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          七色とうがらし通信            vol.27 

                           11.9.29                       発行 吉川 厚   
<シリーズわたしはたびびと>

夏休みです。北海道です。

校舎の宿
 鶴居村の民宿風来坊に4泊し、ちょっと、北によりみちです。北見から「ふるさと銀河線」という北海道で唯一の第3セクターで、置戸(おけと)にでました。置戸町には、地遊人(じゆうじん)という制度があり、1年間、町から補助金をもらって暮らすことができます。6月に礼文島で会った人がこの地遊人になっていて、電話をいれたのですが、ちょうど屈斜路湖に遊びにいくそうで、すれ違ってしまいました。せっかくだから、役場で教育課長さんに制度の概要を聞いたのですが、
100日の農作業が義務づけられており、男で1年もった人はいないということでした。ただ、別のところで、その話しをしたところ、町は花嫁がほしいから、男は歓迎しないんじゃないのという見方をした人もいましたが…。どうなのでしょう。
 置戸から池田方面にひと駅、小利別(しょうとしべつ)に、廃校になった小学校の校舎の宿、
「夢舎(ゆめや)」があります。相部屋の民宿の多くは、「とほ」という冊子に宿の紹介を載せていて、通称「とほ宿」と呼ばれており、北海道にはいたるところにあるセイコーマートというコンビニで手に入ります。夢舎は、そのなかでも古株で、ファンも多い宿です。
 「今日は、ライダー13人の団体が入るけど、いい?」予約の電話をいれるとこう聞かれました。13人の団体というのは、宿はじまって以来だそうです。夕暮れ間近、食堂でくつろいでいると、爆音が聞こえてきました。入ってくるところを見よう見ようというので、スタッフも含めて窓にはりついたのですが、遠ざかっていってしまいました。みんな、もとの位置にもどったのですが、やがて、再び爆音が近づいてきました。それとばかりに、窓へ。チラッと姿は見えたのですが、通り過ぎていきました。また、もどって。そんなことを3度ほど繰り返し、やっと彼らは入ってきました。そろいの赤いジャンバー(もっと気の利いたいい方があるんでしょうが)で、13台が連なって入ってきたのは壮観でした。先頭が迷っていたそうで、後ろの方はしかたなくついていったとぼやいていましたが…。
 ひとり旅に団体は天敵なのですが、大学のライダーサークルだそうで、意外にも礼儀正しい、ちょっと体育会系が入った面々でした。酒を飲みながらですが、反省会などもしており、好感がもてます。朝、宿主のKさんは、全員に声をそろえて、あいさつされて、ちょっとはずかしそうでした。
 朝のひととき、食堂から外にのびるテラスで、だべっていたのですが、そのなかのひとりに、ろくさんという人がいたことを、ちょっと、覚えておいてください。


十勝のまちで
 ゆったり走る銀河線で池田にでました。ワイン城で有名なところです。レンタサイクルで2時間ばかし走りました。山の方に十勝平野がみわたせる展望台があるというので、いってみましたが、みつかりません。あきらめはいい方なので、もどってくると、高校があり、マラソンをしていました。自転車の乗っているわたしをみて、みな、口々に「いいな」「のりてぇ」といっていました。いつもは、わたしの方が車をうらめしそうに見ているのですがね。
 羊毛の加工場があるというのでいってみると、思いの外、こじんまりしたところでした。スピナーズホームタナカといい、ご主人が糸を紡いでいました。カルチャースクールで技術を学び、定年後にご夫婦で店を開いたそうです。旅行が好きだそうで、「お店やっているとなかなかいけませんね」と聞くと、「閉めていっちゃうよ」ということでした。気持ちのいい生き方です。羊毛の小物がたくさんあり、目移りしてしまいましたが、草木染めのしおりだけ、もらいました。

