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            七色とうがらし通信             vol.26

                            99.9.9                       発行 吉川 厚   
<シリーズわたしはたびびと>

夏休みです。北海道です。(前編になるかも知れない)

釧路 朝
 金曜の夜、千歳に飛び、夜行に乗って釧路にやって来ました。寝台を奮発したのだけれど、どうも目がさえてしまって、寝ぼけまなこです。和商市場にいくと、ちょうど開いたところでした。建て替えによって広くなったのはいいのですけれど、入り口にLAWSONがあるのは、興ざめです。どんぶり飯に刺身など少しずつ載せてうろうろするのがここの流儀ですが、宿にあさごはんを頼んであるので、たらこと塩辛だけ買い込みました。始発のバスまでは、まだ間があり、ベンチでぼーっとしていると、駅舎にみゃーみゃーと鳥が群がっています。かもめです。ああ、海の近くなんだ。本を取りだしましたが、けっこううるさく、やっぱりぼーっとしていることにきめました。
 この日は、スタッフの女の子が明日帰るというので、釧路で買い物につき合いました。六花亭(ろっかてい)に、アイスクリームのくりーむ童話、柳月(りゅうげつ)と甘いもののはしごです。明日は、山登りだからと、自分にいいきかせて、すべていただきました。

西別岳登山
 GWのことです。鶴居村にある民宿風来坊の奥さんのMさんと、山登りの約束をしたことから、今回の西別岳(にしべつだけ)登山が実現しました。参加者は、Mさん、いらくさくん、わたし、そして、前日に「明日は登山だ」と宣言された女の子のTさん。
 朝5時起きすると、あまり天気はよくありません。2時間弱車を走らせ、登山口まで来ても、どんよりとしています。森をぬけると、「がまん坂」のカンバン。ちょっときついのぼりがだらだらと続きます。高度をかせいでふりかえっても、眼下にはなにもみえません。やっと、少し平坦なところまで登ってくると、「第1お花畑」のカンバン。でも、ガスでなんだかわかりません。西別岳は、尾根にそって、左側はガスの衣をまとい、右の顔だけをのぞかせています。一瞬、湖がみえました。あれが摩周湖なのか。すぐに、隠れてしまいました。
 西別岳の山頂で、六花亭のシフォンケーキをいただきました。今月のケーキは、アカシア蜂蜜です。5等分のはずが、大小さまざまになってしまいました。はるかむこうに切り立った摩周岳がみえます。
「いこうよ」Mさんがいいだしました。みると、みんなやる気になっています。途中、たらたらしていたTさんも目がらんらんとかがやいています。負けました。縦走です。
そして摩周
 いつしか、陽ざしも回復し、汗ばむほどです。1時間ほど歩き、摩周湖第1展望台との分岐に来ました。摩周岳に登るのは2度目ですが、確かここからきついはず。傾斜は徐々に急になり、やがて、足を高く上げなければ登れないようになりました。Mさんが遅れだし、がんばれがんばれです。Tさんは、のほほんと登っていきます。もうだめだと思った瞬間、視界が広がり、青い摩周が飛び込んできました。「おーーー」思わず歓声があがります。後ろの方で、何が起こったんだとMさんが顔を上げます。われわれは頂上に立ちました。すべてを飲み込む摩周ブルー。深いあお。いつまでも、いつまでもみていたい。お弁当を食べている間もみとれていました。
 西別岳の山頂にもどると、もうガスは晴れていて、朝とは違う光景です。「あれは国後(くなしり)ではないの?」知床連山のむこうに、島影がみえます。近くにいたおじさんは否定しましたが、地図と照らし合わせると、国後としか思えません。別のおばさんが「国後よ」といってくれました。下山を始めると、朝はガスばかりだったところにでっかい長方形に区切られた畑がみえます。がまん坂にさしかかる頃には、ひざが辛くなりました。山登りも、下りがなければ楽しいのですけれど。

シュンクシタカラ湖は幻の湖
 翌日は、はっきりしない天気の中、まぼろしの湖、シュンクシタカラ湖にむかいました。林道を走ること40分くらい、道はけっこう荒れていて、乗用車では難しいかも知れません。やがて、意外に大きい湖が姿を現しました。宿主の社長(と呼ばれています)が岸辺でなんかやっているなと思っていたら、海パンになって泳ぎだしました。今日はけっこう寒いんですよ。その後、ゴムボートを浮かべてしばらく漂いました。天気がよければ、きっときれいな湖なんでしょうね。

釧路川を下る
 今日も雨模様の天気ですが、ゴムボートで釧路川を下ることにしました。コッタロ湿原から細岡まで、3時間くらいだといいます。2槽のボートに3人ずつ乗り込み、横に連結しました。前後の2人がパドルを漕ぎます。なぜか、女性3人、男性3人に分かれ、出発しました。わたしは、まんなかだったので楽でいいやと思っていたのですが…。
 どこかでシュルシュルと音がします。そのうち、座っているボートのへりの弾力がゆるいような気がしてきました。「うーん、これは…」 空気がもれています。まんなかは、5分ごとに足踏みポンプを手で押して、おおいそがしです。まあ、そんなに簡単に沈むものでもないのですが。
 基本的に川の流れに身をまかせているのですが、川が大きくカーブを描いている場所では、みんな、一所懸命に漕ぎます。流木など水面から顔をのぞかせている場合は、もう必死です。雨はときおり激しく、われわれをたたきますが、こんなときには、どこからか力がわいてくるものです。そんなとき、遠くに黒い影がみえ、近づくにつれて丹頂鶴だとわかると、来てよかったなと思います。しかも、親子連れです。緑のなかの黒と白、こどもは茶色。ボートは接近し、そして、離れていきました。
 3時間ほどたつと、さすがに疲労の色がみえます。だれとはいわず、人物しりとりが始まりました。
これって、けっこう同じ人がつかえたりします。こんな天気の中、川を下るのはわれわれだけかと思っていたら、3人乗りのカヌーが追い抜いていきました。細岡はもうまもなくだといいます。船着き場が近づきましたが、みなれた車がありません。泣きそうになってさらに近づくと、わきの方にちゃんとお迎えがありました。鶴の家(つるのや)にひた走り、温泉にざぶん。ああ、格別の気分です。若いうちの苦労は買ってでもしろというのはほんとうですね。(後編につづくかも知んない…)

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