このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





公共交通で宮島に行ってみたら大雨だった!





■公共交通での家族旅行

 今年平成23(2011)年の夏休み、筆者宅においては久々に、家族旅行で公共交通利用での遠出を企てた。行先は広島を主に据え、大和ミュージアムや広島平和記念資料館で勉強した。往路には瀬戸大橋を渡り高松市内を観光した。もっとも、家族旅行全体については、楽しい出来事が多かったとはいえ交通論の論点を構成する要素が少なく、敢えて記述することはないと考えている。

瀬戸大橋
瀬戸大橋全景


 一点記述しておきたいのは最終日の宮島観光である。それまで好天に恵まれていたのが一転、土砂降りの荒天にさらされ、おおいに難渋した。そのなかで、観光地での交通機関における課題を見出したつもりで、この一文を認めてみた。





■大雨の宮島

 今夏はお盆にかかるインド出張があり、お盆明け以降の夏休みとなったから、宿泊予約は簡単だろうと考えていたが、甘かった。広島では三泊を予定していたところ、最終日はどのホテルも満室という「特異日」の状況を呈していた(後に Mr.Chirdrenのコンサートがあったからだと聞いた)。

 やむなくホテルを移動することにして、三泊目は宮島口に確保した。広島平和記念資料館での勉強後、広島電鉄に乗り宮島口まで赴く。宿泊先は、この夏開業したばかりという、バックパッカー向けと思われる簡素な宿であった。

広島電鉄
広島電鉄宮島線に乗車


 翌朝は早い時刻から雨、出発する 9時前には土砂降りになっていた。もともと重い荷物を預ける予定だったところ、筆者は靴をサンダルに履き替えた。どのみち濡れるならば、相応の格好にした方がよいと考えた次第。ほぼ同時刻に出発しようという若者グループは、クルマ移動だというのに、宮島観光は諦めると言っていた。

 土砂降りの雨とはいえ、風が強いわけではなく、宮島連絡船は定時に運行されていた。乗船する利用者は少なく、船内は閑散としていた。この荒天のなか敢えて観光するというのは、奇特な部類なのかもしれない。

厳島神社
宮島連絡船から雨に煙る厳島神社を遠望


 当初の予定では、厳島神社を参拝してから、宮島水族館に行くつもりであった。ところが、雨があまりにも激しく、徒歩で参拝する気力が湧かない。連絡船利用者の相当部分が雨中敢然と進んでいく姿に感心しつつも、妻子を考えれば、より心地よい方策を採らねばなるまい。

 そこで行程の前後を入れ替え、まず宮島水族館に行き、天候の好転を待つことにした。いうまでもなく、この雨では宮島水族館へも徒歩では行けない。タクシー乗場に並び順番を待つ。

 ……並んだことを後悔するまでに時間はかからなかった。タクシー乗場には屋根がない。しかも雨が強く、傘をさしていても役に立たないほどの降り方で、二の腕から下はまさにずぶ濡れとなった。携帯電話が一時使用不能におちいる(※ 以前の記事 のような水没破壊には至らなかった)ほど、全身が濡れに濡れた。のち50mm/時ほどの降雨強度があったと聞く。

タクシー
宮島連絡船に接続するタクシー乗場


 ただでさえ不快な雨中行列だというのに、タクシーの回転が悪く、待ち時間が延引する。タクシーはどうやら2〜3台で回している様子で、時間が経っても動きが乏しい。むしろ、行列を諦め、離脱する人が相次ぐことで、順番が繰り上がっていく。

 ここで筆者も判断に迷った。行列を続けるか、それとも離脱するか。周囲の声から推測すれば、10時15分発の水族館行バスがあるらしいのだ。筆者の結論は、行列の継続だった。バス待ちの行列は既に長い。小型バスでは乗れるとは限らない。雨中行列は辛いが、ここは初志貫徹するに限る。

「ここまで濡れたら、もう並びとおすしかないよね」

 筆者の直後に繰り上がった家族では、心配する妻をなだめ、雨中行列役の夫がこう言い放っていた。筆者も同意である。

 行列を始めてから30分以上経過した。雨はいよいよ強く、宮島水族館行のバスがやってくる。「これは判断を誤ったかなあ」と思った直後、筆者は驚き、バス乗場からは嘆声がおきた。

バス
宮島連絡船に接続する宮島水族館行バス
(※画像上部が雨でにじんでいる)


 なんと、バスといってもワゴン車なのであった。これでは輸送力が限られる。子を含めどれほど詰めても10人と乗れまい。バス待ちの行列は四分の一も解消せず、屋根付きとはいえ雨中に置き去りのまま、多くの人数がむなしく時間を費やすこととなった。

 結果的に、筆者の判断は正しかったようだ。バス出発からおよそ15分後(行列を始めてから通算で小一時間)、ようやく順番が回ってくる。妻子を乗せて宮島水族館に出発する。実際に乗ってみると、タクシーの回転が悪い理由が見えてくる。宮島島内は道路が狭く、交通規制が厳しいため、迂回ルートを採らざるをえない。対向車とすれ違うために、譲り合わなければ進めない断面も介在している。「せっかくの稼ぎ時だというのに、これでは運転手も辛いな」と筆者は感じた。

 宮島水族館で時間を過ごし、表に出たのは13時すぎ。再び驚いたことに、雨は既にやみ、雲間からは陽光が降り注ぎつつあった。野生鹿をかまいつつ、厳島神社を参拝し、昼食をとり、宮島連絡船に戻るまでの行程全てが徒歩となった。要するに、筆者らは晴天下ではもはやタクシーを必要としなかったのである。

厳島神社
厳島神社境内
(※雨はすっかりやみ雲も少なくなっている)






■論点

 いうまでもなく、筆者が荒天に難渋した、という個人的経験では交通論にはならない。このたびの宮島観光を通じて、観光行動には以下の断面があると整理できる。

  1)宮島連絡船桟橋−厳島神社−宮島水族館の間は、一般的には徒歩移動の距離。
    また、徒歩移動を通じてこそ、汀の景観、野生鹿との触れ合いなどを楽しめる。
  2)タクシーやバスは、徒歩移動困難者を支援する補助的交通機関という位置づけになる。
  3)荒天時など一般の観光客まで「徒歩移動困難」になる断面では、タクシー・バスは輸送力不足におちいる。

宮島の野生鹿
野生鹿と遊ぶ長男と娘


 世界遺産でもある大観光地・宮島において、バリアフリーの観点からタクシー・バスは必須の交通機関といえる。その一方で、30mm/時以上の荒天時にも充分対応できるほどのタクシー・バスを確保すれば、平常時には輸送力過剰となり、経営を危うくするのは確実である。

 しかしながら、荒天時(即ち非常時)に素早く回転できないタクシーは、経営面で構造的課題を負っていると指摘しなければならない。選択率が最も高まる断面において充分な輸送力を提供できないのだから、典型的な機会損失というものだ。前述した「せっかくの稼ぎ時だというのに、これでは運転手も辛いな」とは、この点を念頭に置いている。非常時に利益を得れば、当然ながら平常時の経営を助けることになるわけで、タクシー会社としてはなんとも苦しい。

 以上までのように考えれば、平常時と非常時の両立は、必ずしも経営面での重石にならないと理解できよう。非常時にもうまく回転し充分な利益を上げられる仕組を構築すれば、それは平常時にも応用可能なものになるはずだ。勿論、実際には難しい課題であろうが、二律背反で解決困難と投げ出すわけにはいかない時勢にあると、筆者は考えている。





元に戻る





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください