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二十三枚の切符(カード)





■サッカー・ワールドカップ

 サッカーのワールドカップがいよいよ開幕した。今のところ、ドイツ・イングランド・アルゼンチンなど有力国が初戦に勝ち星を挙げている。さて、予選三戦で日本は如何なる活躍を見せてくれるだろうか。

 希望と願望を含めて、筆者には予測があるが、それは最後に。





■分厚い選手層

 日本は過去に二度ワールドカップに出場しており、今回が三回目の出場となる。まずはそのメンバーを見比べてみよう。

位置今回前回前々回
GK川口
土肥
楢崎
楢崎
川口
曽ヶ端
川口
楢崎
小島
DF宮本
田中※
中澤
坪井
三都主
加地
駒野
中田浩
森岡
松田
中田浩
秋田
宮本
服部
井原
秋田
小村
中西
相馬
名良橋
服部
斉藤
MF中村
中田英
福西
小野
小笠原
稲本
遠藤
森島
中田英
小野
稲本
明神
戸田
福西
小笠原
三都主
市川
中田英
名波
森島
平野
山口
伊東
小野
FW高原
柳沢
大黒
玉田
鈴木
柳沢
中山
西沢

呂比須
中山
岡野
※田中は負傷のため離脱。かわりに茂庭が代表入り。


 おそらくスポーツ選手全般に通じる話なのだろうが、日本代表となるサッカー選手とはなんとはかないのだろう。ドーハ世代の代表と見比べてみればさらに明瞭で、四年を経てさらに続けて代表選手に選ばれることが如何に難しいことか。フランス世代の中でも若く、伸びしろがまだまだあったはずの中西や城が、代表から外れて既に久しい。前回の守備で大活躍した森岡や明神や戸田も、攻撃面を重視する現体制にはマッチせず、今回代表選出時には候補のはるか圏外だった。その意味において、三大会連続出場となる川口・楢崎・中田英・小野の資質は驚異的である。

 また、今回の代表は選手層が極めて厚い点が特徴である。前回・前々回及びドーハ世代は、誰かが離脱すれば大きな痛手になる、という意味での脆さと危うさがあった。今回はその点で恵まれている。今回の選出から漏れた有力選手といえば久保・佐藤・松井・阿部・長谷部などがおり、いずれも今回代表選手に劣らぬものをもっている。多くの代表戦で守備を担ってきた田中の離脱は確かに痛いものの、すぐ茂庭を呼べるという贅沢さはなんだろう。

 仮定の話になるが、中村が負傷しても小笠原にまかせられるし、中田英がレッドカードを貰っても小野がいる。加地が出られなくとも中田浩がいる。土肥が川口・楢崎をも凌ぐ資質を持っていることは数少ない出場試合で立証済みだ。これは過去に例がない状況ではないか。だから、今回の日本代表は過去最強と評してさしつかえないと思われる。





■人選の基準

 今回代表FWに巻が選ばれ久保が落選したことは、世には「サプライズ」と報道された。しかし、ある観点からすれば当然きわまりない人選であったともいえる。これと対になるのが、代表に呼ばれたもののサブとなった小野である。

 久保は負傷で欠場していた時間がかなり長い。アジア一次予選のオマーン戦ロスタイムに決勝ゴールを決めたのはよかったが、これ以降一次予選・アジア杯・最終予選の大部分に欠場している。どの場面でも日本代表は苦しい戦いを強いられ、厳しい状況の中で記憶に残るゴールを決めたのは、柳沢であり大黒であった。

 さらに、実際の負傷回復状況を斟酌すべきとしても、横浜FMが久保の代表召集に消極的であった面は否めない。ジーコが久保を高く評価していることは明瞭だ。しかし、横浜FMがその評価に応えようとしなかったという事実は残る。その点が凝りとなって、人選基準に影響した可能性を指摘できる。もっとも横浜FMにとってみれば、有力選手を多数代表に呼ばれてしまい、Jリーグの試合運営に難儀しているわけで、この点を挙げておかなければ不公平であろう。小野についても実は同様のことがいえ、A代表よりも五輪代表オーバーエイジ枠を希望した事実が、ジーコの不興を買ったのかもしれない。

 それにしても、ジーコという人は、本当にわからない。長期に渡り日本代表をトレースしている「スポーツ・ナビ」の宇都宮徹壱氏をして、評価に相当なブレ幅を生じさせしめている。いったいどういう観点でチームを構成しようとしているのか。二十三枚の切符を得た顔ぶれからわかるのは、攻撃的な布陣をとるというただ一点のみである。

 筆者は当初、巻が選ばれたからには玉田とツートップを組ませ、アジア杯の再現を狙うのではないかと予想した。完全アウエーの逆風のなか、苦しい戦いを勝ち抜いて優勝した事績は、現日本代表にとって最も心に残る成功体験といえよう。当時のツートップは主に玉田と鈴木。ポスト役に徹し泥くさいゴールを決められる鈴木のかわりといえば、巻しかいるまいというのが筆者の読みだった。

 しかし、どうやらジーコは、柳沢・高原・大黒・玉田・巻の順で評価しているらしいのだ。ということは、アジア杯での成功体験は横に置き、別の雛形を求めていることになる。これは意外ともいえるが、過去の成功体験をなぞらないという意味では底知れない非凡な勝負師とも評せよう。宇都宮氏がいうところの「深遠なる存在」ジーコがどのような采配をふるうのか、具体的には誰を先発メンバーに選ぶのか、二十三枚のカードをどのように切るのか、目が離せない。

 もっとも、誰が出ても活躍できそうなのが、今の日本代表の強みである。その意味では安心できる一方、「○○に活躍してもらいたい」という個人的思い入れもあるので(苦笑)、やはり先発メンバーには要注目である。





■展開の予測

 さて、極めて個人的で、かつ希望願望こみの勝敗予測である(笑)。

国名
ブラジル
日本
クロアチア
オーストラリア


 二勝一分で意外にあっさり二位通過、というのが筆者の読みだ。勿論、今の日本代表が強いとはいえ、勝負の綾はどう転ぶかわからない。初戦のオーストラリア戦を落とさないことがポイント。引き分け以下であれば、後の展開が極めて苦しくなる。逆に勝ちを得れば、おおいに楽になるだろう。

 現実はどうなるか。まさしく目が離せない。







■初戦速報

 まいったぁ! オーストラリア戦、1−3というスコアも衝撃だが、それ以上に内容があまりにも悪く、絶望感すら覚える。敗因としては、

  1)追加点を奪えなかった攻撃陣の緩慢さ
  2)美技連発に驕って飛び出しすぎたGK川口の慢心
  3)後半足が止まった相手以上に動けなかった守備陣

 という三点を挙げられる。2)は個人の資質であるが、1)3)は「体力のなさ」と形容することも可能である。たいへんプリミティブな要素であるだけに、簡単に修正・挽回がきくものではなく、それゆえに絶望感を覚えざるをえないのだ。

 ラッキーな先取点を得て、リードしたまま後半に突入し、すっかりオーストラリア選手の足が止まった様子を見て、「これなら勝てる」と確信したのはひとり筆者だけではないだろう。実際のところ、オーストラリアの攻撃は淡泊で脅威が伴っていなかった。中盤での支配力こそ劣後し、結果として追加点こそ得られなかったものの、日本の攻めの老獪さは、フランス大会では決して見られなかったものだ。同点にされるまでは、実に安心して観戦できた。

 しかしながら、伏線はあった。坪井の交代がそれである。まだ詳報を得てはいないが、足がつったか痙攣したかで、おそらくは疲労性のもの。坪井には大怪我から復帰してきた履歴があるとはいえ、途中退場するほど消耗するには、あまりにも早い時間帯での出来事ではなかったか。

