このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」
1999.2.12(日) 於:シアターコクーン 18:00開演の回 B列2番にて鑑賞
【物語】
森の中で裏表をかけてコイントスをし続けるなんだか存在感のない男二人組。彼らの名はローゼンクランツ(古田)とギルデンスターン(生瀬)。 スウェーデンの王子・ハムレット(トロイ)の素行怪しく発狂の怖れありとみて、義父である国王・クローディアス(青山)が真偽を調べるために呼び寄せられたのだ。
裏にかけるギルデンスターン、表にかけるローゼンクランツ。何十度やっても出続ける表。ただよう不吉の前兆。自分たちがしている旅の目的は分かるけれども、その目的をどう果たせばよいのか分からない。
王城に到着しても、誰も、何の指示もしてくれない。王はハムレット発狂か否かを調べよというが、肝心のハムレットにもなかなか接触できない、どう調べればいいのかも分からない。ただただおろおろする二人のそばをすり抜けてゆく悲劇。森で出会った旅一座に城で再会し、御前芝居のリハーサルを見るローゼンクランツとギルデンスターン。恐るべき暗殺の真相、多くの者が死に果てるこの物語の結末を予見してしまう。
そして、悲劇の大河の泡に自分たちの悲劇がひとつ浮かんでいることを予期する二人。だが、彼らには悲劇への流れに逆らうすべがない。何をしてもいないのに、死に向かって自分たちのイシイが命からによって運ばれてゆく「誰でもない彼ら」。
ギルデンスターンはつぶやく。「死ぬっていうのは芝居とは違うねん。一回死んだらまたすぐに生き返ることはできんねん。死っていうのは……。」
かくて運命に流された二人は再び舞台に現れぬまま、一つの王家が死に絶える壮絶な悲劇の結末に短いセンテンスによって存在を完全にかき消される。
"Rosencrantz and Guildenstern are dead."
【感想】
初演、再演時はチケットが入手できず涙をのみ、今回三度目の正直。期待めらめらで劇場へ。
旧友ハムレットの発狂を調べるため王に召喚されたものの、どうという働きもしないまま舞台から姿を消し、あげくにいつの間にか殺されてしまっている「ハムレット」の端役にスポットを当てた作品。裏ハムレット。
コメディだと思って観に行ったのだが、ストレートプレイでちょっと肩すかし。全編大阪弁で上演され、おもしろおかしげに見えるのだが作り手側の意図は笑いになく。
舞台の上での死は何度もリプレイできる。死は死であり得ず、本物らしいがすべてがまやかし。だが、「本当の死はそんなもんやないねん。」一度死ねば、生き返ることが出来ない。作者の都合でひっぱりだされ、意味もなく死を与えられたキャラクターの無念。イベントとしての死をもてあそんだ作者への哀しいメッセージ。観客に訴える、死の重み。
命の重さを無視したような事件の起こる昨今。簡単に殺戮を楽しめるゲーム。登場人物があっけなく死んでしまうTVドラマ。日常に簡便な死のイメージがあふれる現代。軽い死。
でも、人は死んだら死ぬ。死んだら、その次はないのだ。作者の都合で殺されたキャラクターは、リアリティのない死が充満した現代を批判しているのだ。そう、笑いが目的ではないんです、この作品。
しかしどうしても大阪弁の言い回しが耳に入るたび、笑いへの期待がこみ上げてしまう。パンフレットを読むと「大阪から単身赴任で東京にやってきたサラリーマン、ロズギル」という一文があって、なるほどと思った。この不条理な作品からは「死」を通じて常に現代との共通項を見いだすことができるのだ。
しかし、やや今回の制作側の意図は観客にストレートに伝わりにくかったかもしれない。達者な役者二人ではあるが、やや作品の持つ重さ、大きさに圧倒されている感がある。それは演出においても言えるかもしれない。以前の公演ではどうだったのか知らないが、今回、衣裳は時代物を意識していた。大阪から来たサラリーマンを意識したのであれば、逆に(ストレートすぎるかもしれないが)視覚、聴覚面を現代にそっくり移し替えた方が良かったのではないだろうか。舞台美術は今回象徴的にそびえ立つ巨大な一冊の本「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」だったから、そのままでよいと感じる。衣裳をグレーの背広にするとか、効果音に現代の騒音(旅のシーンでは新大阪駅の新幹線乗り場のアナウンスとか)を入れるとかはどうだろうか。
環境を完全に現代に移してこそ、不条理に翻弄される二人の哀しみ、現代における死の希薄さが笑いを伴いつつ、より克明に表現できたような気がするのだ。
【DATA】
東京公演はすべて終了。
新潟公演:2/29(火) @りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
静岡公演:3/2(木) @静岡市民文化会館
名古屋公演:3/4(土) @愛知県勤労会館
大阪公演:3/10(金)〜12(日) @近鉄劇場出演:生瀬勝久 古田新太 トロイ 目黒光代 青山吉良 赤司まり子 上田忠好 棚川寛子 水下きよし 山下禎啓 中脇樹人 横道毅 加納幸和
作:トム・ストッパード 訳:松岡和子
演出:鵜山仁
美術:中越司 照明:沢田祐二 衣裳:八重田喜美子 音楽:川崎絵都夫 音響:高橋巖 ヘアメイク:片山昌子
演出助手:森さゆ里 舞台監督:鈴木政憲
演出部:村田祐二 中瀬古靖 今井眞弓 山下妙子
照明操作:長美音子 音響操作:長野朋美 ツアー照明:笠原俊幸 柘植幸久 衣裳助手:前岡直子
稽古場協力:今村由香
照明:沢田オフィス 音響:オフィス新音 衣裳:東京衣裳(株) 菊田光次郎 履物:神田屋靴店 佐野弥一
大道具:C-COM舞台装置 桜井俊郎 小道具:高津映画装飾(株) 中村エリト The Stuff
かつら協力:wigMaster associates 化粧品協力:(株)コスメティック・アイーダ
技術協力:クロスオーバー 運搬:(株)マイド 森浩
プロデューサー:笹部博司
制作:長峯英子 岡本由紀夫 制作助手:橋本傑
票券:中村典子 横山いずみ 大島明子 木村成章 アカウント:真田良子
企画:劇書房 主催・製作:メジャーリーグ 提携:Bunkamuraシアターコクーン 後援:TOKYO FM
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |