このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

「のぞみ」シフトを検証する(評価編Ⅱ)

 

 

■「のぞみ」は利用者にどう受け容れられたか?

 「のぞみ」は確かに速い。しかし、運行本数が限られるし、全席指定車でキャパシティに自由度がなく、そのうえ付加料金が必要である。その一方、付加料金不要で自由席車付の「ひかり」運行枠は減じられている。新幹線全体を通して見た場合、「のぞみ」運行により効用が高まったのか、それともかえって効用が下がったのか、にわかには判じがたい。

 この点について評価するには、理論を四の五のするよりもむしろ、実際の利用者の挙動を分析した方が早道であろう。というわけで、以下に東海道新幹線及び山陽新幹線の輸送密度の推移を示す(参考文献(01)〜(05)より作図)。

 ここ10年の値を見ると、東海道新幹線が21万人/km日前後、山陽新幹線が 7万人/km日前後と、輸送密度実数には3倍ほどの開きがある。しかしながら、その振れ幅には極めて強い相関性があることが見てとれる。両新幹線の輸送密度に相関性があることの背景には、両新幹線を直通する利用者動向の影響を受けていることの反映と考えられる。即ち、このグラフから、1)のように分析できる。

   1)山陽新幹線の輸送密度変動は、主に東海道新幹線から直通してくる利用者の影響を受けている。

 山陽新幹線の輸送密度は明確に減少傾向をたどっている。阪神大震災による不通の影響を受けた平成6・7(1994・1995)年度の値を除外すると、「のぞみ」山陽区間延伸以降の輸送密度は、ほぼ一貫して減少を続けている。このことと1)より、2)のように分析できる。

   2)東海道・山陽新幹線を直通する長距離利用者(※)には、「のぞみ」は受け容れられていない。
     ※:東京−岡山・広島間、名古屋−博多間などの利用者が主と想定される。

 分析1)より、東海道新幹線の輸送密度から山陽新幹線の輸送密度を減じた値が、東海道区間内相互の利用者の動きを表すものと考えられる(なおこれは仮定であり数学的統計的根拠はないので注意されたい)。ここで、以下に東海道新幹線の輸送密度から山陽新幹線の輸送密度を減じた値の推移を示す。

 これを見ると、東海道区間内相互の輸送密度は、伸び渋る年度もいくつかあるものの、全体としては増進基調にあることが見てとれる。その一方で、 参考文献(09) に掲載されたグラフを見ると、東京−大阪間の東海道新幹線利用者数は実数・率とも明確な減少傾向にあり、平成11(1999)年度を底にようやく下げ止まったことがわかる。

 これらのことから、3)4)のように分析できる。

   3)東海道区間内相互の中距離利用者(*)は、「のぞみ」を受け容れ、需要が増大している。
     *:東京−名古屋・京都間、名古屋−新大阪間の利用者が主と想定される。

   4)東京−新大阪間の利用者は、「のぞみ」を受け容れていない。
    ただし近年の下げ止まりは、従来のヘビーユーザー以外の新規利用者を開拓した可能性がある。

 なお、参考のために航空各路線の輸送密度(即ち利用者数)の推移についてもコメントしておこう。

 各路線とも需要が伸びているが、特に東京−大阪(伊丹・関西)便の急成長は目立つ。この要因としては、大阪側に2つの空港があり広い地域からアクセスしやすくなったこと、シャトル便が設定されたこと、一部の便では値下げが図られたこと、などが効いているのだろう。これほどの需要の急伸は、東海道新幹線利用者の減少分を奪っただけではありえない。様々な施策により効用を増大させ、新規需要を開拓したという意味において、特筆に値する現象である。

 東京−広島便の伸びも目立つ。広島空港が山中に移転し、かつ山陽新幹線には「のぞみ」が年毎に増発され、競合条件は悪化しているはずなのに、利用者はかえって伸びている。これは「のぞみ」が利用者にどう認識されているかを端的に示す事象であろう。

 東京−岡山便及び名古屋−福岡便の動向とあわせて考えると、その傾向はさらに明瞭である(#)。これら路線の利用者の伸びの合計は、山陽新幹線の輸送密度減よりも小さい。このことから、5)のように分析できる。
     #:東京−福岡便は、新幹線利用者数が少ないうえ、航空側の施策により需要が急伸したと考えられるので、除外した。

   5)山陽新幹線の需要の落ちこみは、航空との競合激化というよりも、「のぞみ」の独り相撲と解するべきである。

 

■山陽「のぞみ」不振の原因

 山陽「のぞみ」は、施策としては明らかに失敗といえる。では、山陽「のぞみ」はなぜ受け容れられていないのか。厳密正確に分析するためには有意な統計(アンケート調査)が必要なところだが、以上までのデータから推測を試みてみよう。その第一は付加料金の設定である。付加料金不要の「ひかりレールスター」登場により輸送密度が上昇に転じたことが、その尤なる証である。利用者は、短縮時間と比べて「のぞみ料金」は高いと認識しているに違いない。

 しかし、それだけでは東海道区間での中距離利用者の伸びを説明できない。ここで考慮すべきは「座席の確保」であろう。例えば東京−名古屋間の利用者数が伸びることにより、東京−広島間の利用者が座席を確保しにくくなり、その状況に嫌気して旅行需要じたいが縮減しているのではないか(注)。

 もしこの推測が的中しているならば、本末転倒なねじれといえる。本来は長距離区間での競争力増強を企図した「のぞみ」であるはずなのに、中距離区間で需要を喚起する一方、長距離区間で競争力を失っているのでは、あべこべといわざるをえない。

 

【注に対する補足】

 新幹線の実乗時間2時間を超える区間では、同じ座席に固着されるという状況に飽きるため、航空に対して競争力がないという見方があるが、筆者はこれを棄却する。なぜなら、これを主たる理由として利用者が新幹線から航空にシフトするならば、もともとのパイが維持されるはずだからである。

 

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