はるにれの木
 「♪この木なんの木気になる木」の木が、十勝の豊頃(とよころ)町にあります。以前、北海道にいくという友だちには、みにいくように勧めたのですが、この目でみたことはありませんでした。豊頃駅から歩いていくつもりで、ふと思いつき、黒ラベルを買いに駅前の酒屋に入ると、おばちゃんが「はるにれの木をみにいくの?」とききます。そうだと答えると、自転車に乗っていきなさいといいます。豊頃町で、そろえたそうで、この酒屋で預かっているといいます。うーん、ついてる。のんべでよかった。きけば3キロ以上はあるそうです。
 はるにれの木は、とおくからでもすぐわかりました。近づくと、河川敷に50メートルくらいの間隔をおいて3本の木がたっており、どうやら、奥の木が気になる木のようです。順番にあいさつしていきましたが、予想以上に立派で、感激しました。さっそく、黒ラベルをぐいっと。近くからとおくから、思う存分眺めました。30分くらいたったでしょうか。JALSTORYのバスが堤防に現れ、ありの行列のようにこちらに人が歩いてきます。そろそろいくかと思っていると、とおくで写真だけ撮って、引き返していくではないですか。あわただしい人たちです。

その宿はチロンヌップ
 今日の宿は、民宿チロンヌップです。上士幌(かみしほろ)という帯広の北方の町にあります。ぬかびらにゆくバスで、なんども通過はしているのですが、降りるのは初めてです。宿主は中島みゆきのファンだそうで、玄関を入ると、さっそく、ビールの販促用なのか上半身等身大のみゆきさんが迎えてくれました。ちょっと化粧が濃いようです。部屋の名前も、彼女のうたで、個人的には、「蕎麦屋」があるのがうれしい。風呂は、すぐ近くの町営温泉で、宿代のなかに温泉代が含まれています。
 今日の宿泊客は、ライダー2人と、関西から来たおばさまのFさん。みんなで食卓を囲みました。宿主は、有機農法の畑をつくっていて、たくさんの野菜が食卓をいろどります。北海道で、ズッキーニが取れるのには、驚きました。太陽と風の味がしました。


その店はあんだらや
 翌日は、上士幌の畑の中をサイクリングです。今の時期、じゃがいもやとうきびがたくさん植わっていました。北海道の畑は、横一列に伸びる防風林がアクセントになって、絵になります。白樺の防風林もおしゃれです。白樺といえば、高原のイメージですが、畑のまんなかにあるのも北ならではでしょう。畑といえば、美瑛が有名ですが、上士幌も東大雪の山々がバックにひかえ、きれいですよ。なにより、ここには観光バスなどなく、写真を撮っているのはわたしくらいというのがよいのです。
 まっすぐいけば30分くらいだよといわれた「あんだらや」についたのは、お昼をまわっていました。ここは、ひとことでいえば、カレー屋さんです。感じがよくて元気のいい、まだ若いご夫婦がやっています。2人とも、先に泊まった夢舎でスタッフをしていた、元旅人だそうです。彼女とは、前に会ったことがあります。去年の正月明け、ぬかびらユースホステル(以下YH)で泊まり合わせたTさんと、帯広で六花亭と柳月の喫茶室をはしごしていたところ、このご夫婦とばったり。Tさんとは、ともだちだそうです。いっしょにいた者だといったら、「あらー」といわれました。
 夏野菜のカレーを食べていると、チラシを渡されました。Kさんという、もう、子育てがおわったくらいのご婦人で、関西から上士幌にやってきたそうです。「職がないの」と明るくいっていました。ここ、あんだらやで、9月の末にフリーマーケットとコンサートをするそうです。
 夕方のバスで、ぬかびらに移動しました。

