ローカル駅セクション
*エンドウ製動力が・・・
別記事「経年変化、不具合の記録」において、
23項に初の写真付きで登場したLM328iのキハ35の劣化ダイカスト。。。
この事実は我々にとってちょっとした事件でした。
HOゲージの老舗模型店の製品動力の無残な姿。。。
エンドウ製の動力は、フライホイール等を使用すること無く簡素な構造なのに、
N専業メーカーには無い、見るからに重厚な走りを確実に得られる、
この我々の常識が、経年変化という形で打ち崩されてしまったからです。
*エンドウ製のキハ30系とは
我々の世代では、キハ30系といえば・・・1980年初頭(?)のエンドウ発売製品が定番でした。
プレス抜きで行儀良く並ぶ窓と、焼付けによる塗装は非常に綺麗(見事!)で、
金属製スケールモデルとしての魅力は、かなりのものを感じていました。
動力はHOを収縮したような、小さいながらも迫力の走り。
当時同社の0系を購入し、動力の走りの良さは十分承知していました。
しかし、「精密」を求める当時の自分にとって、プレスのみの車体ディテールはあまりにも貧弱で、
プラよりも高額なこの製品は、自分の求める物とは別世界と位置付けしていました。
20年の時が経ち、モデモがプラで製品化したキハ30標準色で満足していた頃、
LM328iがエンドウ製キハ30系の魅力の虜となり・・・自分も影響を受け、その魅力を知る事になります。
2年前、LM328iがネットオークションで見つけ、手に入れることができた・・・
我が鉄道初の・・・エンドウ製の血筋を受け継ぐTOMIX真鍮製キハ35首都圏色T車。
接合ラインが前面に残っているとは言え、見た目はまさにキハ30系の顔!スバラシイ!
この車輌は最近、本サイトの表紙を飾っています。
昨年の中頃、中古模型ショップで、これまたLM328iが、
エンドウ末期のプラケースに入っているキハ35900番台首都圏色を見つけ、連絡をくれました。
「900番台首都圏色・・・しかもコリャ新古品だ!」
その言葉を聞けば当然。。。
こうして2輌の増備を果たした当鉄道、2005年12月には遂に自分自身がご対面をしました。
キハ35900番台ステンレス、M車とT車でした。
・とても状態の良い、黄色と青のツートンの元箱(紙製)付き。
・ただし動力は不動。
・900番台はエッチングによるコルゲートと窓抜きの表現が素晴らしく、
車体には汚れと染みが目立ちましたが、
無塗装車体の表面に付く汚れや染みは、まるで実機が汚れているよう!
翌日からの生活のことも考えず、即購入です。
たとえ不動でも、この製品の動力構造は簡素なのだから・・・・
*劣化ダイカスト製品との遭遇
昨年からの多忙で、なかなか手の付けられなかった900番台の動力調整を、
新年早々する事にしました。
・・・といっても簡素な構造の動力は、分解・清掃ですぐに重厚な走りが復活できると思い込んでいました。
ところが!分解して現れたのは、LM328iが「経年変化の記録」に紹介しているのと、
全く同じ状態の劣化ダイカスト!!で構成される、無残な動力だったのです。
同じ部品番号の同じ形のダイカストがモーターやウォームを挟み込んで構成される動力は、
片側ダイカストは真中付近が外側にふくらみ、「く」の字型に変形している、
しかも変形しているダイカストの方が正常なダイカストより寸法が長い、
分解と同時に変形側のダイカストの、台車を保持する爪が欠落、
という状態で、愕然としました。
恐らく「く」の字型ダイカストは経年変化によって膨張し、内部に「巣」が発生しているのでは?
と想像します。
ただ・・・今回私が購入した物は、ダイカスト全体にヒビは無く、
「経年変化の記録」のLM328iの動力よりも若干、状態の良さを確認しました。
前オーナーに大切にされていたと思われるこの製品。。。必ず修理してやろうと決心しました!
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左:分解の図。奥のダイカストと見比べて手前ダイカストがくの字型に曲がっている。
実際は写真で見る以上に酷い。
右側の台車を保持する爪は分解時に折れてしまった。
この後、後述のように手前ダイカストはさらに真中から折れてしまう・・・。
右:刻印される部品番号は同じ。
*動力修理の決意
LM328iのように、エンドウ製動力予備品の無い当鉄道では、動力は修理するしかありません。
1)台車を保持する爪を補修
・折れてしまった爪を瞬間接着剤で所定の位置に接着。
・爪の先端から0.5mmの穴をダイカスト本体まで貫通させ、同寸の真鍮線を差し込みました。
ダイカストの折れた爪の位置に0.6mmの穴を開け、同寸の真鍮線を挿し、
はんだを盛って整形しようとしたのですが・・・はんだごてが見つからず、今回は応急処置です。
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瞬間接着剤で爪を貼り付け、集電と補強の為に真鍮線を通そうと試みたが
0.4mmの穴を開けると・・・表面が崩れてしまった。
上にぼやけて見えるのはピンバイスに装着した0.4mmのドリルの刃。
刺さった真鍮線の左側にぼやけて見えるのは折れてしまったドリルの刃先!
