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長崎新幹線動き出すか





   平成19(2007)年12月17日
   平成19(2007)年12月18日
   平成19(2007)年12月19日
   新聞報道での寸言拾い読み
   平成19(2007)年12月21日

   当事者の感覚Ⅰ──JR九州田中会長
   当事者の感覚Ⅱ──JR東日本山之内会長(当時)

   コメント



■日本経済新聞平成19(2007)年12月17日付記事より


九州新幹線長崎ルート/在来線、経営分離せず/JR九州運行・2県が赤字補てん

 ……佐賀、長崎両県と九州旅客鉄道(JR九州)は十七日、JR長崎線の並行在来線区間(肥前山口−諫早)を経営分離せず、JR九州が運行を続けることで合意した。赤字が出た場合は両県が補てんする。……

 博多−長崎間を結ぶ長崎ルートの建設に伴い、政府・与党は並行在来線区間を第三セクターに経営分離することで合意していたが、沿線の佐賀県鹿島市・江北町が反対を続けていた。両市町の反対根拠がなくなり、早期建設が可能になる。

 (後略)





■西日本新聞平成19(2007)年12月18日付記事より


九州新幹線西九州ルート/在来線JR20年運行/3者合意発表、政府・与党了承へ/施設売却費14億円赤字穴埋め

 (前略)

 三者の合意案は、同区間の線路など鉄道施設を両県が所有し、列車の運行をJR九州が担当する「上下分離方式」を採用。JR九州が当初、両県に無償で譲渡するとしていた鉄道施設を十四億円で売却することにした。

 ……今回の合意案は、JR九州が肥前山口−諫早の全区間(約六十キロ)の運行を担い、保証期限を二十年とした。二十一年目以降は三者で再度協議する。

 ……運行方式は電化からディーゼルに変える。運賃は現行通りとなる見込み。

 三者は赤字額を年間約一億七千万円と試算。約一億円をJR九州が負担。残る七千万円は、鉄道施設の譲渡で両県からJRに払う十四億円で賄う。

 新幹線着工には、並行在来線の経営分離について沿線自治体の同意が必要だが、三者は「試算額以上の赤字はJR九州が負担するので、経営分離ではなく、同意も不要」と説明。(後略)





■佐賀新聞平成19(2007)年12月18日付記事より


悲願実現一気に前進

 (前略)

 今回の合意案では三年前の案と同様、肥前山口−諫早の並行在来線区間を非電化とし、 軽油を燃料とするディーゼル車両を運行することが示された。これにより、同区間はJR九州の電化の鉄道網から外れる。

 ……JR九州が約束する上下合わせて一日十本の「博多−鹿島」の特急列車も、「ゆふいんの森号」のようなディーゼル車両が用いられる。

 JR九州側は同区間を非電化としたことについて、「電化だと設備の維持管理に経費がかかる」と説明している。





■佐賀新聞・西日本新聞平成19(2007)年12月18日付記事より


JR九州石原社長一問一答

──年間の赤字は、現在の輸送量をもとにした計算であり、想定(一億七千万円)を超えるかもしれない。その場合はどうするのか。

石原 赤字を出さないように経営努力するのがわれわれの責任であり、出たらわれわれが負担するのは当然のこと。

──約束は二十年間。その後はどうなるのか。

石原 開業までに十年かかり、実質、三十年近く後の話。今からどうなるか明言できない。それはほかのローカル線と一緒で、未来永劫廃止しないとは言えない。

  ──特急はなぜ往復五本なのか。

石原 肥前鹿島で特急を乗り降りする利用者数は、(博多−)長崎の十分の一程度。それを考えると十分な本数だ。





■朝日新聞平成19(2007)年12月19日付記事より


長崎新幹線/政治に折れたJR/国鉄時代の体質露呈

 九州新幹線西九州(長崎)ルートの建設が、ようやく動き出した。JR九州が不採算路線の運行継続を受け入れて、新幹線に並行する在来線沿線の自治体が反対する根拠がなくなったためだ。株式上場を目標に掲げ「普通の企業」をめざすJRだが、政治的思惑に押し切られて新たな経営リスクを背負い込んだ。旧国鉄の「政治に弱い」側面が垣間見えた。(土屋亮)

