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二十三枚の切符(カード)【南アフリカ大会版】





■サッカー・ワールドカップ

 南アフリカでのサッカー・ワールドカップがいよいよ開幕した。たいへん遺憾ながら、過去三大会とは異なり期待や高揚感を持てない状況となっている。これは筆者のみならず、多くの方に共有される一種の「諦念」であろう。勝ってほしい、という気持は無論ある。ところが、実際に勝つ道筋を歩んでいるか、という確信を持ちようがない。……より正確にいえば、持ちようがなかった。





■脆弱な選手層

 日本は過去に三度ワールドカップに出場しており、今回が四回目の出場となる。まずはそのメンバーを見比べてみよう。

位置南ア日韓
GK楢崎
川島
川口
川口
土肥
楢崎
楢崎
川口
曽ヶ端
川口
楢崎
小島
DF中澤
闘莉王
内田
長友
今野
駒野
岩政
宮本
田中※
中澤
坪井
三都主
加地
駒野
中田浩
森岡
松田
中田浩
秋田
宮本
服部
井原
秋田
小村
中西
相馬
名良橋
服部
斉藤
MF中村俊
遠藤
長谷部
本田
松井
阿部
中村憲
稲本
大久保
中村俊
中田英
福西
小野
小笠原
稲本
遠藤
森島
中田英
小野
稲本
明神
戸田
福西
小笠原
三都主
市川
中田英
名波
森島
平野
山口
伊東
小野
FW岡崎
森本
玉田
矢野
高原
柳沢
大黒
玉田
鈴木
柳沢
中山
西沢

呂比須
中山
岡野


 どのようなカードを選ぶかについては、過去三大会と比べても遜色ないどころか、最もよく戦える可能性をも秘めている。個別具体には、大久保でなく田中達也だろう、矢野でなく前田だろう、川口でなく若手だろう、……といった批判的意見はありうるが、この際あまり重要ではない。

 代表の人選にかかわりなく、今回日本代表は脆弱な要素が強すぎるといわざるをえない。セルジオ越後は辛辣にも「予選でのベスト四(=最下位)は確定だ」と言い切っていたが、筆者もほぼ同意見である。

 なぜそのように悲観するかといえば、アジア予選及びその後の強化試合を通じ、あまりにも固定的なメンバーで戦ってきたからである。岡田監督が構想しているベストメンバー(事前段階)は、おそらく以下のとおりであろう。

GK楢崎
DF中澤・闘莉王・内田・長友
MF守遠藤・長谷部
MF攻中村俊・本田・松井
FW岡崎
サブ川島・稲本・阿部・中村憲・玉田


 この人選じたいは決して悪くない。ただし全員がベストコンディションならば、という前提条件付である。不調・故障は充分にありうるし、警告による出場停止も想定すべきである。前回ドイツ大会では、たった三試合を戦っただけで故障・出場停止で櫛の歯が欠け、ブラジル戦では惨憺たる状況に陥ったではないか。

 今回においても、中村俊・玉田・遠藤・内田らが不調・故障で出られず、闘莉王が警告累積で出場停止という事態がおおいに考えられる。その際、誰がメンバーとなりうるか。

GK楢崎
DF中澤・長友・今野・駒野
MF守長谷部・阿部
MF攻本田・松井・中村憲
FW岡崎
サブ川島・岩政・稲本・大久保・森本


 これでは、とても勝てるとは思えない。試合に出すメンバーを固定化するあまり、主力選手の疲弊を蓄積させ、控え選手の士気を阻喪させ、さらに戦術の硬直化(望ましくない事態における対応能力の低さともいえる)を招いた岡田監督の責任は重いと指摘せざるをえない。





■守備軽視はあいかわらず

 守備軽視という悪癖もなおっていない。4−2−3−1はそもそも攻撃的な布陣であるうえ、闘莉王が攻め上がるため守備網に穴があきやすい。トルシエ(日韓大会の日本代表監督)が「日本は3バックにすべきだ」と意見しているが、センターバックを3名にせよ(5−2−2−1)という主旨であればまったく正論だと思える。

 よく決定力(得点力)不足が指摘される日本代表。しかし、所詮サッカーの試合である以上、一試合に4点も5点もとれるわけがない。まして相手は全て格上なのだ。無失点に抑えたうえで虎の子の得点を守る、という展開にならざるをえまい。そんなわかりきったことなのに、守備が軽視され続けたのは納得しがたい。

 高い理想を掲げながら達成できず、かといって現実を直視した地道な対策をするわけでもない。特定選手の重用は、思考停止と裏表の事象といえる。このまま三戦惨敗となれば岡田監督の責任はきわめて重く、また岡田監督をしかるべき時点で更迭しなかった協会にも連帯責任があるはずだ。

 ほかにも現日本代表にはさまざまな問題が内包されている。特にアジア予選時点が選手としての最盛期(ないしは最盛期をやや過ぎた時期)にあたる選手を中心に起用し続けてきた弊害は大きい(主力選手の疲弊の根はここにあるとさえいえる)。しかし、これら他問題が霞んで見えるほど、固定メンバー偏重と守備軽視という二点の問題は大きく重い。





■本大会直前の変貌

 以上二点の問題について、予想を良い方向で裏切る形で、岡田監督は事態を打開しつつある。本大会直前だというのに、不調の選手を控えに回し、かつ守備重視の陣形を布こうとしているのである。

位置イングランド戦スタメン筆者事前想定(4-3-2-1)筆者事前想定(4-4-2-0)
GK川島楢崎楢崎
DF中澤・闘莉王・今野・長友中澤・闘莉王・駒野・長友中澤・闘莉王・駒野・長友
MF守遠藤・長谷部・阿部遠藤・長谷部・稲本遠藤・長谷部・稲本・阿部
MF攻本田・大久保本田・松井本田・松井
FW岡崎岡崎


 イングランド戦前の段階で、4−3−2−1ならば誰を起用しても(誰が欠場する事態になっても)据わりがいいのではと筆者は考えたのだが、まさか岡田監督が同様の着想を持って臨むとは想定外だった(なおイングランド戦では阿部の位置はアンカーで4−1−4−1に相当すると報道されていた)。

 この布陣ならば、守備を充実させられるうえ、さらに数名欠けても対応が充分に可能である。闘莉王が出場停止になっても岩政を充てればよい。日本代表では精彩を欠いている岩政とはいえ、守備重視で試合を展開する限りは存分に活躍できるだろう。遠藤が怪我をしても中村憲が代役を務められる。

 その後さらに、本田をワントップに、長谷部をトップ下にするなど、多分にいじりすぎの懸念も伴うようになってはいるが、前回大会の悪癖から脱却しつつあることは確実で、その点は評価できる。重用されていた特定選手の危機感を呼び起こしただけでなく、戦術を大転換することで全選手に強い刺激を与えた手腕は卓抜である。

 岡田監督は既に迷将・凡将の呼び声高いとはいえ、最初からこの事態を想定して人選をしたのであれば、途方もなくしたたかな智将と評価される可能性さえある。今まで依存し続けてきた中村俊さらに楢崎を大会直前に控えに回し、人選・布陣から戦術までいわゆるガラガラポンで再構築してしまうあたり、率直にいって侮りがたい。

 いうまでもなく、一連の決断には大きな危険が伴う。チームをいじりすぎて機能しなくなり、戦術が破綻して三戦すべて惨敗という事態におちいるおそれもある。その一方で、チームを劇的に改革し、目標である「予選突破のうえベスト四」を達成する芽も残された。要するに、岡田監督は全てかゼロかの賭けに出たわけだ。

 強いチームが勝つのではなく、勝ったチームが強いのである。……この言葉に日本代表があてはまるよう、念願されてならない。





■蛇足ながら

 今大会の鍵を握る選手は、おそらく長谷部誠であろうと筆者は見る。週刊少年サンデー27号に掲載された「長谷部誠物語」には泣けた。ゲームキャプテンが長谷部に委ねられる気配であり、なおさら活躍が望まれるところである。





予選初戦のカメルーン戦直前に記す

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