 本戦直前の親善試合、ドイツ戦及びマルタ戦でも、運動量がないという指摘があった。今大会に臨む日本代表選手は、スキルこそ過去最高水準ながら、三試合を戦い抜くだけの体力に欠ける、ガラス細工のようなもろさがあるという実態が見えてくる。次なる相手はクロアチア・ブラジルとさらに厳しい。まともな試合になるのか、というレベルでの不安さえ伴う。

 特に守備陣の手薄さはおおいに気になる。田中が離脱した現在、坪井が90分間フル出場できないとあれば、宮本・中澤・茂庭にサブ駒野・中田浩(・坪井)という組み合わせとなる。駒野は初戦既に攻撃的MFとして先発しているし、中田浩も攻撃参加が想定されている以上、選択肢が大幅に狭まってくる。

 この試合で先発した中田英・福西はともに「攻撃的ボランチ」であって、今のチームには中盤に「専守防衛」的選手がいない。柳沢に代え小野を投入した判断も、中田英・福西・小野と強力な選手で守備固めしておけば光ったのに、中途半端に攻撃的な布陣となり、ほころびを招いてしまった。後半ロスタイム茂庭に代え大黒を投入したのは、敗勢に焦るあまりの大失策と評すべきで、やらなくてもよい三点目まで献上してしまった。

 そう。今大会の日本代表チーム最大の特徴は、攻撃を重視するあまり守備が軽視されている点にある。DF登録の三都主・駒野が攻撃的MFを務めた布陣が、その尤なる証だ。この特徴が、W杯本戦という土壇場で、大きな弱点となって顕現した。観戦する側としては不安に苛まれるばかりだが、ともあれ残り二戦、守備的布陣を採ることを含め、最善を尽くしてほしいものだ。





■第二戦速報

 なんという凡戦。これが本当にW杯の試合なんだろうか、という疑いさえ持ってしまう。日本の穴だらけの守備網をクロアチアはこじ開けられなかったし、日本は日本で超攻撃的布陣を採りながらも攻撃に精彩を欠いた。クロアチアはあれだけ攻めこみ、PKなど決定的場面を随所に展開したものの、詰まるところ日本ゴールに脅威を与えることがなかった。日本はクロアチアの固い守備陣をまるで抜けなかった。

 相互にカウンター攻撃を繰り返し、攻めながらも攻めきれず、相互にスタミナ切れで力尽きてしまうという、観ていてなんとも切ない試合になってしまった。初戦の経過を見ると、ジーコ采配には批判の余地があると感じたが、第二戦の先発・途中交代は相応に的確であり、それでいながらこの結末とは、選手側にも大きな課題があると考えざるをえない。技術や決定力以前に、前後半90分をたたかいぬく体力に欠けるのでは、やはり勝利を得ることは難しいだろう。

 予選突破はもはや絶望的な状況だが、敗退が決まったわけでもない。最終戦に向けて、ひとはな咲かせてもらいたいものだ。





■第三戦速報

 さすがに起きられず、後半から観戦。正直なところ、言葉もない。ブラジルは、強い。圧倒的に強い。

 一失点目は守備陣の穴、二失点目はGK川口のミスと思えるが、三失点目、四失点目はどうしようもないレベルで、これこそまさに力量差と形容するしかないだろう。ブラジルの守備がまた実に固い。玉田が先制点を挙げたものの、後半は相手に脅威を与える場面がほとんどなかった。

 かくして日本はF組最下位、予選敗退となった。負けに不思議の負けなし。世界の壁はまだまだ厚い。実は今の日本代表チームは「初めて」の成果をいくつかかちとっているのだが、やはり勝ち抜けないと輝けない。中村の寡黙なインタビュー、中田英が倒れこんで起きあがれない、という事実に、「こんなはずではなかった」選手たちの悔しさ無念さを感じられる。まさしく残念無念。総括レビューはまたのちほど。





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