだが、とにかく何を言っているのか、聞き取りづらい。最後列の客など、恐らくさっぱり理解できません状態なのではないだろうか。活舌をもっと良くしてほしい。せっかくの素晴らしい台詞が、観客のもとに届くことなく消えてしまうのはあまりに惜しい。声を届かせられないのならば、もう少し小規模な劇場で上演するのも一つの選択なのではないだろうか。なぜアプルにこだわり続けるのか、よく解らない。

 シローが脳に辿り着くシーンから、物語は死(滅び、と表現するべきか)と再生の側面をあらわにしてゆく。ラスト、自らのアイデンティティを、子宮の扉を閉ざし、生命と死を断絶することで見いだすシロー。それは彼の意志ではなく、摂理が定めた必然だったのかもしれない。しかし、それでも、観客は切なさ、苦しさを感じずにいられない。この感情は「死」に直面したときに感ずる苦しさ、なのかもしれない。わたしは、涙が出そうになった。死と再生。永遠に続く輪廻の輪。肉体のみならず、宇宙やこの世や、あらゆる世界の滅びと再生がひきおこす哀しみと喜び。西田シャトナーは、なんという世界観を見せてくれたのだろう。
 不消化な中盤があまりに口惜しい。

 照明、シローが白血球ライダーに変化する時のかっこよさ、子宮の入口、清浄な生命を象徴する白い光の清らかさ、死に絶える世界を示す、ラストの影と光の交錯するライティング、赤と緑を多用した不気味な効果、とにかく言い尽くせないほど素晴らしかった。

 ところで。前回公演時挿入した予告編は一体。いいんですけど、従来路線版も見てみたい気がする。だからかもしれない、今回、ほぼラスト近くまで、長大な番外編を上演しているような感じが続いた。

 役者。これまでこきおろしてきた末満健一が遂に脱皮。確固とした個性、存在感。おめでとう。

 西田シャトナーは、ピスタチオはどこへ行こうとしているのだろう。彼らは未来に向かって漂流する。

 

【DATA】

神戸公演は全て終了。

東京公演:1999/11/13(土)〜23(火・祝) @シアターアプル
開演:火・水19:00 金20:00 土・祝18:00 日13:00と18:00 (月休演・開場は各開演30分前)
料金:前売り・当日共\5500(全席指定)
問い合わせ:オフィス・ピスタチオ ℡06-6454-1546

作・演出:西田シャトナー

出演:腹筋善之介 保村大和 宇田尚純 福岡ゆみこ 末満健一 進藤則夫(劇団 帰ってきたゑびす)
川田陽子(劇団 2年6組山田学級) 希ノボリコ(劇団☆世界一団) 坂口修一(TNT RYTHM) 
高木稟(転球劇場) 
44北川

照明:大塚雅史(DASH COMPANY) 音響:Alain Nouveau 衣裳:斉藤まさみ
舞台芸術:橘宣行彫刻ランド 舞台監督:鈴木田竜二(寿団事務所)

医学監修:西田佳史(医学博士) 

グラフィック・デザイン:黒田武志(SAND SCAPE)
写真撮影:磯井美和
印刷:(株)トータル・アド・メディア ただくま印刷

制作:塩谷雅子 制作補助:惑星ピスタチオ見習い生

総合プロデュース:池口登紀子

企画・制作:(有)オフィス・ピスタチオ

次回公演:タイトル未定:2000年3月@新宿シアターアプル、茶屋町シアター・ドラマシティ

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