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近鉄の悪辣過酷〜〜内部・八王子線





近畿日本鉄道HP「お知らせ」 より


平成24年 8月24日
近畿日本鉄道株式会社

内部・八王子線に関する当社の考え方(お知らせ)

 内部・八王子線(三重県四日市市)は、年間ご利用者数がピーク時(昭和45年度)の 722万人から、平成23年度は 363万人と半減し、収支面において大変厳しい状況で、恒常的に赤字となっております。

 当社では、これまでワンマン運転化や駅員の無配置化など、様々な経営改善に努めてまいりましたが、赤字の解消には程遠く、近年も毎年 3億円弱の赤字が続いており、このままの形態で内部・八王子線を存続することは困難であるとの判断に至りました。

 当社では、内部・八王子線が沿線地域の移動手段のひとつとしてご利用いただいていることに鑑み、内部・八王子線の輸送機能を可能な限り今後も維持してまいりたいと考えております。

 このような現状を踏まえ、この路線の赤字発生を最小限にして持続可能な仕組みとするために、輸送形態の抜本的な見直しが必要と考え、その具体策として、現在の軌道をバス専用道として再整備し、「バス高速輸送システム(BRT)」として運行することを四日市市様にご提案しています。当社では、周辺道路と切り離してバス輸送を行うことにより、現在の内部・八王子線が有する輸送力を確保できるものと考えております。

 なお、この「バス高速輸送システム(BRT)」を導入し、路線の赤字を縮減するためには、地方交通の維持・再生を目的とした公的補助をお願いしたいと考えております。

 当社では、四日市市様に対して、当社の提案をご検討いただき、来年夏までに今後の方針を固めていただくよう、お願いしております。

   以上





■内部・八王子線の断面交通量

 今をさかのぼること実に12年前、 北勢線廃止問題 (結果的に三岐鉄道への経営移管)が顕在化した際にも、筆者は「近鉄は胡散臭い会社だ」と感じたものである。このたびの「お知らせ」の衝撃は12年前をさらに上回る。「近鉄は酷い会社だ」と断じざるをえない。あんまりである。

 客観的な状況として、内部・八王子線の輸送量は相応以上にある。最盛期から半減したとはいえ、起点四日市口の断面交通量は約10,000名弱にのぼる。これは「お知らせ」だけでなく、三重県統計書からも追うことができる、確度の高い数字である。

 この断面交通量は大きい。鉄道での経営再建を選択した鉄道路線の起点側断面交通量のうち、北勢線で 5,000名弱、和歌山電鐵(前南海電鉄)貴志川線で 6,000名弱という事実と比較すれば、内部・八王子線の断面交通量は鉄道存続の社会的意義が充分あると推測しうる水準にあるはずだ。

内部・八王子線
内部・八王子線(とも様提供:近鉄四日市にて平成17(2005)年頃撮影)


 勿論、断面交通量10,000名程度でもバス転換が不可能とまではいえない。しかしながら、この断面交通量を単純にバス転換すると、バスが原因となって交通渋滞が生じる(ないしより悪化する)可能性が高い。運賃水準を据え置いたところで、社会的損失発生は確実であり、しかも断面交通量からすれば相当巨大な水準に達するはずである。

 以上より、沿線住民及び自治体にとって内部・八王子線の鉄道営業廃止は受容しがたい提案である。内部・八王子線の鉄道営業廃止は社会的・物理的影響がかなり大きいと想定され、回避する動機づけが働く。需給調整規制の撤廃により、鉄道を含む交通サービスの営業廃止を阻む術は失われている。沿線住民及び自治体は内部・八王子線をなにがなんでも支えざるをえないのである。



■BRTにするといっても……

 前述の観点において、内部・八王子線をBRT化するという線までは、まずまず妥当な提案といえよう。ところが近鉄は、BRT化に必要な25〜30億円(車両費含む)の負担を公的補助に求める、と臆面もない主張をしているという。この報道に接した時には、心底驚いた。論外と評するのも愚か、厚顔無恥も甚だしい。

 内部・八王子線の赤字構造といっても、 762mm軌間という極めつけの超特殊規格を採り続けている事実に依る部分が少なくないはずだ。内部・八王子線が、その前身の三重電気鉄道から近畿日本鉄道に合併されたのは昭和40(1965)年。湯の山線と同様1435mm軌間に改軌する機会がなかったとはいえない。かくて内部・八王子線は更新投資が事実上不可能な路線に成り下がってしまった。

 要するに、内部・八王子線BRT化に必要とされる25〜30億円は、無為無策のツケ回しに等しい。そんな金を公的補助に求めるとは、呆れ果てた破廉恥と断じなければなるまい。

