このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

七色とうがらし通信   

                                 vol.23 11.7.23       発行 吉川 厚   
<シリーズわたしはたびびと>

蛍がみたくてでかけてしまいました。

ふと…
 週が明けると、大阪に出張です。日曜日の昼過ぎ、思い立って、新幹線に乗り、京都で山陰線に乗り換えました。園部(そのべ)までは満員だった車両が、前2両を残して切り離され、ワンマンカーに衣替えです。和知(わち)駅で、列車に接続する町営バスに乗り換え、美山(みやま)へ。山と
ダム湖のみどりが目にしみて、あらためて、きれいなところだと思ったりします。
 薄明かりの中、美山ハイマートユースホステル(以下YH)に到着。玄関先で、奥さんのMちゃんが出迎えてくれました。金曜土曜は満室だった館内に、今日はわたしとペアレント夫妻だけです。3人で夕食を食べました。地の野菜や豆を使った料理、おししゅうございました。

ほたる来い
 時計の針が8時を回ると、あとかたづけが終わったペアレントのAさんが声をかけてくれました。「蛍をみにゆこう」
 車でというので、シートベルトをしようとすると、
「すぐおりるからいいよ」
 YHの前のたんぼの中の道を30秒ほどいき、車は止まりました。
「今日はいるかな」
 ハザードランプを点滅させると、やがて、みどり色の豆電球みたいのが、すーと近づいてきました。
蛍です。あとからあとから、集まってきます。
「8時15分が蛍の出勤時間なんだよ。今日は多いね」
 蛍をみるのは2度目ですが、1度目は椿山荘の庭にどこからか運んできて放したものでした。
ぼーとしてしまいました。よくみると、蛍って、のろまな虫です。人がよさそうというか、やっぱり、都会じゃ生きていけない連中です。人も同じで、かなり無理して、東京なんかに住んでいるんだなと思いました。車のボンネットに、蛍が無数にはりついて、光っています。どうやら、こいつら、雌とかん違いしているようなのです。
「! ハザードランプを消してみてもらえますか」
 暗闇で蛍をみたかったのですが、みなさん、帰宅の準備をして、三々五々、飛んでいってしまいました。車に乗り込むと、シャツが光っています。えりに1匹、へばりついていました。
「この子は連れていこう」
 シャツは、部屋に脱いで、風呂に入りました。
闇に光る
 ペアレント夫妻とだべって、11時半頃、部屋にもどりました。「そうだ。蛍はどうしたかな」
いちどつけた明かりを消し、目がなれてくると、部屋の下の方に、みどりの光が点滅します。なぜかゴミ箱にへばりついていました。枕元に移し、しばらくみつめていました。メガネをはずすと、りんかくがぼけて、みどりがひろがります。やがて、すこやかな眠りにおちてしまいました。
 朝、起きると、蛍はもういませんでした。

田舎暮らし
 翌日は、町内にあるハーブ園に連れていってもらうことになりました。ペアレントのAさんといっしょにドライブです。道々、野菜の無人販売所に立ち寄ります。YHの食事は、なるべく美山で採れた野菜を使いたいとのこと。たまに、農家の方がいたりして、Aさんと楽しそうにお話ししています。Aさんは、京都でも街中の出身で、YHを始めるために、美山町に来ました。いい感じで、町にとけ込んでいます。田舎暮らしはあこがれですが、地域になじむというか、受け入れてもらうのは、たいへんなことだと思います。すれちがう車も、プッと、クラクションを鳴らしていきます。鮎の販売所にも寄りました。この時期、リクエストがあれば、鮎料理も出してくれるそうです。
 ハーブ園には、色とりどりのハーブが花を咲かせていました。中に入ると、ハーブの匂いに包まれ、しあわせになります。これから、小学生が野外活動に来るそうです。今の小学校は、いろいろな授業があるのですね。山に入ってあれこれ、連れ回すそうです。こちらのご主人は、聞けば東京の方だそうで、なんだかうらやましくなります。
 自家製ハーブでつくったスパイスと、パン切りのまな板にいいなと思ってコルクの木(美山産)の輪切りと、芦生の森の葉をデザインしたTシャツを買いました。
 やがて、小学生が集まり、ご主人が「今日はあとで、おじさんの宝物をみせてあげます」とあいさつしました。こどもたちの目がきらりとしました。われわれは、そこで帰ってきてしまったのですが、宝物とはなんだったのでしょう。なにか、とおい昔に忘れてしまったもののような気がします。
 帰りは、夫妻で、バス停まで送ってくれました。車がカーブでみえなくなるまで、手を振ってくれました。

丹波の黒豆
 再び山陰線に乗り、福知山(ふくちやま)経由で大阪にいくことにしました。篠山口で途中下車して、バスで丹波篠山(たんばささやま)に向かいます。目当ては、丹波の黒豆パン。その前に小腹が空き、皿蕎麦を食べました。皿蕎麦は出石(いずし)の名物ですが、5枚の小皿に蕎麦がもられ、薬味がそえられます。蕎麦はまあまあでしたが、とろろがとてもおいしい。篠山では、山の芋と呼ばれ、名物になっています。裏通りの店で、さっそく芋を買い込みました。ここで、冷やしあめも発見。生姜風味で少し甘い飲物なのですが、関東ではお目にかかりません。「そうだ、こうしてはいられない」とパン屋に向かい、黒豆パンをゲット。ほどよく甘い黒豆がふんだんに練り込まれていて、パンもなかなか美味でした。
 「負けぎらい稲荷」で勝負事のお願いをし、この小さな旅を終えました。「負けずぎらい稲荷」ではありませんので。念のため。
                            

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