このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
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その審査最中、ちょっと急な用事が入ったので会場を後にした。午後ともなれば、翌日の乳牛の品評会に備えて県内各地から出品する酪農家が集まる。2t車や乗り合わせての搬入など、牛を運ぶ農家の車はバリエーションに富んでいる。
約束をした場所へと向かう道のあちこちで、これら牛を積んだトラックとすれ違いになる。
翌早朝。
乳牛の待機場ではもう審査の準備が始まっていた。
牛の体を水で洗い、吹き上げ、ドライヤーやグリースで毛並を整えていく。
みるみる内に牛の体が輝いていった。
乳牛の待機場があわただしくなる一方で、和牛の側も目覚めていく。
会場となった児湯家畜市場には場内に市場食堂が併設してあり、そこで暖かい朝食を摂る者、カップラーメンをすする者・・・と様々だが、めいめいが腹ごしらえをしながら、牛の汚れた体をふきあげ、黒光りした毛並みに整えていくのだ。汚れているといっても一晩だけのわずかな時間。素人の目にはほとんど汚れていない様に見えるのだが、たくさんの人に囲まれながら、牛が磨かれていくのである。
そうしていると、種馬の搬入が始まった。
馬の搬入の瞬間、会場に緊張が走る。馬はデリケートな動物。ちょっとした事で驚いて馬がパニックに陥ってしまえば、人に危害を加える・・・という事もあるのだ。そのため、検量を終えた馬が通る通路には馬の通行にあわせて人の通行を規制するタイガーロープが張られる。
そうして、次から次へと巨躯が会場を闊歩していくのである。
いよいよ、本審査が始まった様だ。
前日は全体的な牛の優劣を決定したのであるが、本日はそれをより詳しく、個体同士を比較しながらより上位の牛を決めていくのである。
和牛は月齢や年齢などによって第1類から第3類の3区分に分けられている。このことについては、
過去
に紹介させていただいた。このような区分をする理由というのは、現世代、次世代に渡っての改良を見るためである。
待機場では次の審査区分の出番を待つ牛の手入れが佳境に入っていた。入場の時となると、皆で囲んで1本締めで牛を送り出す。この審査で全てが決まる。
地域の威信もあるが、出品者にとっては自らの飼養管理技術を測られることになる。力が入らない訳がない。 審査会場を半分に仕切って、和牛、乳牛(ホルスタイン)の審査が行われる。
審査はそれぞれの畜種に設けられた審査基準に則って行われ、全国和牛登録協会、日本ホルスタイン登録協会等から派遣された審査員によって厳正な審査が下される。
和牛は牛を制止させた状態で体の各位を比較し、より“和牛らしい”体型、月齢に見合った体型を持つ牛を選び出す。横一列に並べられた牛を審査員が1頭1頭審査し、個体ごとの美点欠点をチェック。より多くの美点を持った牛を選び出し、さらにその牛たちから上位の牛を決定していく。審査区分については過去の県共進会で紹介した事もあるが、第1類:生後12〜17ヶ月、第2類:生後17〜22ヶ月と生後月齢で区別。これに第3類として母牛と娘牛のセットによる出品がなされ、審査結果が各地域の使用管理技術と改良速度についての評価に繋がる。
審査には非常に長い時間を要し、また会場は緊張感で張りつめているため、文字どおり時が止まったようになる。
今大会では第1類と第3類を児湯地域から出品された牛が優等賞の首席を獲得し、見事、団体優勝を飾った。第2類については西臼杵地区からの出品牛が優等首席に選ばれ、前回大会の団体優勝に続いて同地域の連帯の強さを感じさせた。
乳牛。こちらについてはあまり詳しくはないのだが、和牛と同様、発育ステージ毎に細かく分類がなされている。生後12〜16ヶ月の牛を対象とした第1類からはじまり、5才以上の牛を対象とした第6類まで和牛以上に細分化されている。審査方法は過去の県共レポートも参照願いたいが、審査員を中心として各区分の出品者は牛をひきながら円を描いていく。静止した姿だけでなく、保養から肢の足腰の強さをチェックする。また、当然ながら乳牛に求められるのは産乳能力であるので乳器の外貌についても厳しいチェックが入る。
各類毎にチャンピオンが決定されるが、グランドチャンピオンには第6類から選ばれた。あわせてリザーブチャンピオンとして第3類の育成牛(未経産、今後の経営の柱となる後継牛こと)が選ばれたが、共に西諸県地区の同じ生産者の管理する牛である。

今大会で象徴的であったのは、本県畜産の次世代の担い手の躍進であろうか。
乳牛の部でも県下農業高校からの出品が積極的になされていた。出品された牛を真剣に見つめる学生の姿が会場のあちこちで見られたところであるが、特に和牛の部において高鍋農業高校の出品牛が第1類での優等首席と今大会のグランドチャンプを選出されたことが特筆される。
この受賞によって、高鍋農業高校は児湯地区の団体優勝に大きく貢献したのだが、これまで農業高校が手がける牛というのはどうしても学生が管理するという事で責任感の強さや技術力から格下のイメージがあった。
だが、昨今は学生の熱意の向上がめざましい。もちろん、指導者の力量による所もあるのだが、この高鍋農業高校の様に(子牛セリ市に先立って開催される)地区の品評会において優等の常連となるなど、1歩1歩の歩幅の大きさには目を見張るものがある。
県下の農業高校の飼養する牛が県共進会の頂点に立つ事は54回を数える長い大会の歴史の中でも初の快挙。画像は牛の引き手をつとめた同校の新藤隆宏君。緊張した面持ちで生徒代表としてグランドチャンプの栄誉を受けた。
この受賞は宮崎県畜産にとって将来的に明るい話題であることは言うまでもない。畜産という現場は3Kの最たる物。生き物を扱うので休日など当然ながら無い。品評会の優劣については牛が元来持っている素質も重要だが、体型などの良い部分、悪い部分を調教によって伸ばしたり改善したり・・・という日常的な管理が問われる。高鍋農業高校の学生達は自分たちに管理を任せられた牛の世話を責任持って全うし、ついには栄えあるグランドチャンプを獲得した。
畜産分野では後継者の確保という点において他の作物に比べて恵まれているとはいえ、飼養頭数が増えている一方で農家数の減少に歯止めがかからない。だが、現在、地元で頭角を現している次世代の担い手に加えて、その後には彼ら彼女ら高鍋農業高校の学生達のような後輩が産地を盛り立てていくのではなかろうか。
表彰式ではこのような事を考えていた。
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