 「これぐらいの負担ならなんとかやれるという落としどころだった」。佐賀、長崎両県との3者合意を受け入れたJRの石原進社長は記者会見でこう話した。

 ……試算を超える赤字が出れば、JRの持ち出しとなる。

 ……

 それでもJRが合意を受け入れたのは、新幹線を早く開業したいという思惑からだ。新幹線建設費の大半は国費でまかなわれ、JRがもうかる仕組みになっている。石原社長は「全体を見て決めた」と、新幹線開業のプラスと並行在来線の赤字を抱えるマイナスをてんびんにかけた判断だったことを強調した。

 ……鉄道アナリストの川島令三氏は「JR九州も、上場後はJR西日本のように株主から赤字路線廃止を迫られるかもしれない。20年運行を続けるという約束が、後の経営に影響してくるかもしれない」と指摘する。





■新聞報道での寸言拾い読み


 この間、県と鹿島市が決定的に対立したのは事実。JR九州が最後の最後で示した全線運行案にも「(鹿島市にとって)遅すぎた」との声はある。
 経営分離がなくなることで、「鹿島市への地域振興策はなくなる」と明言した古川知事。対する桑原允彦鹿島市長は「着工に同意し、振興策をとる選択肢」の可能性に言及した。最後までかみ合わなかった両者の協議を象徴した。
  以上佐賀新聞平成19(2007)年12月18日付「急転九州新幹線長崎ルート・上」より

 桑原市長はあくまでも反対姿勢を堅持。まさか「蚊帳の外」に置かれるような事態は想像もせず、十八日の市議会では「全責任は私にある。三者合意が頭越しに通り過ぎるとは思わなかった」と述べた。
 県庁に同行した議員の一人は取材に答える桑原市長の姿を見つめながら、「鹿島にとって、いばらの道がこれから始まる」と唇をかんだ。
  以上佐賀新聞平成19(2007)年12月19日付「急転九州新幹線長崎ルート・中」より

 鹿島市長らの強硬な姿勢だけが原因ではなかろう。むしろ、計画を進める県と県民の意識のずれがなかなか埋まらなかったことが説得力を弱めたのではないか。
 時間短縮効果が乏しい佐賀県はもちろん、長崎県内でもいまだに慎重派が少なくない。「新幹線で地域をこう変えるんだ」。そんな推進側の決意や情熱を県民が感じられなかったのではないか。
 新幹線建設は目的ではない。地域振興に活用されなければ意味がない。両県民の理解と協力を得るため、両県とJR九州はさらに努力すべきだ。
  以上西日本新聞平成19(2007)年12月19日付社説より

──長崎ルートができる意義をあらためて。
石原 利用者は相当増加する。それに伴い、駅ビルなどの利用につながる。二十一世紀は新幹線の時代であり、長崎ルートはわが社にとってたいへん重要だ。
  以上西日本新聞平成19(2007)年12月18日付記事より

 石原進社長に笑顔はなかった。十八日の定例会見では「今から考えても(第三セクターなどへの)並行在来線の経営分離が一番ありがたいのだが」と本音を漏らした。
  以上西日本新聞平成19(2007)年12月20日付「動き出す九州新幹線西九州ルート・下」より





■鉄道ジャーナルNo.496(平成19(2007)年12月21日発売)読者論壇より


並行在来線の経営分離問題を考える
          宮川浩一(長崎市)

 ……

 一方、JR九州にとっても、博多−長崎間を結ぶ特急<かもめ>が、今後も現状のサービスレベル(25往復/日、平均所要時間 1時間58分)に留まる事態になると利用者の増加は望めず、経営的にも問題になってくると予想される。武雄温泉−諫早間が着工できないというのは最悪の事態であり、赤字(JR九州運営の場合は年間 3億 6千万円:同社試算)が補填されることと、大規模災害時の復仇費用負担という条件が満たされれば、肥前山口−諫早間の全線をJRが運行してもよいのではないだろうか。

