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新参キャリア乗り比べ〜〜エア・ドゥ対スカイマーク
■いつもは JALを使うはずが
筆者は「鉄道ナショナリスト」を自称しているものの、実は JALのマイレージカードを持っていたりする。持つようになった理由は些細なことだが、一旦持ってしまえば習慣性はかなり強烈で、以後他のキャリアを使った経験はほとんどない。近頃 JALにはトラブルが多いとはいえ、なぜか他キャリアに流れる気になれないのだ。利用者の囲いこみという意味において、マイレージには相当な効能があるという一例である。
航空は JAL一筋、となった理由はもう一つある。割引チケットの利用がしやすくなったことが大きかったからだ。以前の割引チケットといえば、大抵ツアーと一体化しており、目的にマッチせず使いにくい場合が多かった。今日ではインターネットで前割チケットを簡単に入手できる。この手軽さは、昔を知る身としてはたいへんありがたい限りである。筆者の場合、スケジュールが直前まで固まらないことが多いから、前日まで割引率の高い前割が使えるメリットは大きい。
ところがこの夏、どうしても JALを使えない事態が出来した。羽田−千歳を往復する際、さすが観光ハイシーズンの真っ最中とあって、都合の良い便に空席がないのだ。特に千歳→羽田方向が深刻で、午前11時以降の便は全て満席という日さえあった。さらにいえば、空席があっても割引がないのが痛かった。前割の設定は皆無、どの便も正価でのチケット提供となっていたのにはこたえた(これは ANAも同様)。通常期には大手キャリア前割≒新参キャリア正規料金という近似式が成り立つのに、需要を踏まえて割引をしないというのである。
大手キャリアの繁忙期設定に対し、エア・ドゥとスカイマークは、観光ハイシーズン中であるにも関わらず「平常心」で格安チケットを提供している。といっても正規料金なのだが、需要を踏まえて割増をかけることもできるはずなのに、そうしないのは立派である。片道運賃が 1万円ほども違えば、マイルを犠牲にしても充分以上のお釣りがくる。そんな次第で、羽田→千歳にはエア・ドゥを、千歳→羽田にはスカイマークを、それぞれ使ってみることにした。
新千歳空港に着陸する日航機/離陸する全日空機 平成18(2006)年撮影
■印象薄いエア・ドゥ
早朝、羽田空港第2ターミナルにて搭乗手続をする。エア・ドゥのカウンターは遠い端にあるため、いささか煩わしい。日中の混んでいる時間帯であれば、さらにその感が強くなったかもしれない。もっとも後で知ったのだが、エア・ドゥは ANAとコードシェアしているため、 ANAの自動チェックイン機が使えたらしいのだ。不慣れというのは損である。
手荷物検査を済ませ、搭乗口まで移動する。搭乗口は54番と、これまた最も遠い端だ。新参キャリアはこのような点で不利な扱いを受けているといえる。まだ早い時間帯のため、人気が少ない様子もさびしい。これが JALの搭乗口であれば、開いている商店がいくつか近くにあり、雰囲気がまるで違ってくるのだが。
新千歳空港を離陸するエア・ドゥ機 平成17(2005)年撮影
エア・ドゥ11便は既に待機していた。毎度のことながら、パステルカラーの塗色からは貧弱な印象を受けてしまう。もっと強い色を選べなかったのだろうか。同便は ANA4711便とコードシェアで ANA割当分は満席、エア・ドゥ分も空席少々という状況であった。その割に搭乗口付近に賑々しさを感じられなかったのは、機材がB767-300と定員が少ないからであろうか。
乗機してみると、やはり JALとは様子が違う。外観とは異なり暖色系の配色で、印象はなかなか重厚だ。アテンダントに男性スタッフがおり、しかもいわゆるイケメン系である点も目を引く。シートは最狭のもので、利用者を最大限に詰めこむ設定となっている。
新聞は置いてあるものの、セルフサービスとなっている。飲物の提供があるのはありがたい一方、アテンダントが機内を回る頻度は少なく、サービスとしては些かものたりない。結果として、フライト中の空気は淡々としたものとなっている。後述するスカイマークが劇的なコストダウンを狙っているのと比べれば、どっちつかずで中途半端なサービス提供と評することができよう。