ろてんでじけん
 ぬかびらYHには、車で峠まで運んでもらい、MTBで下ってくるというお気楽ダウンヒルツアーがあります。十勝三股(とかちみつまた)に下る三国(みくに)峠と、然別湖にいたる幌鹿(ほろしか)峠の2コースがあり、今日は三国峠を選びました。最近、熊が出没しているということで、いつも笑顔いっぱいのペアレントのSさんも、少々、心配顔です。
 三国峠には、なぜか、尺八をふいているおじさんがいました。聞けば、旅にでて、いろんなところでふいているそうです。今日はちょっと和風の峠になりました。北海道って、どちらかといえば、バターくさいイメージですけれどね。十勝三股までは、いっきに下ります。かつて栄えた林業のまちで、2000人くらい(すいません記憶がいいかげんです)の人がいたそうなのですが、今は、2軒の家があるだけです。昭和50年代のはじめまで、帯広から国鉄士幌線も走っていました。赤いたんぽぽが風にふかれています。初夏には、ルピナスの紫の花も咲くそうです。わきに入ると、東大雪の山がみえると聞いていたのですが、よくわからなかったのであきらめてしまいました。あとから、写真を見せてもらい、後悔しましたが。あきらめがよいのも考えものです。
 2軒のうちの1軒が三股山荘という、食事もできる喫茶店になっています。少し早いのですが、お昼にしました。食後、ハガキを書いていると、元気のいいご婦人が入ってきました。なんと、あんだらやで会ったKさんと、チロンヌップで泊まり合わせたFさんです。KさんとFさんがともだちで、わたしが、2人と別々に知り合ったというのも、不思議なめぐりあわせです。Kさんが先に移住してきて、Fさんにも来なさいよといっているようです。子育ても終わってあとは自分のために楽しく生きていく。いいですね。だんなさんはどうしているのか、聞かなかったんですが…。
 Kさんたちは車で、これから幌加(ほろか)温泉にいくそうです。後で落ち合う約束をして、ひとあし先に出発しました。途中、幌加温泉の表示があり、国道を左に曲がると、そこは上り坂でした。汗だくだくでたどりつくと、Kさんたちはもう露天です。ちなみに、ここは内湯も混浴なので、女性の方はタオルをお忘れなく。渓流のせせらぎを聞きながら、しばし、浮き世を忘れました。Kさんが、宿の方に用があるというので、先にあがり、しばらくして、Fさんも、露天からでて椅子に座りました。ほどなく、ごつんという音が。みると、Fさんが倒れています。ぴくぴくしています。10秒ほどして意識がもどりました。頭から地面(コンクリート)につっこんだらしいのですが、記憶がないそうです。目の前がまっきいろになって、気がついたら、倒れていたとのこと。日常から解き放たれて、遊びすぎ、頭がついていけなかったのかもしれません。

夜ぞら
 森の熊さんにも会わず、YHに帰ってくると、そこには、夢舎にいた、ろくさんがいるではないですか。仕事でこれから帯広に住むそうなのですが、その前に遊びに来たそうです。
 幌加温泉には、夕食後にも車で連れていってもらいました。露天に直行すると、満天の星空。山に囲まれているわりには視界がひろく、まあるく、プラネタリウムのように見ることができます。首が痛くなるので、湯船の浅いところであおむけになり、流れ星をさがしていました。ときがゆるやかにすぎていきます。

ON THE BOAT
 翌日、もう帰る日だというのに、幌鹿峠のダウンヒルツアーに参加しました。ペアレントのSさんは、元チャリダー(旅人の隠語で自転車で旅行する人のこと)で、幌鹿峠を越えたことがあるそうです。今日もひとりのチャリダーがペダルをこいでいます。峠を一気に下り、然別湖畔のキャンプ場でちょっと休憩。ここで、ろくさんがキャンプに来ていた女性から声をかけられました。ろくさんは、鹿追(しかおい)に7年くらい住んでいたのですから知り合いに会ってもおかしくありません。ここからは、多少のアップダウンのある細い道を走って、対岸の温泉街にでます。さらに湖をまわり、徒歩で神秘の湖、東雲湖(しののめこ)にいく予定だったのですが、先ほどのキャンプ場の女性が現れ、いっしょにボートに乗ってくれないかといいます。彼女たちは、帯広の保育園の保母さんたちと、その児童の家族で、夏のキャンプに来ているそうです。対岸までボートを漕ぎ、そこから徒歩で東雲湖にいくとのこと。小学生だけではボートに乗れなくて困っているというので、合流することになりました。二組に分かれてじゃんけんをしてペアを決めると、わたしは保母さんといっしょになりました。
 ボートは男の腕のみせどころ。つい、はりきってしまいます。彼女はみゆき先生で、23歳。元気で感じのいい女の子でした。もうひとりの保母さんは、かわいらしいおとなしい感じの子で、みゆき先生は、自分もああだったらなぁとあこがれをもっているようです。でも、人それぞれ、魅力があるものですよ。途中で「漕いでみる?」ときくと、やるというので、交代しました。まあ、なかなかうまく漕げるもんではありませんね。対岸の船着き場ではみんなが待っていてくれました。ここから、徒歩15分で東雲湖です。ナキウサギの生息地のある静かなかわいい湖でした。
 帰りは、強い横風を受けてみゆき先生が漕ぐボートは、どんどん流されていきます。流れていくのも、ふたりなら、また、楽し。沖縄からハガキを出す約束などして、ボートは岸につきました。
 そして、想い出を胸に、わたしの休みもおわりました。
                         

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