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古き地名が再び脚光を浴びる〜〜日暮里・舎人ライナー





■路線名と駅名が決まる

 通称「舎人新線」、ただしくは「新交通日暮里・舎人線」の正式な路線名が決定した。率直にいって、芸がないというか味も素っ気もないというか。「日暮里・舎人ライナー」だそうである。これに連動して、各駅名も以下のように決定されている。

決定駅名仮称駅名有力他候補
日暮里日暮里
西日暮里西日暮里
赤土小学校前赤土小学校
熊野前熊野前
足立小台足立小台
扇大橋扇大橋北
高野高野
江北江北
西新井大師西上沼田東公園新西新井
谷在家谷在家
舎人公園舎人公園
舎人舎人足立入谷
見沼代親水公園見沼代親水公園舎人


 ほとんどの駅名が仮称そのままか、少々いじった程度の変化にとどまっているが、 先の記事 でも紹介した「上沼田東公園」については、大幅な見直しが図られている。「西新井大師西」とは「新西新井」同様に練れない命名と評するしかないとはいえ、初詣参詣者数が全国でもトップレベルの名刹を駅名にとりいれることで、地域エゴと知名度向上の両立を目指したという意味で、なかなか巧妙な妥協案といえるだろう。東武鉄道の大師「前」に対し、西新井大師「西」という微妙な距離感の違いも、よく工夫されているといえる。もっとも、微妙すぎて利用者にうまく伝わるかどうか、という課題は残るが。

 実際のところ、西新井大師西駅から西新井大師まではバス停二区間ぶんの距離がある。いうまでもなく、歩いていくには些か遠い道のりではある。ただし、それは平常時の話であり、初詣の最繁忙期にはかなり離れた場所まで臨時駐車場が営業している実態を考えれば、あながち無茶な距離とまでは言い切れない。





■旧地名が再脚光を浴びる

 これら駅名を通してみると、足立区内の古い地名(旧自治体名)が再び脚光を浴びた、という点に尽きるだろう。先ほどの表を、この観点から再掲してみよう。

決定駅名旧地名沿革
足立小台小台村明治22(1989)年まで存在/合併により江北村に
扇大橋
高野高野村明治22(1989)年まで存在/合併により江北村に
江北江北村明治22(1989)年に8村合併により成立/昭和 7(1932)年に東京市編入※
西新井大師西西新井村明治22(1989)年に複雑な異動あり/昭和 7(1932)年に東京市編入※
谷在家谷在家村明治22(1989)年まで存在/合併により江北村に
舎人公園
舎人舎人村明治22(1989)年に舎人村・入谷村・古千谷村が合併し舎人村に/昭和 7(1932)年に東京市編入※
見沼代親水公園

※東京市からのち昭和18(1943)年に特別区としての足立区に改組


 よくぞフォローしたものだ、と感心するほどの駅名設定ではないか。足立区のローカルな地名史的観点からすれば、舎人を足立入谷として、見沼代親水公園を舎人としておけば、百点満点の駅名設定になったといえるだろう。舎人公園に伊興の名をも付けることができれば、さらに良しといったところか。

 ※そもそも見沼代という地名は、足立区内はもとより源流の埼玉県内にも存在しない。公園名の由来はいうまでもなく見沼代用水であり、その読みは「みぬまだい・ようすい」、即ち「見沼に代わる用水」とされている。これに対し、「みぬま・だいようすい」という切り方もありうると、筆者は見ている。もしこの見方が正しければ、「見沼代」を公園名とし、さらに日暮里・舎人ライナーの終点名とすることには、些か問題があると思わざるをえない。

 駅名設定ではかくも強い主体性を発揮した足立区であるが、路線名ではなんとも半端な妥協をしたものである。あるいは、妥協せざるをえなかった、と評する方がより正当か。足立区西部の公共交通機関なのだから、「足立ライナー」「はるかぜライナー」といった、足立区を前面に出した命名も可能であったはずだ。しかし、足立区西部にはめぼしい特色がないことも争えない事実であり、起点日暮里に「ひぐらしの里」を擁する荒川区に配慮しなければならない状況があったと、容易に想像できてしまうのである。

 日暮里・舎人ライナーなる面白味に欠けること甚だしい命名の背景には、もう一点交通政策上の問題点がひそんでいると筆者は見ている。東京7号線(東京メトロ南北線−埼玉高速鉄道)のルート選定によっては、日暮里・舎人ライナーは地下鉄により上位代替された可能性があると考えるからだが、これについては機会を改めて論じることとしたい。 





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■参考文献

 (1) 「 新交通システム『日暮里・舎人線』(仮称)路線名・駅名決定!」  (東京都交通局・東京都地下鉄建設)

 (2) 「 市町村の変遷 13:東京府(1) D:南足立郡(武蔵国)」  (石田諭司)

 (3) 「 近世用排水システムの結実,見沼代用水」  (農業土木学会)





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