爪の表面が崩れたのは、加工の問題もあるのか!?
この状態で試走をしてみたところ、どんなスピードに於いても車体の横揺れはひどく、
線路がカーブから直線に変わる時に集電不良を起こします。
当初、爪の修理を瞬間接着剤でした為の集電不良と思いましたが、
それだけではなく「く」の字型に変形しているダイカストが台車がはまる部分でも変形している為、
台車が首を振るとダイカストと台車が離れてしまう・・・片足走行の状態が想像できたのです。
2)変形しているダイカストの修理
「く」の字変形を元(ストレート)に戻そうと考えました。
平らな卓上に置きダイカストを置き、親指の圧力をじわりじわりとかけていったのです。
すると・・・・モーターの納まる肉薄の部分から「ボキッ!!」っと鈍い音。。。
劣化の激しいダイカストは柔軟性も無く、少しの圧力で真半分になってしまったのでした!
仕方が無いので・・・折れたダイカスト表面を支点にして、真直ぐになるように瞬間接着剤で接着しました。
ダイカストの内側には、表面を無理に真直ぐに戻して接着した為、一筋の溝が出来ました。
ここにも本来、はんだを流し込みたかったのですが・・・
はんだこてが見つからなかったので、結局瞬間接着剤を流し込んで補強としました。
そして、集電する必要があるので、0.5mmの真鍮線のブリッジを掛けています。
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左:手前側、折れてしまったダイカストを真直ぐになるように瞬間接着剤で接着。
外側に湾曲した物を真直ぐにした為、誇大表現するとWのような形になっています。。。
今回は瞬間接着剤に頼ったので、集電する為、0.5mmの真鍮線でブリッジを掛けました。
右:ブリッジがショートするのを防止するための即席絶縁紙。
3)組み付け
正常なダイカストと比べ、酸化による「巣」が発生したと思われる、長い「く」の字型ダイカスト。
真直ぐに修整したところ・・・さらに長くなりました。
卓上に2本並べて垂直に立てると、0.5mm強の長さの違いが発生します。
このままではネジ穴の位置が合わず、床板プラパーツの窪みにダイカストが入ってくれません。
そこで・・・
・真直ぐに修整したダイカスト(長いほう)の両サイドのネジ穴を、
丸やすりを使って車体中央寄りに広げました。
・同時にプラの床板のダイカストがはまる窪みもカッターと彫刻刀で先端に向かって広げ、
動力ダイカストがはまり込むようにしています。
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卓上に垂直に立てるとこんなにもの長さの差が・・・
ネジ穴を揃えたとしても、モーターシャフトとウォームギアを支える黒い樹脂パーツは、
若干斜めに装着される事になる。。。
*結果と今後
今回の修理の結果は・・・
・走行音は非常に静かで低速も効く、まさに「エンドウ製らしさ」までは回復しました。
しかし・・・
・超低速連続運転時、線路のわずかな段差で集電不良を起こしてしまいます。
(特に・・・曲線から直線への変化で台車が首を振る際に発生しやすい)
・横揺れがまだ微妙に残ります。
この不具合はエンドウらしい動力の魅力を一気に奪ってしまうと同時に、
ダイカストの台車付近がやっぱり経年変化による歪みを発生させているのでは?と想像したのです。
滑らかな超スロー運転を確保するのであれば
はんだを盛って整形し、台車の保持部の歪をを改善しようかと考えます。
それにしても、LM328iが「経年変化の記録」23項に記載した写真と全く同じ経年変化が、
同じ車両で発生するとは・・・
保管時における直射日光、温度差、湿度などの問題と共に、
・元々長さの微妙に異なる二つの動力ダイカストが無理に組みつけられた状態で、
長いほうにくの字に曲げる力がはたらき、劣化を促進させたのか。
・ダイカストの品質不良が特定のロットで発生し、
その部品がLM328iの所有するキハ35と共に片側のみ使用されたのか。
・・・等と想像をします。
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手前ピンボケがM車。
金属製の・・いや、HOの走りをNの世界に問うたスケールモデル。
これからも劣化は進行するのだろうが、末永くエンドウらしさの走りを楽しみたい・・・
今回の事実は、所有するエンドウ製動力車全てに対する不安を覚えさせました。
現在のNのメーカーは、集電性の良い滑らかな走りを追求しています。
対して・・・かつてのエンドウ製は、重厚な走り。
この走りがとても気に入っている自分は、この重要な走りの「骨董品」を、
経年劣化で台無しにしたくない。
レジン樹脂のように、空気との接触が酸化による劣化を促進してしまうのであれば、
全てのエンドウ製動力のダイカストの集電部分のみをマスキングし
内外を全塗装してダイカスト自体の劣化を押さえたくなるような・・・
そんな事件ではありました。