 これは永年経営不振に苦しみ、貧するがゆえに貪におちいったローカル鉄道のロジックではないか。曲がりなりにも大手の一角を占める近畿日本鉄道が為すべき提案ではない。内部・八王子線にはまとまった交通量があり、社会的使命があるのだから、尚更だ。さらにいえば、内部・八王子線が鉄道営業廃止になっては切実に困る、沿線住民及び自治体の弱みにつけこんでいる点でも悪質である。

 内部・八王子線の鉄道営業を廃止し、先例の少ないBRT化するならば、近畿日本鉄道は自らの責任において実施しなければならない。25〜30億円は決して小さな金額ではないが、近畿日本鉄道全体ではじゅうぶん拠出しうる投資ではないか。なにより、この程度の金額(と敢えて記す)を外部から助成されなければ動けないとは、当事者意識が低すぎる。JR東日本とはまさに雲泥の隔たりがある。

※JR東日本が三陸地方で実施しつつあるBRT化は、評価が分かれるところだが、その企画力・実行力については特筆に値する。

内部・八王子線
内部・八王子線(とも様提供:日永にて平成17(2005)年頃撮影)


 どうせやる気がないならば、小賢しい中途半端な提案などせず、あとのことは全て地元に委ね鉄道営業などスパッと切り捨ててしまえばよいのだ。かえってその方が、ものごとは円滑に進むはずだ。近畿日本鉄道の姿勢は、浅薄な小智をひけらかすが如き、ええ格好しいの見栄坊に等しく、沿線住民及び自治体にとっては迷惑千万である。

 近畿日本鉄道には、交通事業を担う実力も胆力もない。冷徹に営業廃止を切り出すほどの度胸もない。自前でBRT化を進めるほどの意気地もない。一ローカル線で社会実験を行うほどの先進性もない。かといって、改軌し他線と規格を揃えるほどの合理性すら発揮しない。敷かれたレールの上で列車を動かすことしかできない、ないない尽くしの会社である。

 筆者において、近畿日本鉄道は単なる大手私鉄にすぎず、一流の会社とは呼べないことが確定してしまった。少なくとも、企画力・実行力が乏しい会社であることは確実である。先端ぶった提案で虚飾しつつ悪辣過酷な手法で出資を求める会社に、交通サービスを依存せざるをえない住民と自治体はまこと不幸であると、深く深く同情する。



■追補

 筆者は以前、道路を設置する工事費用を試算したことがある。勿論、現地の条件により大きな変動がありうるとはいえ、ザクッと 1億円/km程度のコストを要したという記憶がある。

 内部・八王子線の延長は 7.0km。即ち、軌道を単純に道路化する工事ならば、附帯作業含めてせいぜい10億円を超えるかどうか、と考えるのが妥当な線だろう。近畿日本鉄道の呈示する25〜30億円という数字とは、乖離が大きすぎる。車両費を含めてもなお、相当な乖離がある。

 ここで、内部・八王子線列車の運転室直後から撮影した動画(You Tubeに掲載)から、重要な情報を読み取ることができる。天白川(および鹿化川)に架かる橋梁は、八王子線(西日野−伊勢八王子間)廃止の原因となった水害を契機として河川改修が行われたのであろう、PC下路桁に架け替えられている。そして、天白川・鹿化川橋梁の断面はかなり小さく、特殊軌道 762mm規格の車両は走行できても、1435・1067mm規格の車両はもとより、バスほか大型自動車なども通過できそうにない。

 よって、近畿日本鉄道が主張する、内部・八王子線BRT化に要する25〜30億円の費用には、天白川・鹿化川橋梁再架替費用が含まれていると考えるべきであろう。これを含めれば、数字の辻褄はおよそ合う。

 河川改修の際、近畿日本鉄道はなにをやっていたのか。1435・1067mm規格の車両が走行できる断面を構築しなかった狭量は理解しがたい。勿論、断面や設計荷重が異なれば追加費用が生じるものの、当時の近畿日本鉄道の体力からして、負担できない金額だったとは想定しにくい。

 即ち、当時の近畿日本鉄道は、内部・八王子線の改軌など念頭になく、特殊軌道規格のまま維持していく、との方針を固めていたことになる。そして、約30年を経た結果が現状だ。これを「先見の明がない」といわずして、なんと評すればよいのか。

 同じ記述の繰り返しで恐縮だが、敢えて記さざるをえない。「先見の明がない」ばかりか、自社の至らなさゆえに生じる費用を外部に求める悪辣過酷な会社に、交通サービスを依存せざるをえない住民と自治体はまこと不幸であると、深く深く同情する。





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