もっとも、所要時間は他のキャリアと同一である。離着陸の技量が劣るわけでもない。交通機関としての本質的な部分には大差はないのだ。大手キャリアの一般的なサービスか、スカイマークの格安ながら簡素すぎるサービスか、その中間的(妥協的ともいえる)位置づけにエア・ドゥは座を占めている。
■オシム流(笑)スカイマーク
夜中の新千歳空港ターミナルにて搭乗手続をする。スカイマークのカウンターも遠い端にあり、しかも手前に休業中の JALカウンターが並んでいるのが癪である。充分に余裕のある時間帯ではあったが、窓口でチェックインしなければならず、それなりの長さの行列が生じていた。自動チェックイン機にて事実上待ち時間ゼロで手続できる JALと比べると、やはり不便に感じる。数日前に予約した際にはまだ残席があったが、出発直前の今はほぼ満席。搭乗率低迷に喘いでいた羽田−千歳便も、観光ハイシーズンには席が埋まるようになってきた。
まず売店に立ち寄ってから手荷物検査を通ったところ、こちらは JALの利用者で大行列。これに対して、スカイマーク直近の手荷物検査はガラガラの状況。取り扱う便数の違いが大きく効いているとはいえ、集客力の違いがはかなくも示された断面といえる。搭乗口は18番、やはり最も端である。それでも、五月連休で見かけたような、
バス搭乗でないだけ
まだしもの状況である。満席になっているはずなのに、広い待合スペースに利用者が分散しており、混んでいる感じがしない。これは最端に押し籠まれた効用か。
新千歳空港に着陸するスカイマーク機 平成18(2006)年撮影
スカイマーク 730便はまだ待機していない。早めに搭乗手続したとはいえ、一瞬意外に思える。待つほどに 727便が到着。機材はエア・ドゥと同じくB767-300で、多くの利用者が降りてくる。おや、とここで気づく。到着してから出発まで60分を切っているではないか。時刻表で確かめてみると、羽田−福岡・千歳便では最短40分で折り返している。これは速い。
この予見があったゆえに、簡素すぎるほどの、素寒貧と形容しても決して過言でない低サービスへの印象がまったく変わった。機内誌はなく、新聞も置いていない。イヤホンもない。飲物は提供しない。アテンダントの巡回も極小といってよいほどに少なく、物販もしない。ないない尽くしの寒々しさだ。機内は至って静かで、まさに味も素っ気もなく、旅を楽しむ雰囲気はまるでないのが実態である。
以上のないない尽くしは、巷間いわれているような目先のコストダウンを追求したものではない。いうなれば、オシム流の「走る!」交通を目指したものだ。大手キャリアでは折返しに60分を要するところ、機内サービス極小化によりこれを40分まで短縮することが可能となった。 1回の折返しで20分縮めるならば、 5回も折り返せば片道分の所要時間に相当してしまう。最繁忙期におけるスカイマークは、羽田−千歳便 3機体制で実に10往復。羽田−福岡便でも同様である。たった 6機で20往復も稼ぎ回るとは、凄まじい韋駄天ぶりだ。スカイマークの機材は、
先の記事で紹介したJR北海道281・283系
よりも激しく酷使されているといえよう。
■簡単なまとめ
少ない機材を目一杯使いこなして稼ぎ回る、という一点がスカイマーク戦術の本質だが、これは一定水準以上の搭乗率確保が確信できなければ、ほんらい採りえない手法であろう。そのような戦術を新参キャリアが採る点に大きな無理がある。閑散期をどう切り抜けるか、ということも課題の一つだ。現に10月以降の羽田−千歳便では、 2機体制で 7往復に縮小される。
さらにいえば、この戦術はキャリア側の都合であり、一般的な利用者に理解を求めうるものではない点にも留意が必要である。いくら安価であっても、ワンマンバスなみの寒々しいサービスでは、満足感からはほど遠い。それでも安ければいい、チケットがとれればいい、という前提がなければ、選択肢にはのぼらないだろう。
少なくとも筆者は、このたびのような緊急避難時はともかく、今後も使おうという気になれなかった。離陸前に弁当を食べていると「飲物は如何ですか」と勧めてくれる JALの方が、乗っていても安心感があって心地よい。目下の不安は、大手キャリアが高サービス高価格路線、新参キャリアが低サービス低価格路線を追求して、折衷型がなくなることである。もっとも、それがほんらいの棲み分けであるはずなのだが、利用者としては自分に最も都合の良いサービス、即ち「高サービス低価格」を求めてしまうのである。
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