 財政上の理由から、JRへの赤字補填に自治体が難色を示す可能性は十分考えられるが、赤字を減らす最良の方法は鉄道利用客を増やすことであり、駅を中心としたまちづくりや、鉄道を利用した観光客誘致への動機付けにならないだろうか。

 試案だが、上下分離した上でインフラ部分を沿線自治体を中心とした三セク会社が保有し、列車の運行や車両・私設の維持管理をJRに委託し、赤字が予想される場合は全額補填という方策を、経営分離方式の一つに加えることはできないものかと思っている。





■熊本日日新聞平成20(2008)年 1月20日付記事より


わたしを語る/八分の運二分の運(28)
JR九州会長田中浩二/鉄道特性が発揮できない路線


 JRに移行しても赤字ローカル線廃止作業は続いて……これらは国鉄時代に決まっており、JR九州自身の意思で廃止した路線は一つもありません。

 ……

 その作業を終えて、今のところ当社内で廃止を考えている線区はないと思います。それにJR西日本が広島の可部線を一部廃止したのを見ても労多くして益少なしだと感じます。地域を敵に回して減らす赤字より幹線からの赤字の方が絶対額としては大きかったりするのです。

 ……

 鉄道がなくてもそれほど影響がないという面があるにしても、実勢に廃止論議になれば地域の方々の反対は相当なものです。……

 ……すべての事業には何らかの制約があるもので、会社でも行政でもその制約をかいくぐって事業を守り、軌道に乗せるのが長たる者の責任だと思います。

 一方、新幹線建設に伴う並行在来線の経営分離は別の話。経営体力が強いJR東日本ですら分離する原則を守ってます。九州のように経営母体がまだまだの会社では、ともに経営する体力はありません。

 それでも残った鹿児島線のように、それぞれの地域の都市交通としての役割を担っている限りは私たちが責任を持って守ります。ただ特急旅客が新幹線に移ってしまえば、在来線は大変厳しいものになりますね。





■JR東日本会長(当時)山之内秀一郎の講演(平成 9(1997)年12月 8日)より


鉄道の将来

 ……

 当時35%ぐらいであった鉄道のシェアは大体横ばいでいくだろうと思っていたのですが、その後数%落としていますし、このごろ気になっているのは、鉄道のことを知らない人、極端なことを言うと鉄道に乗ったことのない人が増えてきている。私たちの世代は、どこかに行こうとするとき、交通手段の選択として必ず鉄道が頭に浮かんだ世代でありますが、これからの若い人は、まずマイカーです。徹底的にマイカーを使って、だめなときに限り飛行機や鉄道を考える。しかも鉄道については、大都市交通は別にすると、多くの方々が新幹線以外のネットワークは頭の中にない。

 10年前のことですが、「北斗星」という寝台列車を走らせるときに、NHKの旅番組の女性のアナウンサーをお招きをして、食堂車でお出しする食事を試食していただいた時に、試しに聞いてみたのです。ちょうど山形ミニ新幹線を仕掛けていたときでしたので「山形に行くとしたら、あなたはどうやって行きますか」と質問すると、「えっ、山形? 困っちゃったわ。飛行機は飛んでいないし(本当は飛んでいる)、新幹線は通っていないから、バスないかしら」という返事だったので、驚きました。……だんだん鉄道のことに対して意識の薄い方が増えている。そういう方が歳をとると、マイカーに乗ること自体は全然苦にしない中高年が増えてくる。

 ……



運輸政策研究機構第2回研究報告会講演録より





■コメント

 まだまだ特段のコメントできない。このような報道がされていると紹介するにとどめる。この種の話題は外にもあるので、少々時間をかけながらまとめていきたい。面白いネタだけは積み重なっているのだが。

 それにしても、朝日の他人事のような報道には驚く。遅れ馳せのせいかもしれないが、JR九州の経営、という切り口が適切かどうかも議論の余地があるところで、先行報道と比べれば相当な事実誤認があるように思われる。





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