このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
tomiyo
矢野鋼醸造場 宮崎県児湯郡新富町
宮崎県児湯郡は海岸線から平野、そして台地へとつながり、早期水稲や特産のたばこや茶の栽培が行われている。西から北にかけて九州山地から尾鈴山を望み、東を向けば海からの風が髪をかき分ける。空には航空自衛隊新田原基地所属の戦闘機の銀翼があって、轟音と共に輝く・・・。
宮崎を象徴するような風景が広がっている
と行っても過言ではない。
蔵はそのような児湯郡の南縁。
新富町
という上記の航空自衛隊の飛行場をかかえる町にある。町を南北に突っ切る国道10号バイパスから、それより東側にある日向新富駅にかけてが町の中心部。
この「
富代
」を造っていた“
矢野鋼酒造場
”はそんな新富の町の中、旧10号線沿いにあった。5〜6年前にやむを得ない理由で造りを辞められたのだった。現在は地元相手に酒屋を営んでおられる。
5月の終わり、
けんじさん
からの電話で“新富町にもいくつか焼酎蔵があった”ということを聞き、同町の酒屋を探し回った。三納代地区の酒屋で蔵の所在を聞き、急ぎかつて蔵であった酒屋の戸を開けたのだった。財布の中には運悪く数百円しか入っていなかったのに・・・だ。
店の中を見渡すと「霧島」や「日向木挽」といった大手ブランドの銘柄が並んでる。「あーあ・・・。」とため息をつきそうになった瞬間、棚に大きく「
麦
」と書いてある黄色のラベルが目に入ってきた。それが画像右側の麦焼酎「富代」であり、その隣には地味で伝統的な絵柄の芋焼酎「富代」が並んでいた。町花にもなり、地元新富町のシンボルとなっている座論梅をイメージしてか“梅の花”、そして“うちでの小槌”というめでたい図案だ。結局、資金不足でその日は買えず、「明日来ます。」と約束をしたのだった。
次の日、しっかりと2本の瓶を握りしめながら、女将さんから色々と興味深い話を聞いた。
実は芋製の「富代」は芋100%の焼酎ではない。かつてはまごうこと無き芋100%の芋焼酎であった。しかし焼酎ブームで飲み易い焼酎がはやった際、飲み口を軽くする目的で麦焼酎とのブレンドを行ったそうだ。その後、「やはり芋焼酎を。」ということから、芋100%の「
日向しんとみ
」という銘柄が生まれたという。
また、基地の町という土地柄。当然ながら自衛官の中にも愛飲家は少なくなかったらしい。隊の飲み会や、時には新田原から遠くに転属していった隊員からも「忘れられないから。」と注文の電話が入ったそうだ。関東の方へ出張の手土産に持っていき、かつて新田原に配属があった人だろう。「久しぶりに飲む機会があって懐かしく思い、どうされているか気になったから・・・。」と電話をかけてきてくれる人もいたとか。
残っていたのはこの2本だけであった。「あなたみたいな人に買ってもらって・・・。」ということを女将さんは言ってくれたが、デッドストックという好奇心だけで購入してしまったところも少しあり、どこか複雑だった。しかし、買えて良かったという充実感があったのも確かである。
店から出ると薄暗くなっていた。空は雲で覆われていたが、そんな中「日向しんとみ」の看板は煌々と灯っていた。・・・蔵がまだ焼酎を造っていた頃も同じように光っていたのだろう。
(03.11.19)
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